日本沈没(1973年)_暑苦しい演技とおかしなドラマ【4点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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終末
終末

(1973年 日本)
2020年7月8日より配信開始のNetflixのアニメ版の予習として鑑賞したのですが、時代を感じさせる出来で、現在の目で鑑賞するとなかなか厳しい仕上がりだと感じました。日本映画特有のもっさりとした人間ドラマ、多くの登場人物を配置したことが裏目に出た散漫な展開など、欠点が多く目につきました。特撮映画としては見応えがあったんですけどね。

©TOHO

あらすじ

小笠原諸島の小島が一夜にして沈んだことを受け、地球物理学者の田所博士(小林佳樹)は、深海調査艇「わだつみ」の操縦士である小野寺(藤岡弘)と共に日本海溝の調査へと向かう。そこで奇妙な亀裂を発見した田所は、マントル流に異変が起こっているとして日本列島が沈没する可能性に言及する。田所の仮説は学会では冷笑されたが、政界のフィクサーである渡老人(島田正吾)はこれに関心を示し、山本総理大臣(丹波哲郎)に資金と人材を集めさせて田所の学説を検証するための「D計画」を実行に移す。

スタッフ・キャスト

製作は大プロデューサー田中友幸

1910年大阪府出身。特撮映画・アクション映画を多数プロデュースしており、『ゴジラ』(1954年)の生みの親として有名です。また黒澤明作品も手掛けており、東宝の制作部門のトップとして没年である86歳まで作品をリリースし続けました。

従来、東宝は喜劇やドラマなど小市民カラーの強い映画会社でしたが、田中が特撮分野やアクション分野を開拓し、日本の興行記録を複数回に渡って更新したことから、東宝の企業カラーまでが一新されました。

エメリッヒ版『GODZILLA』(1998年)では、エンドクレジットに「田中友幸の思い出に捧ぐ」という追悼文が記されています。

監督は70年代のヒットメーカー森谷司郎

1931年東京府(現東京都)出身。早稲田大学卒業後に助監督として東宝に入社し、成瀬巳喜男・黒澤明の作品で助監督を務めました。

加山雄三主演の『ゼロ・ファイター 大空戦』(1966年)で監督デビューを果たし、元黒澤組ということで白羽の矢が立てられた本作の大ヒットでヒットメーカーの仲間入りを果たしました。

続いて、日本映画史上もっとも過酷な撮影現場とも言われた『八甲田山』(1977年)を苦難の末に完成させた上に、興行的にも大成功に導きました。

1984年に53歳の若さで逝去。

脚本は橋本忍

1918年兵庫県出身。国鉄勤務を経て陸軍歩兵連隊に入隊しましたが、結核にかかり永久服役免除。療養中に読んだ映画の本に触発されて脚本家を志し、軍需会社に勤務しながら脚本を執筆しました。

1949年にサラリーマン生活を送りながら芥川龍之介の『藪の中』を脚色したのですが、これが黒澤明監督の『羅生門』(1950年)として映画化されて、ヴェネツィア国際映画祭グランプリを受賞。その直後に会社を退社して専業脚本家となりました。

続けて『生きる』(1952年)、『七人の侍』(1954年)、『悪い奴ほどよく眠る』(1960年)などの黒澤明監督作品の脚本を執筆。他に『ゼロの焦点』(1961年)、『切腹』(1962年)、『白い巨塔』(1966年)、『日本のいちばん長い日』(1967年)なども手掛け、日本映画界最強の脚本家となりました。

テレビドラマ『私は貝になりたい』(1958年)で監督デビューし、監督としても高い評価を獲得。中居正広が主演した2008年版の脚本も執筆しています。

1970年代に入ると『砂の器』(1974年)、『八甲田山』(1977年)、『八つ墓村』(1977年)と、さらに大ヒット作を連発しました。

作品概要

小松左京の小説を映画化

本作の原作となる小説版『日本沈没』(1973年)は、SF小説家小松左京が9年がかりで執筆した長編であり、1973年3月に上下2巻を同時敢行するや、合計385万部を売り上げる大ベストセラーとなりました。

出版前から映画化権を押さえていた東宝は、ブーム加熱中に映画版を製作・公開することを決定。1973年9月に製作発表し、同年12月29日に公開するという突貫での製作となりました。

