トリプル・フロンティア_アクションもドラマも失敗している【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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その他アクション
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(2019年 アメリカ)
米軍を退役したポープは南米の警察で軍事顧問をしており、隠れ家に大金を隠し持つ麻薬王の所在地情報を掴んだ。彼はかつての軍隊仲間に襲撃計画を提案する。

5点/10点満点中_定石を外しまくって失速した映画

© Netflix

J・C・チャンダー監督作品

本作の共同脚本と監督を務めたのはJ・C・チャンダー。この人はリーマンショックを題材にしたフィクション『マージン・コール』で長編デビューし、いきなりアカデミー脚本賞ノミネートという快挙を成し遂げました。その後の2作品(『オール・イズ・ロスト~最後の手紙~』『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』)も傑作で、デビュー後3作がスベり知らずという驚異の打率を誇っていました。

当初、この企画を進めていたのは『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』『デトロイト』のキャスリン・ビグローとマーク・ボールのコンビでした。2010年頃には制作がアナウンスされてトム・ハンクスとジョニー・デップの出演が報じられたものの、企画が進まずにいったん頓挫。その後にJ・C・チャンダーが就任したという経緯があります。

それに伴い配給会社も流転しており、元はパラマウントの劇場公開作品として制作されていたもののパラマウントが離脱し、代わりにNetflixが出資してネット配信作品になりました。

コマンドもの×トレジャーハントもの

本作はコマンドものとトレジャーハントものを組み合わせた作品であり、1970年の『戦略大作戦』や1999年の『スリー・キングス』がその類似作であると言えます。

このジャンルは製作年代が後になるほどシリアスになっていく傾向があり、『戦略大作戦』の時点では純粋な活劇と言える内容だったものの、湾岸戦争に対して批判的な姿勢で作られた『スリー・キングス』はかなりシリアスでした。ただし『スリー・キングス』にもコミカルな要素は残っていたし、クライマックスでは正義に目覚めた米兵が、哀れなクルド人難民を守りながら悪いイラク軍と戦うという、アクション映画の定型はちゃんと守られていました。

そこにきて本作ですが、完璧にシリアスです。この題材であれば乾いた笑いを取りにいってもよかったような気がするのですが、J・C・チャンダー、マーク・ボール、キャスリン・ビグローにユーモアとか遊びという言葉は一切なく、追い込まれた男たちのドラマが終始しかめっ面で描かれます。

熱くなりきらないドラマ

追い込まれた男の物語と言えばJ・C・チャンダーの十八番。デビュー以来そんな映画ばかり撮っているので当初のキャスリン・ビグローよりもこの企画には適任だったと思うのですが、問題は、娯楽的要素を排除してまで描きたい内容が本作にはなかったということです。

退役軍人達の心境が深掘りされていない

  • サンティアゴ・”ポープ”・ガルシア(オスカー・アイザックス):母国でやれる仕事がなく南米に拠点を移している。
  • トム・”レッドフライ”・デイヴィス(ベン・アフレック):仕事が長続きせず家族からは愛想尽かされている。
  • ウィリアム・”アイアンヘッド”・ミラー(チャーリー・ハナム):除隊後にも軍に残り、訓練を終えて戦地に赴任する新兵達への心がけ講座を受け持っている。
  • ベン・ミラー(ギャレット・ヘドランド):安いファイトマネーで総合格闘技のリングに上がり、それ以外の時間はスーパーでバイトしている。
  • フランシスコ・”キャットフィッシュ”・モラレス(ペドロ・パスカル):戦場では腕利きのパイロットだったが、今はコカイン服用が発覚して飛行資格停止中。もうすぐ子供が生まれる。

戦場では英雄だったが、戦争というもっとも得意なことから引退して行き場を失った男達が本作の主人公なのですが、イマイチ切実さを感じられないんですよね。

この男たちの行動原理とは、行き詰った今の生活を何とかしなければならんという焦りと、ヒリヒリするような闘争への渇望だと思うのですが、経済的な切実さが明確に描かれるのはレッドフライのみだったし、闘争への渇望は全員にありませんでした。麻薬王を倒すという大義名分の下、またひと暴れできるんだという点にもっとワクワクして欲しいところでしたが。ポープが持ち掛けてきた話を口頭では断っていても、目は喜びまくっているような描写があれば良かったと思います。「銃を手にしている時だけ落ち着くんだ」というセリフだけでは不足です。

