ガンダムXが奥深くて面白かった【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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宇宙
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(1996年 日本)
低視聴率だの打ち切りだのと景気の悪い話ばかりで、シリーズに埋もれがちである『機動新世紀ガンダムX』。私も長年スルーだったのですが、最近になって鑑賞してその奥深さにぶったまげました。

作品解説

テレ朝ガンダム枠第4弾

『機動戦士ガンダム』(1979年)を始めとしたガンダムのテレビシリーズは、テレビ朝日の系列局である名古屋テレビが製作していたのですが、1993年の『機動戦士Vガンダム』より、キー局のテレビ朝日に引き継がれました。

以降、『機動武闘伝Gガンダム』(1994年)、「新機動戦記ガンダムW』(1995年)と毎年ガンダムが製作され、本作がテレ朝ガンダム枠の第4弾となります。

ただし、以下に掲げる様々な不振が影響して本作がテレ朝最終作となり、『∀ガンダム』(1999年)はフジテレビが、『機動戦士ガンダムSEED』(2002年)以降は毎日放送がガンダムを製作するようになりました。

視聴率不振と放送期間の短縮

一見すると地味な作風が災いしてか本作はファン層を獲得することに苦戦し、視聴率が低迷。加えて、シーズン途中で放送枠を金曜17:00から土曜6:00に変更されて、更なる苦境に追い込まれました。

枠移動後の平均視聴率は1.2%で、瞬間的に0%になることもあったとか。

さらには、4クールの予定だった放送が3クールに短縮されて「打ち切り」という印象になったことも、本作に失敗作の烙印が押される要因となりました。

ただし、これらのことがすべて内容面の不備の結果かと言われるとそうではなく、外部的な要因も相当大きかったようです。

当時のテレビ朝日は激動期にありました。

オーストラリアのメディア王ルパート・マードックとソフトバンクの孫正義による合弁会社が、当時のテレ朝の筆頭株主だった「旺文社メディア」を買収したことから、テレビ朝日は間接的な支配を受けることに。

この新体制の元、アニメ番組に対しては大リストラが敢行され、セーラームーンや勇者シリーズが打ち切られました。

そんな流れに翻弄されたのが本作だったのですが、ガンダムシリーズの打ち切りを言い出したのは製作のサンライズ側だったと、関係者が後に明かしています。

感想

私は本作を一度も見たことがなかったのですが、最近、格安で売られていた中古レーザーディスクを購入して鑑賞したところ、予想外の面白さでハマってしまいました。

他のガンダムに負けていないどころか、勝っている部分も多いように思うので、その魅力について触れたいと思います。

ガンダム×マッドマックス

『After War Gundam X』という英語表記が示す通り、本作の舞台はポスト・アポカリプスの世界。戦時下が描かれることの多いガンダムシリーズでは異例の設定です。

第7次宇宙戦争では地球人口の99%が死滅し、運よく生き延びた人々も地球環境の激変という事態に直面。そんな地獄から15年が経過した時点から物語はスタートします。

主人公ガロード・ランは一人で生きてきた戦災孤児だし、彼が関わることとなる戦艦フリーデンも特定の勢力には所属していません。

物語の終盤に入るまで政府らしきものは登場せず、人が集まって自然と形成された集落、ある程度組織化された都市国家、象徴的な国家元首をいただく小規模王政が点在するのみ。

こうした世界の中でフリーデンは各地を転々とし、行く先々で不条理と戦うこととなるという『マッドマックス』みたいな物語となっています。

そして文明があった頃の車をカスタムして乗っているマックス達と同じく、本作の登場兵器は先の大戦の遺物ということになっています。

主人公機ガンダムエックスも、その僚機となるガンダムエアマスターやガンダムレオパルドも大戦中の量産機という設定であり、その中でもまだ動く機体が整備・運用されている模様。

で、ロボットアニメでは劇中で技術開発が進んでいってどんどん強い兵器が出てくるという流れが定番であるところ、本作の場合はスタート時点から最強兵器が存在しており、マイナーチェンジこそあれど、劇中で技術革新が起こらないという点も異色となっています。

その最強兵器とはガンダムエックスに搭載されているサテライトキャノンで、前大戦での地球連邦軍の切り札的な兵器だっただけに、その威力は甚大。

主人公ガロードは第2話にしてこれをぶっ放すのですが、あまりに強力すぎて、以降は使用可能な場面になかなか遭遇せず、これよりも破壊力の劣る通常装備をメインで使うこととなります。

敵を倒す力は持っているのだが、それを行使するかどうかが問題である。

特異なテクノロジー描写から紡がれるドラマも、本作固有の味となっています。

王道のボーイ・ミーツ・ガールもの

そしてドラマの核は一体何かというと、主人公ガロード・ランが一目惚れした少女ティファ・アディールのために成長するという、王道のボーイ・ミーツ・ガールの物語です。

ティファは強力なニュータイプ能力を持つ少女であり、それゆえに彼女を悪用しようとする者が多いため、彼女の保護がガロードの使命となります。

複雑な人間関係や、一筋縄ではいかない心理描写の目立つガンダムシリーズにおいて、ここまで純化された動機で戦うパイロットは異例であり、かつ、目的が目的だけに主人公が戦うことを躊躇する場面もないので、ドラマは明確な方向性を持って進んでいきます。

