[2016年アメリカ]
3点/10点満点中
■キャストとスタッフについて
ケヴィン・コスナー(『マン・オブ・スティール』)、ゲイリー・オールドマン(『ダークナイト』三部作)、トミー・リー・ジョーンズ(『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』)、ガル・ガドット(『ワンダーウーマン』)、ライアン・レイノルズ(『ブレイド3』『グリーンランタン』『デッドプール』)とキャストにはアメコミ映画経験者がやたら目立つのですが、同時にケヴィン・コスナー、ゲイリー・オールドマン、トミー・リー・ジョーンズはオリバー・ストーン監督の重厚な社会派サスペンス『JFK』の出演者でもあり、この辺りから本作のキャスティングの狙いは見えるような気がしました。
脚本を書いたのはダグラス・クックとデヴィッド・ワーズバーグというコンビで活動する脚本家なのですが、彼らの名前がクレジットされる作品は1999年にトミー・リー・ジョーンズが主演した『ダブル・ジョパディ』以来実に17年ぶり。17年間何をして暮らしてたんだろうかとちょっと気になったりもしました。
彼らの代表作は1996年の『ザ・ロック』であり、長期間収監されていた初老を激しいアクション映画の主人公に据えるという本作の発想は『ザ・ロック』と同様のものです。本作の主演にまずオファーされたのはニコラス・ケイジだったとか。
監督は実在の殺し屋を実にヌルく映画化した『THE ICEMAN 氷の処刑人』のアリエル・ヴロメンなのですが、当該作品同様に本作もドラマとアクションのハイブリッドどころか、どちらにも振り切れていないハンパな作品に仕上がっています。
■ケヴィン・コスナーが主演する意味なし
そもそも極悪人に見えないケヴィン・コスナーがなぜ犯罪者役なんだろうかということが、本作に接触して最初に感じたことでした。
この内容であればCIAエージェントと犯罪者を同世代に設定した方が残された家族との関係をスムーズに展開できたと思うのですが、家族にとっておじいちゃんの年齢であるケヴィン・コスナーを配置したことで、ドラマの意味合いが変質したように感じました。また、62歳のコスナーではアクションのキレも悪く、見せ場の質を低下させる要因の一つにもなっています。
当のコスナー自身もこの役柄になぜ自分なのかというキャスティングの意図がよく分からなかったようなのですが、当事者すら理解できなかったこのトリッキーなキャスティングは見事に失敗しています。
■サスペンスアクションとして盛り上がらない
CIAエージェントが敵の手から逃れるジェイソン・ボーンみたいな逃走劇から作品は幕を開けるのですが、この掴みでは全然ワクワクもハラハラもさせられませんでした。以降もコンスタントに見せ場をぶっこまれてはいるのですが、どれも目を楽しませる程の完成度には達しておらず、この監督はアクションを撮るのが下手だなぁと感じました。
サスペンスとしてもイマイチであり、ジェリコはまずビルが隠したカバンを追っているのですが、世界の軍事バランスを一変させるソフトウェアの争奪戦において、このカバンは一体どういう位置づけにあるのかという整理ができていないために、主人公が何やってんだかよく分からないという状況が発生しています。
また、ちょいちょい登場するハッキング技術が何でもあり過ぎて、見ていて萎えることもマイナスでした。さらに、48時間でジェリコの記憶は消えるから、それまでに目的に到達しなければならないというタイムリミットも有効に機能しておらず、サスペンスアクションとしてはまるで盛り上がりませんでした。
■ポリティカルスリラーとしてまとめられていない
本作にはポリティカルスリラーとしての側面もありました。アナーキストの実業家が部下の天才プログラマーに米軍の兵器制御システムを乗っ取るソフトウェアを開発させたが、常識人だったプログラマーはこんなものを気の狂った上司に納品するとえらいことになると判断し、まずアメリカ政府に身柄の保護を求めます。
しかし保護を担当したCIAがバカの一団だったことからアメリカは信用ならんと感じたプログラマーは、今度はロシア政府を頼ろうとします。軍事バランスを壊すこの魔法の杖が自分たちの懐に転がり込んでくるとあってはロシア政府もこの要請に大乗り気であり、ここにアナーキスト、アメリカ政府、ロシア政府による三つ巴の争奪戦が始まるのですが、この込み入った構図を面白い形で観客に伝えることには完全に失敗しています。
