機動戦士ガンダム 水星の魔女_新しくて懐かしいガンダム【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
宇宙
宇宙

(2023年 日本)
5年ぶりのガンダムテレビシリーズは、女性主人公や同性愛要素など新しい試みが目白押しの一方で、『新機動戦記ガンダムX』や『新世紀エヴァンゲリオン』といった懐かしのアニメの影響も色濃く反映されており、新しくて懐かしい独特の味わいとなっている。個人的には好きだけど、現代の視聴者の生理には必ずしも合っていないので、手放しの傑作ともいえないだろう。

感想

新しくて面白いガンダム

『鉄血のオルフェンズ』以来、5年ぶりのガンダムシリーズということでリアタイ視聴し、2023年7月2日(日)に無事完走した。

総評としては面白かった。ネットやSNS上ではつまらんかったという意見が目につくけど、個人的にはシリーズ中でも上位に入る出来だと思う(後述の理由で最上位を争う内容ではないが)。

初の女性主人公や同性愛要素といった新機軸を絡めながらもちゃんとガンダムしていたし、クライマックスに向けて感情的なピークも生み出せていた。

第1期OPの歌詞が作品内容を示したものだということが徐々にわかってくるというあたりもよく考えられており、全体的に設計の行き届いた作品だと思う。

よくできていると言えば2期構成という放送形態の使い方もであり、第1期は割とオーソドックスな学園ドラマで登場人物や彼らの背後にいる組織を紹介して、じっくり時間をかけて視聴者に顔と名前を覚えさせ、第2期で一気呵成にストーリーを進めていくという尺の使い方もよく考えられている。

また手書きにこだわったMS戦も素晴らしい。

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』なども好きだけど、人物の絵とは明らかに違う質感でヌルヌルと動く3DCGのモビルスーツに違和感がなかったわけではない。

その点、本作はすべての場面が統一された質感で形成されていて、ビジュアルがシームレスにつながっている。その実現のために膨大な人数のアニメーターが雇われたということは、最終話のエンドクレジットでもよく分かる。

ビジネスとしては恐ろしくコストパフォーマンスの悪いことをしたともいえるのだが、アニメーターの職人技を温存すべくあえてこうした試みを実施したと考えると、なかなか意義深いものも感じる。

思えばサンライズは、90年代に『機動戦士ガンダム0083』(1991~1992年)で異常なレベルの作画を披露したスタジオだが、本作からはその原点に立ち戻ろうとする崇高な理念すら感じさせられた。

商業的に勝つ可能性が極めて高いガンダムだからこそ、人材の教育・育成のための過剰投資が可能となったのではないだろうか。

そうした製作上のバックグラウンドを含めて、本作を興味深く感じた。

90年代アニメに引っ張られすぎている?

そして内容はと言うと、私のような中年が10代の頃に楽しんだ90年代アニメの要素を、良くも悪くも強く引きずっている。

初登場時点で主人公機が圧倒的に強い、ビットモビルスーツを操る、敵味方含め主要人物の大半が生き残るという点は『機動新世紀ガンダムX』(1996年)と類似している。

また親世代の因縁が10代の子供たちの諍いに間接的につながるという物語はモロに『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)で、親の思いや目的意識が込められた巨大ロボ エアリアルなんて、初号機以外の何物でもない。

このあたりの中年ホイホイ的な要素は、おそらく意図的に込められたものだろう。

また第2期に入って急激に難化していくという構成もエヴァっぽい。

第1期で下準備がなされていたとはいえ、第2期の情報量や進度は一度の鑑賞では到底追いきれないほどのものだった。ただし破綻しているわけではないので、繰り返し見ることでより面白さが分かってくるような作品だと思う。

混乱の主たる原因は、シャディクとプロスペラの策謀が同時進行しているということで、このために全体を捉えることが難しくなっている。

偶然にも二つの策謀が重なってしまったがために両者ともうまくいかなかったのだが、優秀な彼らのこと、単体であればおそらく目的を成就できていたはずだ。

結果的に失敗したとはいえ、策士が策に溺れたわけでも、どこかに致命的な欠陥を抱えていたわけでもなく、両者とも愚かに見えないようになっているのだから、論理的によく考えられた構成だと言える。

ただし問題は、現在が90年代ではないということだ。

90年代、私はエヴァを繰り返し見た。本放送を見て、録画テープをすぐに巻き戻して見て、翌日に学校で友達と話して仕入れた新解釈を胸に、家に帰ってまた見た。

一方、現代はコンテンツの供給過剰の時代であり、一つのアニメに視聴者側がそこまで寄り添うということはない。

本作は繰り返し見てこそ伝わるように作られた作品なのだが、現代の視聴者はそこまで深くは付き合ってくれないだろう。

冒頭にて、ネットやSNSでは批判が多いと書いたが、その理由は現代の視聴者の生理に合ったものではなかったためだと思う。

また本作をガンダム史上の最上位クラスではないと言ったのも、時代をうまく捉えた部分と、まったくもって時代錯誤な部分が混じり合った、どうにも不安定なものを感じたためだ。

もしかしたら時と共に成熟して良い味になってくるかもしれないが、果たしてそこまで見続けられるコンテンツなのだろうかという点にも不安はある。面白かったけどね。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント

  1. カトケン より:

    自分も一話の百合婚約のインパクトから一気に引き込まれ、複雑でヒリヒリするストーリーに気を揉まれましたが、最後のハッピーエンドで見て良かったと心から思えましたね。ある程度古さが鼻についた部分もあったものの、満足感は高かったです。

    後、本作と同じく「少女革命ウテナ」の影響を強く受けた百合×ロボを組み合わせた作品である「神無月の巫女」も時間がありましたら出来れば視聴よろしくお願いします(Amazonプライムで配信されてます)。20年近く前の作品ですが、セカイ系な伝奇スーパーロボットものの世界観の中で二人の少女と一人の少年の三角関係が描かれ、ヒロイン二人の壮絶で純粋な愛と運命の絆が十二話という短い尺の中でクライマックスに向けて高まっていくガールミーツガールものの最高峰のアニメ作品ですので、是非!