未成年裁判_重厚で見応えある社会派ドラマ【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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社会派
社会派

(2022年 韓国)
日本でもしばしば問題になる少年法の意義に突っ込んだ、ヘビー級の社会派ドラマ。韓国の司法制度や社会風土を知らないと分からない部分もあるにはあるのですが、テーマそのものはユニバーサルなものなので、多くのものを感じ取れました。加えて、エモーショナルなドラマとしても上出来であり、最近の韓国ドラマの底力を示す作品となっています。

登場人物

ヨンファ地方裁判所 少年刑事合議部

  • シム・ウンソク:エリートコースにいる判事で、一般の地方裁判所から少年刑事合議部に赴任してきた。非行少年を嫌悪して彼らの更生を信じておらず、少年法上の最高刑を連発してきた。
  • チャ・テジュ:左陪席判事。シムとは対照的に更生に重きを置く人情派で、保護観察中の少年たちからも慕われている。エリート揃いの検事の中では異例に、高卒認定試験から判事にまでなった苦労人。
  • カン・ウォンジュン:部長判事で、メディア出演にも積極的。政界進出を狙っているため、物事を波風立てず無難に処理しようとする傾向が強い。部下に対してはパワハラ気味。
  • ナ・グニ:カン・ウォンジュンの後任部長判事。少年事件はスピード勝負が信条であり、丁寧な調査活動を支持しない。
  • ウ・スミ:少年刑事合議部主任。妊娠中。
  • ジュ・ヨンシル:参与官
  • ソ・ボム:実務官

各話の登場人物

  • ペク・ソンウ(1~2話):13歳の少年で、同じ団地に住む小学生の少年を惨殺した後、警察に出頭した。双極性障害を患っている。
  • ハン・イェウン(1~2話):ペク・ソンウの共犯が疑われる16歳の女子学生。両親はアメリカで事業化活動を行っており、ただ一人韓国に残されている。
  • ホ・チャンミ(1~2,7,9,10話):大手ファーム所属の弁護士で、アメリカ在住の両親からハン・イェウンの付添人として雇われている。シム・ウンソクとは司法修習生時代の同期。その後も、胸糞な事件での付添人としてしばしば登場。まさに悪徳弁護士。
  • ペク・ソンウの母(1~2話):仕事で家を留守にしがちで子供への監視が甘く、そのことが殺人事件へとつながった。我が子の裁判に遅刻してくるほどルーズだが、その割に子供を返して欲しいという主張だけは人一倍してくる。
  • ソ・ユリ(3話):保護観察中の非行少女で、暴行の被害を受けて裁判所に逃げ込んできた。両親の離婚後には祖父母に育てられていたが、その祖父母も認知症と体調不良で養育能力がなく、実質的に野放し状態だった。
  • ソ・ユリの父(3話):家庭内暴力を働く粗暴な男で、裁判所でも人に殴りかかろうとするなど、その暴力性に歯止めが効かない。
  • オ・ソンジャ(4-5話):プルム青少年回復センター長で、高い指導力をカン部長判事から買われているが、その一方で児童虐待と横領の疑惑を持たれている。
  • アルム(4-5話):オセンター長の長女で、非行少女たちの保護のために私生活までを犠牲にする母親の仕事を嫌っている。
  • ヨンナ(4-5話):回復センターに収容されている非行少女のリーダー格
  • カン・シヌ(6-7話):カン部長判事の長男。有名私立高校に通っているが、成績の伸び悩みを父親から責められており、一度だけ試験の解答の提供を受けてしまった。
  • クァク・ドソク(7-8話):無免許運転がバレて逃走し、パトカーとのカーチェイスの末に事故を起こし、衝突したバイク運転手ともども重体となった。実は少年合議部で保護観察を受けていた少年であり、チャ判事は更生を実感していた。
  • ペク・ミジュ(8話):ドソクの車の同乗者の一人。いじめっ子グループから盗撮画像で脅されており、非行に関与せざるを得なくなっていた。
  • カン・ソナ(9-10話):SNSで知り合ったファン・インジュンらに酒を飲まされ、暴行された被害者。
  • ファン・インジュン(9-10話):暴行事件の容疑者の一人。10代にして様々な凶悪事件を起こしているが、少年法に守られて厳しい処分を受けてこなかったことから、罪を犯すことへのハードルが明らかに下がっている。
  • ペク・ドヒョン(10話):ファン・インジュンの幼馴染で、不良グループのリーダー格。危ない人物としてその筋では有名。