従来のガンダム的なドラマを見慣れた視聴者ほど、ガロードのドラマの新しさには惹かれるのではないでしょうか。

加えて、初登場時点でのガロードは問題児なのですが、ティファやフリーデンの仲間達との関係性や、ガンダムという強力な兵器を託されたことの責任感から、彼がまともな男になっていくという成長譚としてもよく出来ています。

周囲から怒られていじけた主人公が、いったんガンダムを下りるというシリーズ定番の流れは本作でも健在なのですが、ガロードの場合は持ち出したガンダムを闇市で売り捌こうとするという、前代未聞の行動までをとりますからね。

そこから、一端のガンダム乗りとしてみんなに認められるようになるという成長譚が、実に丁寧に描かれていきます。

異常者が出てこない

と、褒めた直後に言うのもアレなんですが、ガロードの物語って『機動戦士ガンダムZZ』の主人公ジュドー・アーシタの二番煎じと言えなくもないんですよね。

主人公は最底辺で自活してきた少年であり、個人的な人間関係が戦う動機になるという、ほぼ同一とも言える個性を持っています。ガンダムを盗もうとしたことも共通しているし。

ただし『ガンダムZZ』では成功していなかったドラマが、本作ではうまく流れています。

その成否はどこにあったのかと言うと、主人公たちと大人社会の距離の取り方ではないかと思います。

ZZでは両者を対立関係に置き、終盤では宇宙戦艦ネェル・アーガマの指揮までを子供が執るという不自然な流れをとっていました。

これに対して本作のガロードは周囲の大人たちからの適切な指導と保護の中で成長していくので、ドラマに破綻がないのです。

ここで本作のもう一つの特徴が見えてくるのですが、本作の大人はみな常識人で、異常者が出てきません。

ガロードが身を寄せるフリーデンの艦長ジャミル・ニートは元少年兵で、先の大戦時には地球連邦軍にニュータイプ能力を利用されていたという過去を持っています。

戦時中にはガンダムエックスのパイロットを務めており、現在のガロードが破壊力強すぎで撃てないと判断しているサテライトキャノンをコロニーに向けてバンバン撃っていたこともあって、メンタルはかなり傷ついている様子。

そんなトラウマを抱えているだけにガロードやティファの苦しみをよく理解しており、今は善き指導者として彼らに接し、子供達には正しい道を歩ませようとします。

それは大戦時のジャミルの宿敵だったランスロー・ダーウェルも同じく。

彼は戦争の英雄として宇宙革命軍で祭り上げられる存在なのですが、やはり軍事や戦争に対する警戒心を持っています。

いまだにジャミルへの対抗心を持ち続けてはいるものの、決着をつけたくてやたら攻撃を仕掛けてくるような、この手のキャラにありがちな行動はとらず、かつての宿敵や敵軍に対しても是々非々の対応をとります。

その他、「大概の問題は、コーヒー一杯飲んでいる間に心の中で解決するものだ」という教科書に載せたくなる名言を放った軍医のテクス先生等も、良い味を出していました。

もちろん、これは戦争を扱ったドラマなので、戦況を荒立て、第8次宇宙戦争を引き起こそうとする不埒な輩も登場するにはします。

新連邦軍のブラッドマン総司令官や、宇宙革命軍のザイデル総統がこれに該当するのですが、彼らもまた血に飢えた狂人というわけではなく、自陣営を守るためには敵を撃たねばならないという、理解可能な動機を持っています。

終盤では戦闘中だった両軍に一時停戦命令を出すなど、やはり常識的な判断を下していたし。

ニュータイプ論に結論を出した

そして、本作最大の成果がこれですね。ファーストガンダム以来、連綿と続いてきたニュータイプ論に終止符を打ったことです。

では本作の出した結論は何かというと、「ニュータイプなんてものはない」ということでした。

確かに特殊能力を持つ人間は一部に現れてはいるが、それは突然変異に過ぎず、人類の革新だの、時代の必然だのといった全体の傾向を表すものではない。

そうした本来無意味なものに勝手に意味づけをして、スペースノイドとアースノイドの差異を殊更に強調し、結果、戦争を始めてしまうことがなんと愚かであったかを、本作は結論としています。

この落としどころには痺れましたね。

後に「ニュータイプ神話の行きつく先」を謳った『機動戦士ガンダムNT』(2018年)も製作され、そちらは本作とは正反対の着地点を見出していましたが、個人的には本作ガンダムXの出した結論を支持しています。

ただし地味であることは如何ともしがたい

ただし作風が地味で「見たい!」という意欲を掻き立てないのは、本作の欠点だと言えます。

ドラマ部分を褒めましたが、これらはじっくり鑑賞してこそ見えてくる良さであって、第1話を見た時点で惚れ込むような引きの強さはありません。

この点は、『Gガンダム』『ガンダムW』と強烈な個性を持った過去作品との並びの悪さもあって、何とも言えず地味という印象となっています。

また、良く言えば丁寧、悪く言えば展開が遅いという問題もあって、途中脱落者も相当出てきてしまう作風だろうなと思います。

放送スケジュールの短縮が決定したことはむしろ怪我の功名で、後半部分はスピードアップして面白さも増すのですが、もしも当初予定通り4クールでやっていると、最後までテンポの悪い作品になった可能性もあります。

あと、主人公機以外のMSデザインもパッとしません。

新連邦軍、宇宙革命軍双方の量産機のデザインがかっこよくないし、ガンダムエックスの僚機であるエアマスターとレオパルドの小物感もハンパなものではありません。

これまた、MSデザインが充実していた前作『ガンダムW』との比較に晒されると苦しい部分になります。

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