加えて、当初は偵察任務だけとしていたポープが、仲間達を襲撃計画に引き込む際に「俺達は過去に成し遂げたことへの対価を受け取っていない。俺達にはこの大金を掴む権利がある」と言うのですが、過去に彼らが成し遂げたことや、そのために払った犠牲とは一体なんだったのかが最後まで漠然としているので、本来必要とされる情報が不足しているように感じました。

盛り上がりどころがない

この手の映画は、欲望の大きさや目の前の環境の過酷さからいがみ合いが発生し、最終的には親友同士で疑心暗鬼に陥るという方向で発展させるのが定石ですが、本作は正反対のアプローチとなっています。すなわち、いったんはダーティな判断を下しそうになっても、仲間の存在によって常識人に引き戻してもらえるという展開となっているのです。

あえて定石を外しているので面白くならないし、この奇抜なアプローチでも面白くなるように代わりの方法論が準備されているわけでもないので、企画倒れに終わっています。

因果関係が整理されていない

当初の目論見が崩壊し、得るものを得られなかったばかりか高すぎる代償までを支払ってしまうという骨折り損のくたびれ儲け的なお話なのですが、彼らがいかにして失敗し、ドツボにハマっていったのかという因果関係がうまく整理されていないので、もののあわれを感じるドラマになっていませんでした。

隠れ家には予想以上の大金があったので、他のメンバーに撤退を勧められてもレッドフライが「まだまだいける」と言って襲撃計画のタイムラインをズラしてしまったことや、ポープが麻薬王の首を取ることにこだわったためにアイアンヘッドが負傷したという伏線こそ張られていたものの、それが結果に結びついていないという勿体ないことになっています。

当初は小さかった綻びが雪だるま式に大きくなっていき、「あの時、一瞬魔が差したせいで、完璧だったはずの計画が崩壊してしまった」という形で全体を整理していれば面白くなったと思うのですが。

欲の塊だった男達が、ラストでいきなり欲を捨てる不自然さ

金の欲望のみで苦難を乗り越え、ただでさえ大変な山脈越えを100個もあるかばんやスーツケースを人力で運びながら行うという欲望の塊だった男達が、最後の最後でヒューマニズムに目覚めて、やっとのことで持ち帰れた金の権利を放棄するという点は不自然に感じました。

彼らは最後まで金を本国に持ち帰ろうとはするものの、怒り狂った麻薬組織を巻いたり、出国時に役人を買収したりで残った金も大半が消費されてしまい、最終的に手元に残ったのは、払った代償にはまったく満たない金額のみだったというオチにしてくれた方が、私にはしっくりきました。

アクション映画として面白くない

チーム内の役割分担が不明確

『七人の侍』の時代より、コマンドものではチーム内の役割分担を明確にすることが定石です。それによって一人一人のキャラが良く立って観客からの支持を受けやすくなるし、誰かが死ぬという展開を迎えた場合には、スクラムの一角が崩れたということで観客と危機感を共有することができます。

その点で言うと、本作は役割分担がかなり不明確でした。明確な役割を持っているのは操縦担当のキャットフィッシュのみ。ただしヘリの墜落以降は、彼もまた固有の役割を失います。レッドフライとポープの両方が仕切りをしているのでどちらがリーダーなのか分からないし、総合格闘技をしているベンは近接戦で頼れる奴なのかと思いきや、そんな見せ場はありません。アイアンヘッドに至っては、何が得意分野なのかすら定かではありませんでした。

これではコマンドものとしての醍醐味を外しているとしか言いようがありません。ひとつひとつのアクションの出来は決して悪くなかっただけに、アクションを盛り上げるための一工夫がなかった点が実に残念でした。

不殺の誓いはアクションのブレーキにしかならない

アクション映画で私が嫌いな展開として、人を殺すことに嫌気が差した主人公達が不殺の誓いを立て、他方で殺す気満々で来ている敵に対して手加減をしてしまうということがあります。どちらかが手加減をしている見せ場が盛り上がるはずがないのですが、本作もバッチリそのパターンをやっちゃってるんですよね。

終盤、脱出用の船が待機する海岸まであと一息だが、現在地と海岸との中間地点にある村では麻薬組織からの命を受けた若者20名が銃を構えて警戒しています。ここをどう突っ切るかが最後のハードルになるのですが、「人を殺すのはもうごめんだ」と言って実に手緩い方法で突破するんですね。相手は銃撃してきているのに、こちらは威嚇射撃のみ。カーチェイスになっても狙うのは運転手ではなくタイヤ。これでは盛り上がりませんね。

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