ヴェノム_好感を持てるキャラと無駄のない語り口が魅力【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説))

スポンサーリンク
スポンサーリンク
マーベルコミック
マーベルコミック

(2018年アメリカ)
トム・ハーディの意外なコミカル演技や、好感を抱けるヴェノムの個性など、安心して楽しめる作品となっています。毒を以て毒を制すというコンセプトこそ希薄になってはいるものの、面白いのだから問題ありません。

批評家受けは最悪だが観客受けは良い

北米と世界マーケットの両方で10月公開作としては史上最高の初動を記録して予測以上の興行成績を上げている一方で、批評家からは酷評に近い状態(Rotten Tomatoesでの批評家支持率はベン・アフレックの『デアデビル』をも下回る29%)となっているという珍しい状況が発生しているのですが、内容はヴェノムを知らない人向けの単純な娯楽作となっていて、原作知識のある人ほど本作を忌避する傾向にあるのかなと思います。

ヴェノムとは

1984年の『シークレット・ウォーズ』にてスパイダーマンのブラックコスチュームとして初登場し、しばらくはブラックスパイダーマンとして使用されていたものの、ファンタスティック・フォーの調査によりこのコスチュームは自我を持っていることが判明し、スパイダーマンからは切り離されました。1988年の『アメイジング・スパイダーマン#300』で人間との共生体ヴェノムとして初登場。

その後、ピーター・パーカーの務めるデイリー・ビューグルのライバル誌の看板記者だったが、スパイダーマンに誤報を暴かれて職も家族も失ったエディ・ブロックの感情を受信して封印状態から覚醒し、スパイダーマンに敵意を持つ者同士で一体化してもう一人のスパイダーマンであるヴェノムとなりました。この辺りはサム・ライミの『スパイダーマン3』が原作に忠実なようです。いろいろと批判の多い『スパイダーマン3』ですが、限られた時間内でブラックスパイダーマン登場からヴェノム誕生までを要点を外さずに描いてみせた要約力は再評価されてもいいような気がします。

スパイダーマンの能力をコピーした上に、宿主であるエディがボディビルダーであるためスパイダーマンを凌ぐパワーを発揮し、基本的にヴェノムは危険な敵というポジションにあるものの、歴史あるコミック特有の紆余曲折の中で一時的にスパイダーマンと共闘したり、庇護者として振る舞ったり、かと思えばシニスターシックスに参加したりといった具合でフラフラしているようです。人気キャラならではの極端な変遷ってやつですね。

【批判の理由①】マーケティングとの齟齬

日本版ポスターは原作のヴェノムのイメージを見事に捉えているとして世界的に話題となったのですが、どう見ても悪でしかない外見の上に「最悪」の文言まで追加されているし、しかも予告では本編中出てくる「目玉、肺、すい臓…全部喰ってやる」というセリフが押し出されており、これらマーケティング素材を見た人は、R指定上等のスーパーヴィラン誕生編を期待したのではないでしょうか。しかも事前にはR指定の『デッドプール』シリーズが大ヒットしており、完全に大人向けのアメコミ作品でも興行的に成立することが証明されているのですから。

しかしふたを開けるとPG-13の間口の広い(言い換えれば刺激を避けた)娯楽作となっており、内容も良心的バディが活躍するヒーロー誕生編に終始しており、ホラー紛いの描写で観客にも恐怖心を与えるヴィラン誕生編とは程遠い内容となっていました。

2018年7月のコミコンでのパネルディスカッションにてトム・ハーディが言っていた「息子が見られる映画に出たかった」という言葉がすべてを物語っているのですが、ハリウッド俳優がこの言葉を使う時は、たいていが「ちょっとやらかしちゃったかな」と思っている時なのです(例:『ロスト・イン・スペース』)。

【批判の理由②】毒を以て毒を制すというコンセプトが希薄化している

前述した通り、ヴェノムとは本来悪の存在であり、自分の持つ哲学と状況が整合した場面でのみ善に転向するというキャラクターなので、本作の表現の軸足は悪の面に置くべきだったのですが、どうにもこの点の掘り下げが甘く感じました。