途中からロシア政府が関与していた件なんて、レビューを書くためにあらすじを思い出した段階でようやく私の意識に飛び込んできたくらい薄い薄い印象に留まっていたし、アナーキスト達が一体何を目指しているのか、渦中のプログラマーが一体何を考えているのかといった各自の主義や行動原理すらよく整理されていないので、本来は興味深かったはずの設定がことごとく上滑りしています。
■CIAがバカ
任務の最中であるビルをCIAが見失って敵に殺されたという発端部分からしてバカであり、その後も彼らは安定的にバカな行為を繰り返してクライマックスにまで推移するため、とても見ていられませんでした。
記憶移植手術はCIAからの依頼で実行されるのですが、事前に「実験的な手術で人間に対してやるのは初めてだ」とトミー・リー博士からさんざん念を押されており、実際、手術の途中では相当危険な状態に陥ったものの、彼らは手術明けでいきなりジェリコを尋問。そして、まだジェリコにビルの記憶が反映されていないようだと見るや、手術は失敗だと異常に早急な判断を下してブーブー文句を言い出すというアホなクレーマーみたいな行動をとります。様子見って言葉を知らないんでしょうか。
また、甘い護送体制からジェリコを逃走させてしまうわ、不慣れなロンドンでジェリコが足を運ぶ可能性の高いビルの家をノーマークにしてるわ、敵のかく乱作戦に何度も何度もハマるわ、目標に近づいているジェリコを邪魔するわで、尋常ではないドン臭さを披露し、挙句には大事な記憶が詰まっているジェリコの頭をボコボコ殴るというコントみたいなことまでを始めます。
せっかくゲイリー・オールドマンをキャスティングしているのに、CIAをここまでの低能集団に見せてしまった脚本家と監督の不手際にはガッカリでした。
■感動的ではないドラマ
本作の概要は『フェイス/オフ』によく似ており、SF的な医療技術を設定の核部分に据えた上で、正義の立場を与えられた極悪人がどう変化していくのかというドラマがその骨子となっています。
ある人を善人と悪人とに分けるものとはその個人が本来持つ資質なのか、それとも記憶や与えられた役割といった後天的な要素なのかという哲学的なテーマがそこにはあったと思うのですが、このドラマが完全に不発に終わっています。
その要因としては前述した通りケヴィン・コスナーがミスキャストであり、ジェリコの人格に大きな影響を与えるビルの家族との関係性が観客にとって掴みづらいものになっていることの他に、そもそもの設定の不備が考えられます。
ジェリコが犯罪者になった理由として、幼少期に父親から受けた暴力が原因で前頭葉を損傷し、他人への共感力が極めて低くなったためと説明されるのですが、この設定がダメでした。自らの選択で犯罪者になった者が、今度は自らの選択で善人になってこそ本作のドラマは生きると思うのですが、この設定をとってしまうとジェリコは医学的に直っただけという話になってしまい、倫理的・社会学的な意味合いが失われてしまいます。
Criminal
監督:アリエル・ヴロメン
脚本:ダグラス・クック、デヴィッド・ワイズバーグ
製作:マット・オトゥール、マーク・ギル、クリスタ・キャンベル、J・C・スピンク、ジェイク・ワイナー
製作総指揮:ボアズ・デヴィッドソン、ジョン・トンプソン、クリスティーン・オタール、アヴィ・ラーナー、トレヴァー・ショート、ラティ・グロブマン、ダグラス・アーバンスキー、ジェイソン・ブルーム、ケヴィン・キング=テンプルトン、サミュエル・ハディダ、ヴィクター・ハディダ
出演者:ケヴィン・コスナー、ゲイリー・オールドマン、トミー・リー・ジョーンズ、アリス・イヴ、ガル・ガドット、マイケル・ピット、ライアン・レイノルズ
音楽:ブライアン・タイラー、キース・パワー
撮影:ダナ・ゴンザレス
編集:ダニー・ラフィック
製作会社:ベンダー・スピンク、キャンベル=グロブマン・フィルムズ、ミレニアム・フィルムズ
配給:サミット・エンターテインメント(米)、KADOKAWA(日)
公開:2016年4月15日(米)、2017年2月25日(日)
上映時間:113分
製作国:アメリカ合衆国、イギリス
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