そんな短い製作期間をものともせず作品は好評をもって迎えられ、邦画斜陽期にあって観客動員数880万人、1974年の年間配給収入第1位を記録しました。

感想

大袈裟な演技、湿っぽい話が緊張感を削ぐ

本作のクレジット上のトップは田所博士役の小林佳樹なのですが、日本が滅びるという事実に誰よりも早く気付いた者としての焦り、狂気に足を踏み入れる寸前の演技がとにかく濃くて不自然でした。

この人の場合、狂気というよりも常にイライラして誰かを怒鳴り散らしているだけであり、演技が表層的すぎて日本の将来を憂いておかしくなりそうになっている人に見えてこないのです。

濃いと言えば実質的な主人公と言える小野寺役の藤岡弘も同じくで、顔も演技も濃い。一言一言腹の底から絞り出してくるかのようなセリフ回しの特有の間が変だったし、表情も強張り過ぎです。

大阪で実兄とてっちりを食べた後、絶望の余り深酒をしてフラフラと街を彷徨う場面などは、あまりの熱演ぶりにおかしなことになっていました。そして、偶然ぶつかった相手がちょっと前に恋仲になったけど火山噴火騒動で有耶無耶になっていたいしだあゆみで「あ、お久しぶり」って、一体どんな急展開なんだと(笑)。

このように本作は大袈裟な演技が多い上に、ミドルショットでほとんど動きのないカメラワークと編集のために、演劇でも見せられているような気分になりました。

加えて、話の内容も湿っぽくて緊張感がありません。1年足らずで日本列島が海に沈むことに気付いた科学者と政治家の奮闘の物語の割には私情が前に出過ぎており、逆に緊迫感が削がれています。

私はカタストロフもの映画の成功例としてダニー・ボイル監督の『サンシャイン2057』(2007年)をよく引き合いに出すのですが、あの映画の登場人物達は私情や個人の生存本能をほぼ捨て去っているんですよね。

億単位の人間の命運を握らされた人間って、あの領域に突き抜けてしまうんじゃないかと思います。そういった点で『サンシャイン2057』にはリアリティを感じたし、一方で個人レベルの関心事を断ち切れていない本作の登場人物達には違和感を持ちました。1名の素晴らしいキャラクターを除いては…

丹波哲郎演じる山本総理が良すぎる

この未曽有の災害対策を引き受ける山本総理(丹波哲郎)、この人物だけは良すぎました。

もともとは凡庸な総理大臣で、大事を成し遂げないまま任期を終えるタイプだったのですが、日本沈没という危機を受けて、その対策を一身に引き受ける覚悟を決めます。

それもむくむくと沸き起こる英雄志向に基づく積極的な関与ではなく、事態が発覚したのが自分の時だし、辞めて後任者に引き継がせるわけにもいかない。否が応にも自分がやるしかないのだという消極的な点が、逆に燃えさせます。

演じる丹波哲郎はセリフを覚えてこない俳優として悪名高いのですが、こと本作においては、他の俳優達が力み過ぎた演技でおかしなことになっていることと比較すると、カンペを滔々と読み上げるだけの演技が逆にナチュラルで良い効果を発揮しています。

このリーダー像は『インデペンデンス・デイ』(1996年)のホイットモア大統領に完コピされており、ローランド・エメリッヒは本作を見ていろいろと影響を受けているのではないかと私は推測しています。陸地が沈むという設定なんて、まんま『2012』(2009年)に引き継がれているし。

特撮魂全開の大規模破壊

本作のハイライトは中盤における東京大地震なのですが、倒壊、火災、津波という災害のフルコース状態で楽しめました。

もちろん50年近く前の映画なので技術的制約条件はかなりあって、現在の目で見るとリアリティを感じるレベルではありません。ただし作り込まれた巨大ジオラマが破壊される様には特撮魂が宿っており、これはこれで良いものです。

特撮監督が「爆破の中野」でお馴染みの中野昭慶だけあってコンビナート爆破には特に力が入っており、その火炎の美しさには息を飲みました。

続く津波の場面はジオラマに実際に水を流して撮影しているのですが、コントロールの難しい水を操って一発勝負の撮影をこなしているのだから、本作スタッフ達の高い熟練度が伺えます。

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