感想

現代の大岡越前

非行少年を預かる地方裁判所少年合議部を舞台にしたドラマ。

数話で完結する複数の物語から構成されており、日本の刑事ドラマや時代劇に近い感触がありました。

主人公が課外調査などを行った末に、最終的には法廷で正義の沙汰を下すという構成からは『大岡越前』を思い出したし。

本編で描かれるのは少年犯罪に絡む多面的な考察であり、国際マーケットを視野に入れた作品の多いネットフリックス製韓国ドラマには珍しく、きわめてローカルな内容となっています。

韓国の司法制度や社会情勢に詳しくないとピンとこない部分も多々あるのですが、そうはいっても非行少年の更生というテーマには普遍性があるので、共感の接点はかなりあります。

そういった意味では、本作はテーマの選び方が良かったのだろうと思います。

加えて、判事の中でも際立った経歴を持つ主人公シムが、なぜ出世コースでもない少年刑事合議部に来たのかというミステリーや、カン部長判事の政界進出話など、シーズン全体を貫くプロットもちゃんと準備されていることから、まとまりの悪さは感じませんでした。

全体的なクォリティが高く、社会考察とエンタメの折衷にもかなりの部分で成功しており、ネットフリックス×韓国ドラマの抜群の安定感を証明する作品の一つとなりました。

各話レビュー

1-2話(9点/10点満点中)

少年法で保護されている13歳の少年が、小学生を惨殺する事件が発生。少年刑事合議部はこれをどう扱うのかという、初っ端から最終話クラスのヘビーなエピソードが炸裂します。

「非行少年は少年法で守られており、重罪犯でも数年で出られる」ということへの問題提起に始まり、更生と処罰のどちらに重きを置くべきなのかという問いかけや、少年の問題行動を野放しにしてきた家庭の責任など、日本社会でもしばしば論争が起こる論点を、鋭利な切り口でドラマ化しています。

社会派ドラマとして実に優れた内容であり、開始直後から一気に心を掴まれました。

その後、被告人である少年は、処罰対象になる14歳以上の共犯者をかばっているのではないかという疑惑も浮上し、その調査も開始されるというサスペンス要素も絡んできます。

意義深さ、面白さの両面で充実しており、社会派サスペンスとしては掛け値なしの傑作エピソードとなっています。この2話だけを切り取って2時間の映画にしても通用するレベルだと思います。

3話(6点/10点満点中)

非行少女が大怪我をして入院し、周囲は「また自業自得のトラブルに巻き込まれたのか」と思うのですが、実は家庭内暴力を受けていたことが発覚するというエピソード。

ここで描かれるのは家庭内暴力が未成年に与える悪影響と、家の中の問題を隠そうとする身内の問題であり、かつて暴力を受けた子供が大人になると、我が子にも暴力を振るうようになるという、負の連鎖も描かれています。

そういった点では意義深い作品なのですが、出てくるDV親父が家庭内はおろか、裁判所でも狼藉を働くレベルのマッド野郎で現実味が薄れたり、中立でなければならない判事が少女に対して法による制裁を約束したりと、納得できない部分も多々ありました。

特に判事の「私が正義を見せてあげる」的行動は、いかがなものかと思いましたね。

裁判とはどちらかに肩入れするものではなく、不偏の精神で事実認定を行う場だと思うのですが。

そういった点でも共感度低めのエピソードでした。

4-5話(7点/10点満点中)

未成年者の更生施設を扱ったエピソード。

まず驚いたのが、韓国社会では更生施設は民営だということで、裁判所が業務委託し、保護と教育が必要な未成年を民間施設に預けているとのこと。日本では考えられませんね。

で、この施設のセンター長に入居者への虐待と助成金の横領疑惑がかけられるのですが、調査をするうちに、これまたいろんな問題が発覚することとなります。

入居する非行少女達にヒアリングする中で、善人だと思われたセンター長の闇の一面が見えてくるのですが、それもまた非行少女たちの創作の可能性が出てくるなど、羅生門的なストーリーテリングは定番ながらもよく出来ていました。

また、青少年の更生は言われるほど簡単なことではなく、いかにこちらが善意で接しようが、一度悪に染まり切った者を元の道に戻すことは難しいという現実も描かれます。

6-7話(5点/10点満点中)

有名私立高校で、一部の生徒に定期テストの答案を教えるという事件が発生。カン部長判事がこの社会的注目を集める事件の担当になるものの、息子のシネも不正にかかわっていたことが発覚したものだからすったもんだがあるというのが、このエピソード。

この不正がちょっとわかりづらいので詳しく書くと、韓国の大学入試制度は内申点と本試験の総合で評価されるらしく、定期テストの答えを知っていれば内申点を楽に稼げるばかりか、一般生徒が定期テスト対策に使っている時間を本試験対策に充てられるので、圧倒的有利になるというわけです。

