死の谷間_男2美女1の集団がうまく回るはずがない【4点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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終末
終末

(2015年 アメリカ)
たった3人しか出演者のいないミニマムな文明崩壊ものであり、主演3人(マーゴット・ロビー、キウェルテ・イジョフォー、クリス・パイン)のおかげで何とか見られる状態にはなっているものの、全体としてはつまらない映画でした。15分で説明できるような話を長編枠に拡大しているので内容が薄いこと。見なくても良かったかなという感想です。

http://hark3.com/shinotanima/

あらすじ

核戦争後の未来。世界は放射線で汚染され人類はほぼ死に絶えていたが、アン・バーデン(マーゴット・ロビー)が住む谷間だけは汚染を免れていた。ある日、谷間に防護服姿の男が現れる。男の名はジョン・ルーミス(キウェルテ・イジョフォー)と言い、優秀なエンジニアだということだが、汚染を知らずに滝で水浴びをしてしまったことから体調を崩した。アンによる看護で回復したジョンは、谷間で一緒に生活することにする。

スタッフ・キャスト

監督は『コンプライアンス服従の心理』のクレイグ・ゾベル

1985年ニューヨーク州出身。長編デビュー作であるコメディ映画『Great World of Sound』(2007年)がナショナル・ボード・オブ・レビューの「今年のインディペンデント映画トップ10」に選ばれるという高評価を獲得。

実話をベースにしたスリラー『コンプライアンス服従の心理』(2012年)も引き続き高評価を獲得しての、本作が長編3作目となります。

主演は『スーサイド・スクワッド』のマーゴット・ロビー

1990年オーストラリア出身。母国オーストラリアでの活動を経て、テレビドラマ『PAN AM/パンナム』(2011-2012年)でアメリカ進出。マーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)で知名度を高めました。

本作には当初アマンダ・サイフリッドが主演する予定だったのですが、スケジュールの競合で出演できなくなり、その代打でマーゴット・ロビーに白羽の矢が立ったという経緯があります。

以降の大活躍はご存知の通りで、DCコミックの『スーサイド・スクワッド』(2016年)は作品評はガタガタながらもマーゴット・ロビーが演じるハーレイ・クインだけは良いという評価を獲得し、彼女だけにフィーチャーした続編『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』(2020年)に繋がりました。

自らプロデューサーも務めた『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年)でアカデミー主演女優賞ノミネート、クェンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)でシャロン・テート役を演じ、『スキャンダル』(2019年)ではアカデミー助演女優賞にノミネートされました。

『それでも夜は明ける』のキウェルテ・イジョフォー出演

1974年ロンドン出身。舞台俳優として活躍した後に、スティーヴン・スピルバーグ監督の『アミスタッド』(1998年)で映画界に進出。

スパイク・リー監督の『インサイド・マン』(2006年)、アルフォンソ・キュアロン監督の『トゥモロー・ワールド』(2006年)、リドリー・スコット監督の『アメリカン・ギャングスター』(2007年)と巨匠たちの監督作に次々と出演した後に、アカデミー賞受賞作『それでも夜は明ける』(2012年)の主人公ソロモン役を演じ、自身もアカデミー主演男優賞にノミネートされました。

『ワンダーウーマン』のクリス・パイン出演

1980年LA出身。2003年にテレビドラマ『ER緊急救命室』でデビューし、『プリティ・プリンセス2』(2004年)で映画界に進出。リブート版『スター・トレック』(2009年)で主人公ジェームズ・T・カーク役を演じ、続編2本も製作されました。

本作後にはDCコミックの大ヒット作『ワンダーウーマン』(2017年)に出演し、その続編『ワンダーウーマン1984』(2020年)にも続投します。

登場人物

  • アン・バーデン(マーゴット・ロビー):家族と共に谷間で暮らしていたが、家族は生存者を探しに出たまま帰ってこないことから、現在は飼い犬との生活を送っている。人に飢えており、来訪者を家に上げたがるところがある。
  • ジョン・ルーミス(キウェルテ・イジョフォー):優秀なエンジニアで、防護服を着て安全な地を探していた。ガイガーカウンターの反応しない谷間を発見して浮かれたのも束の間、汚染水の含まれる滝で行水をしてしまい体調を崩したうっかりさん。持参していた薬品とアンの看病のおかげで回復した後には、そのままアンの家で暮らすようになった。マーゴット・ロビーからの夜のお誘いを受けても「良い関係でいたい」と言って断るほどの強靭なメンタルを持つ。
  • ケイレブ(クリス・パイン):谷間から80km離れた鉱山で働いており、地下にいたおかげで放射線を免れて生きて来られた。ある日谷間に姿を現わし、一晩だけ泊めてもらうつもりだったが、放射線で体調を崩しておりジョンから二日間の静養を勧められたことや、人に飢えたアンが部屋を準備し始めたこと、また発電所建設のための人手が必要だったことから、しばらく谷間に居付くことになった。

