(2017年 アメリカ)
戦闘場面をワンカットで切り取った映像が素晴らしく、日常が破壊される様には大変な臨場感がありました。ただしキャラやプロットといった映画らしく見せるためのその他の構成要素が弱く、もっと面白くしようもあったのに不発に終わったという印象の映画でした。
あらすじ
ニューヨークの下町ブッシュウィック。大学生のルーシー(ブリタニー・スノウ)が地下鉄を降りると街は謎の軍隊に襲撃されていた。戦場と化した街を逃げ惑うルーシーは高い戦闘スキルを持つ謎の男スチュープ(デイヴ・バウティスタ)と出会い、安全地帯への避難を図る。
スタッフ・キャスト
『ゾンビスクール!』のコンビ監督
本作のオリジナル脚本を執筆し、監督したのはジョナサン・マイロットとキャリー・マーニオンのコンビ監督です。ニューヨークのデザイナー学校で出会ってコラボレーションを開始。アニメーション、CM、短編映画と様々な媒体で作品を発表し、リー・ワネル製作のホラーコメディ『ゾンビスクール!』(2014年)で長編監督デビューしました。本作が長編2作目となります。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のドラックスが主演
主人公スチュープを演じるのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のドラックス役で有名なデイヴ・バウティスタ。元WWEのプロレスラーなので体格が常人離れしており、本作でも堂々たる戦闘マシーン役を演じています。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『DUNE』(2020年)にも出演する予定です。
ブッシュウィックとは
ブッシュウィックとはニューヨーク市ブルックリン区の北部に位置する地域です。ただしロケの大半はクィーンズ区で行われたようですが。
古くはビール工場などを中心とした工業地域として発展したものの、1970年代以降は治安の悪いエリアとして有名に。
ニューヨーカーもあまり足を運ばない地域だったが、2000年以降、ニューヨーク市による再生プログラム等の支援を受け、新しく変貌を遂げている。近年はウィリアムズバーグなど近隣地域の家賃の高騰を逃れて、アーティスト達が多く移り住むようになり、ミドルクラスの人口も増加している。
倉庫や工場跡地のインダストリアル空間に、新しいカルチャーが融合したユニークな町並みは、新たな観光スポットとして人気が上昇している。
https://www.mashupreporter.com/bushwick-guide-2016/
感想
観客を非日常に叩き込む冒頭の凄さ
ブッシュウィック地区の最寄り駅で地下鉄を降りた主人公ルーシー(ブリタニー・スノウ)と彼氏は、ひとけのない駅構内に不穏なものを感じながらも地上出口へと近づいていくのですが、そこに突如火だるまの人が現れて非常事態の真っただ中であることを知ります。
彼氏も火炎放射器で焼かれ、たった一人で何とか地上に出たルーシーは謎の武装集団がブッシュウィックの住民を襲う地獄絵図の中を移動するのですが、ワンカットで収められたこの導入部には息が詰まるほどの臨場感がありました。
観客と登場人物をいきなり非日常に叩き込むこの導入部は百点満点。お世辞抜きで、アルフォンソ・キュアロン監督の傑作『トゥモロー・ワールド』(2006年)にも並ぶほどのインパクトがありました。この時点では大傑作の予感がしたんですよ…。
感情的な盛り上がりがなく90分もたない
どうやら、どこかの軍隊がブッシュウィックの制圧に来たらしい。逃げるルーシーは常人離れしたガタイと戦闘スキルを持つ世捨て人スチュープ(デイヴ・バウティスタ)と出会い、彼と共に安全地帯を目指して移動を始めます。
ガラの悪い地域に非日常が襲い掛かってくるというあらすじからは『アタック・ザ・ブロック』(2011年)を思い出しました。この題材ならば、普段は厄介事の種でしかない地元の不良たちが頼れる味方になるという激アツな展開を当然に期待するものなのですが、本作においてはそうした展開に発展していかず、せっかくの舞台や設定が活かされていないように感じました。
同様に、「人種的に多様なブッシュウィックでは住民からの組織的な反撃に遭う可能性が低く、制圧は容易と判断した」という侵略者側の論理が置かれているのだから、これに対して常日頃はいがみ合っている住民同士が連帯して想定外の反撃をするという熱い流れも当然にあるべきだったのに、これもなしでした。部分的な反撃はあるのですが、街を上げた連携というこの構図から当然考えられる展開がないのです。
これらに関連して、中盤ではスチュープとルーシーが反撃のための人員が集まっている教会へと伝令に送られて、大量の武器を保有するギャングとの共同戦線を提案するという展開があるのですが、教会側のキーパーソンである牧師が自殺してこの大作戦も有耶無耶になって終わります。
しかも反撃作戦が潰れても特に支障なく話が進んでいくので、物語に大きな流れが出来ていませんでした。
登場人物に魅力がない
主人公ルーシーは大学生で、両親ではなく祖母に育てられたとか、妹のベリンダ(アンジェリック・ザンブラーナ)と明らかに人種が違うなどの情報からいろいろ訳アリのようです。加えて、有色人種がマジョリティを占めるブッシュウィックでブロンド白人のルーシーは肩身の狭い思いもしているようで、苦労の絶えない可哀そうな人ではあるのですが、かと言って観客からの好感を得られるほどの魅力もなく、このドラマを背負うキャラとしては弱いかなと思いました。
もう一人の主人公スチュープも同じくです。ガタイの良い元戦闘マシーンという点で興味を引くのですが、後半で明かされるその正体は月並みなものでサプライズがなかったし、普通に生きていれば決して交流することはなかったであろう女子大生ルーシーとの間での化学反応も起こっていませんでした。あと、戦闘マシーンの割にはハンドガンばかりを使い、足元に転がっているサブマシンガンなどを使わないという彼の甘噛み感が、作品の逼迫感を損ねていました。
そしてルーシーの妹ベリンダですよ。ヤク中で最後まで何の役にも立たず、足を引っ張り続ける彼女のようなキャラクターがこの手の映画に居ると本当にイライラさせられますね。
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