で、学校としては成績上位かつ親に経済力があって、一流大学に合格する可能性の高い生徒にこうした便宜を与えて、学校の進学実績をよく見せようとしていたわけですが、世間にばれたので大ごとになったというわけです。

起こっているのは確かに気分の悪いことなのですが、かといって世間を騒がす一大スキャンダルになったり、司法機関が調査に乗り出したり、当事者が法的な罪に問われるということは、日本人感覚だとちょっと理解しがたいものがありました。

学校から定期テストの回答を教えてもらっていた生徒は、一体何罪で裁かれるんだかよく分からないし。

中盤で、悪役っぽいおっさんが「子供の学力程度でこんなに騒がんでも」と言うのですが、まさに私も同じ感想だったので、本作のドラマに乗り切れませんでした。

あと、カン部長判事が本件を担当することも変なんですよね。

息子が不正に関与していたかどうか以前に、息子が当該学校に通っている保護者であるという時点で、事件の関連当事者であり、公正な審議ができない可能性があるため、担当からはずされると思うのですが。

ドラマ面では、正義と野心の間で葛藤するカン部長判事と、不正は不正として厳格に処理しようとするシムの攻防など、なかなか熱いものがあったのですが、ディテールが甘かったので没入感はありませんでした。

7-8話(7点/10点満点中)

第7話後半から8話にかけてのエピソード。

未成年者が無免許運転と暴走の末に事故を起こし、衝突されたバイク運転手と、車を運転していた未成年が重体に。

なんですが、この未成年者が保護観察を受けていたクァク・ドソクであり、担当していたチャ判事としても更生の実感を持っていたことから、この事故には何か裏があるんじゃないかということになります。

実際、調べてみると裏があって、ドソクは悪い同級生から酷いいじめを受けており、同乗者達から無免許運転を強要されていたことが発覚します。

モノの道理から考えると、この同級生たちが一番悪いのですが、そうは言っても直接的に不法行為を行ったわけでもない彼らにどうやって罪を問うのかというのが争点となります。

起こったことや、いじめっ子たちの態度が胸糞級なのですが、かといって彼らに重罰を課すだけの根拠がなく、無罪放免に近い形でリリースするしかない。

被害の程度と、加害者に対して問える罪が必ずしもイコールではないという現実の惨たらしい一側面を示した内容であり、ドラマチックなストーリー展開もあって、見ている間はかなり引き込まれました。

ただし、よくよく考えてみるとおかしな点が多々あるんですよね。

まず、このいじめっ子たちがいかに悪辣だったとしても、裁判所のご厄介になったことがあり、テコンドーの有段者でもあるドソクを支配しようなんて発想に至りますかね?改心したとはいえ、一般的には用心すべき相手のような気がしますが。

また、彼らがドソクに車を調達させ、無免許運転までさせて何をしたかったのかもよく分からないので、そもそもの動機部分も見えてきません。

こうした細かい綻びにも目が向いていれば第1話、2話に匹敵する傑作エピソードになった可能性もあっただけに、何とも残念です。

9-10話(8点/10点満点中)

少女への集団強姦事件が発生するのだが、その容疑者も未成年者だったことから少年刑事合議部マターに。

なんですが、容疑者の一人がシム判事との因縁浅からぬ人物であったことから、彼女のキャリア、人生を総括する案件となっていきます。

その因縁とは何だったのかというと、今回の容疑者の一人ファン・インジュンが11歳の頃に遊びでレンガを落として通行人を死なせるという事件を起こしており、その被害者がシム判事の子供だったということです。

我が子を殺されたのに重罪を課せられなかったばかりか、更生という少年法の精神すら履行されておらず、本格的な悪党になっていた。そのことに失望したシムは、今度こそ法の恐ろしさを見せつけようとするわけです。

この事件が『時計仕掛けのオレンジ』を彷彿とさせるほどの胸糞ぶりであり、この悪党どもを早くぶち込め!という気分になります。実にハードでエモーショナルなドラマであるわけです。

ただし、主犯格に関しては真正のサイコパスという感じで、もはや教育とか更生というレベルでもないので、少年法の意義を問うという本作のテーマにはそぐわないような気もしましたが。

終盤、チャ判事は「なぜあの子たちはああなったのか」と言いますが、大人がしっかりしていれば何とかなるような子供でもなく、なるべく長くぶち込んでおいて、社会から隔離しておくしかないタイプだと思いますよ。

そこが残念でしたね。もうちょいマイルドな、外部環境の影響で変貌したような不良であるべきだったと思います。

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