感想

抑揚がなくダラダラと続く物語

核戦争後の世界を舞台にはしているものの、荒涼とした砂漠で暴走族がガソリン一滴のために殺戮を繰り広げるような話ではありません。

街が豪快に破壊されているということもなく、管理者たる人間が居なくなったので朽ちてきているという雰囲気。野山は青々としており、破壊の混沌ではなく、破滅後の静寂が前面に押し出されています。

そんな世界観・作風なので出てくる人物もみな理性的。アン(マーゴット・ロビー)は愛犬と共に自分に課した日課を黙々とこなしているという『アイ・アム・レジェンド』(2007年)のウィル・スミスのようなキャラクターです。

そこに現れるジョン(キウェルテ・イジョフォー)も、マーゴット・ロビーと二人っきりで生活できるという男を野獣に変えかねないシチュエーションがあっても、決して欲望に流されることなく(酒を飲んだ時を除く)、「長く続く関係を維持したいので、今は関係を急がないことだ」などと聖人のようなことを言います。

ケイレブ(クリス・パイン)も同じく。元鉱山夫という設定から、この楽園を奪い取るための頭の悪い策謀を巡らせるのかとの期待がよぎったのですが、「一晩泊めていただければ僕は退散しますので」と、実に礼儀正しい態度を貫きます。

こんな感じで礼儀正しいキャラクター達のドラマが特に起伏もなく進んでいくので、見ている間は壮絶な退屈さとの戦い。98分という短めの上映時間ながら、体感時間はその倍ほどもありました。

鑑賞後にあたった資料では、監督はアンドレイ・タルコフスキーを意識したとのことであり、なるほどなという感じでした。

文明破滅後のファムファタール

主人公アンは敬虔で正直な女性です。基本的には良い人間と思ってもいいでしょう。

しかし家の中に男性が二人となってからの、無意識のセクシーアピールは男からするとキツイものがありましたね。彼女自身に他意はないのでしょうが、ノースリーブ姿で酒に酔い、ちょっと無防備な雰囲気を出されると、「アンをどうにかしたい!」となってしまうのが男の悲しい性です。

そのアピールにケイレブが落ちて一夜を共にするのですが、もう一方のジョンが自分に気があることを知っていて、アンは翌朝わざわざ意味深な行動を取り、男二人だけにするわけです。ジョンに対して「昨夜はどうかしていたの。赦して」と、このコミュニティを維持するためには言わない方がいい罪の告白までをしてしまうし。

純粋な彼女のことなのでセクシーアピールをしている気なんてないのだろうし、罪の告白も心の清らかさから「黙っていてはいけない」という感覚からくるものなのかもしれませんが、やっていることは犯罪ノワールに登場するファムファタールとさして変わりません。

で、ジョンは発電所建設という目的を達成して不要になったケイレブを殺してしまうわけです。殺人の場面はぼやかされていましたが、現場のあの雰囲気や、一人で帰ってきたジョンの表情を見れば、そこで何が起こったのかは明らかです。

本作を見て思い出したのは、第二次世界大戦中に起きたアナタハンの女王事件です。

太平洋の孤島アナタハン島で、この島に派遣された32人の男と1人の女Hが共同生活していくうちに、男性達がその女性を巡って争うようになり、男性が次々に行方不明になったり殺害されたりした。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%82%BF%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%A5%B3%E7%8E%8B%E4%BA%8B%E4%BB%B6

一人の女性を巡って男たちのタガが外れる。本作の登場人物はみな理性的な人物でしたが、それでも最後に起こったのは殺人でした。嫉妬や独占欲が絡む男女関係の維持がいかに難しいかを、3人というミニマムな状況で描き出した点は本作の数少ない長所だと言えます。

ただしそれまでがあまりに退屈すぎて、映画全体の出来は芳しくないのですが。

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