PG-13の腰の引けた描写のみならず、善に転向する前にもエディを追いかけてきた傭兵を倒すのみで一切の悪事を行わず、その後は地球を守るために同族との闘いまでを引き受け(ここでの転向理由が不明確だったことも作品のボトルネックになっています)、最終的にはエディを守るために弱点である炎に身をさらすことまでしてしまうので、これではそもそも良心を持ったヒーローとあまり変わらない存在となってしまいます。ダークヒーローの魅力とはその闇の深さや独自の哲学性にあるのに、毒を以て毒を制すというコンセプトが本作ではあまりに希薄化しています。

そもそも、ヴェノムのオリジンをダークヒーローからスタートさせていいのかという疑問もあります。日本で言えば、ベジータの物語をZ戦士に取り込まれた後から始めるようなものであり、本来ベジータはドラゴンボールが欲しくて地球に襲撃をかけてきた大悪党だったのだが、その後ギニュー特戦隊に対抗するために悟飯やクリリンと組まざるをえない場面があったことや、ブルマとの関係の中で地球人との利害が一致するようになったという経緯があってのことなのですが、そうした経緯が省かれてしまうと、ベジータの人間性への評価が根本的に変わってしまいます。本来悪人だからこそ善に転向したことにドラマ性が生まれるのに、最初から良い奴では単なる口の悪いキャラクターになってしまいます。ドラゴンボールのファンはそうした描き方には絶対に納得しないでしょう。

【批判の理由③】世界観やキャラの位置づけがあやふや

昨今のアメコミ映画は複数の独立した作品が一つの世界観を共有するマルチバースを積極的に取り入れており、ソニーは自身が権利を持つ『スパイダーマン:ホームカミング』をMCUに合流させました。そうなってくると、スパイダーマンの敵であるヴェノムは『ホームカミング』の続編に出るかもしれないし、『ホームカミング』続編に出るということは、いつか他のMCU作品に出るのかもしれないという理屈になってきます。

問題は、これについてはマーベル・ディズニー・ソニーの間で明確な合意形成ができないままに本作公開にまで至ってしまったということでした。マーベル・スタジオの社長ケヴィン・ファイギは、『ヴェノム』はソニー独自のプロジェクトであり、マーベル側はそれをMCUと繋げる計画はないことを明言した一方で、本作のプロデューサーのエイミー・パスカルはソニー・マーベル・ユニバース映画を『スパイダーマン:ホームカミング』で始まる新しいMCU映画として世界を共有しようとしていることを明かし、本作をMCUへの “adjunct”(付加物、付属物)として説明しました。ソニー側はえらく破綻した理屈をこねているような気もするのですが、ソニーとしても自身が権利を持っているスパイダーマンとヴェノムを将来的に合流させる道が断たれたのでは溜まったものではないので、こう言っとくしかないのだろうと思います。

こうしたあまりに不明点の多い世界観は、観客の側に少なからず混乱を与えています。スパイダーマンが存在する世界で起こっている話なのかどうかすら不明であり、明らかに続編狙いのこのオリジンがどんな場所に着地しようとしているのかが一向に見えてこないのです。いつかヴィランとしてスパイダーマンと戦うのか、それともスパイダーマンやアベンジャーズの存在を前提としない単発のダークヒーローなのかでは映画の受け止め方はまったく変わってくるのですが、そのどちらなのかが現時点で不明ということでは、とても座りが悪く感じました。

【支持の理由】アクションコメディとして極めて良質

上記の通り本作は多くの部分で失敗しているのですが、映画として抜群に面白かったという一点で取り返しているような気がしました。

エディ・ブロックのみならず、ヴェノムの声もモーションキャプチャーもすべてトム・ハーディがこなしているのですが、エディとヴェノムのやりとりが抜群に面白くて、このコンビをいつまでも見ていたい気分にさせられました。反権力のジャーナリストを気取りながら、資本家に盾突いて干されるとやさぐれてしまうエディの人間性と、「みっともない」などと言って彼の弱さを補おうとするヴェノムは良いコンビなのです。また、エディがバイクを運転し、ヴェノムが追っ手を排除するという中盤のカーチェイスのチームワークではアクションによって二人の関係性を語るということができており、バディものとして極めて優秀なのです。このはぐれ者二人がライオットという格上の戦士に挑む様には燃えたし、ヴェノムがエディを守ろうとするラストなんて感動しちゃったし。

さらに、エンドロールを除くと正味100分程度という、昨今のアメコミ映画としては短めの上映時間でオリジンを描けているという物語のまとめ方も良かったと思います。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント