(2023年 日本)
アニメ『ルパン3世』の人気キャラ 次元大介のスピンオフ&実写化企画だけど、世界観やキャラ造詣が中途半端なために、かなりイタイ出来になっている。肝心の銃撃戦もイマイチだし、全方位的に芳しくない。
感想
アマプラがスベった
Amazonプライムが結構気合を入れて宣伝していた作品だったので、2023年10月13日の配信開始初日に鑑賞しようとしたけど、ファーストショットを見て「これヤバイかも…」という悪い予感がして、いったん再生をやめた。
冒頭の舞台はポーランドで、次元大介(玉山鉄二)が誰だかよく分からん外国人との決闘をしている。
作品に箔をつけるため海外場面を入れることは日本映画界の常套手段だけど、こうも教科書通りにやられてしまうと笑ってしまうし、出てくる外国人が安っぽいので、監督が意図したであろうリッチさは全然出ていない。
ここでヤバさを感じた私はいったん退散し、数日後にお暇ができたので改めて鑑賞したが、ファーストショットから感じた予感はおおむね的中した。
冒頭の対決では勝ちこそしたものの、標的を一撃では仕留められず、長年愛用してきたリボルバーの調子が悪いことに気づく次元。
古い銃なので直せる職人も限られており、日本にいるという世界一の銃職人の元を訪れる。
その銃職人というのが往年の名女優 草笛光子さん。
キャリア70年超という大ベテランで、黒柳徹子さんとも親交がある芸能界のレジェンド。御年89歳にして伝説の銃職人を演じるんだけど、背筋がピンと伸びており、滑舌も良い。私が知っている89歳とはレベルがまるで違う。
草笛光子さんの前では次元大介もタジタジで、「裏社会の仕事からは引退した」という彼女の言葉を受けてアッサリと退散する。
この時点で画面上の華というものをすべて草笛さんが持って行ってしまうので、そもそも微妙だった次元大介の個性がより埋没してしまう。主役を喰う脇役とは、まさにこのことだった。
そんな折、二人の前に現れるのがオト(真木ことか)という少女で、リボルバーの修理と引き換えに少女の身元を一時的に引き取る次元だったけど、そこに追っ手が現れていろいろヤバイことに巻き込まれるというのが、ざっくりとしたあらすじ。
リアリティラインがおかしい
オトを狙っているのはアデル(真木よう子)という女組長で、トラウマを抱えた子供特有の分泌液を使ったドラッグの製造・販売をしており、その”原料”であるオトを取り戻そうとしているわけ。
子供を原料としたドラッグという時点で、本作のリアリティラインがどこにあるんだか分からなくなってくる。
後半には分泌物を抽出する場面が出てくるんだけど、手術台に固定された子供を取り囲んでいるのは手術着を着た医師ではなく、ゴルゴムの神官のような装束に身を包んだおっさんたち。これは一体何の儀式なのか。
本作はリアリティラインの引き方がとにかくおかしい。
アニメが原作なので無茶があってもいいんだけど、その無茶にも一貫性は必要。
しかしリアルな暴力描写等で現実感を出したかと思ったら、次の場面では荒唐無稽になるなど、作品全体の世界感なり温度感なりが一定していないので、どう見ていいのか分からないのだ。
次元のハードボイル度0
次元大介は口数の少ないガンファイターで、玉山鉄二は若いころのクリント・イーストウッドみたいな演技をする。
しかし本作の次元には作り手が意図したほどのエッジがないので、ただカッコつけて、もったいぶった言い回しをしているだけ。これでは演じている俳優がかわいそうだ。
しかも多くの場面を普通の商店街ロケで済ませているので、そこに次元大介がいることの違和感が凄い。
ヤクザが仕切る泥魚街(でいぎょがい)というもう一つの舞台をもっと有効活用すればよかったんだけど、製作費が足らなかったんだろうか。
銃撃戦は配慮の塊
クライマックスの大銃撃戦もイマイチ。
次元がいよいよヤクザの本拠地にカチこんでいくという激熱ポイントのはずが、「次元に被弾させてはならない」という配慮が全面に行き届いていて、まるで盛り上がらない。
次元の放つ弾丸は百発百中なのに対し、数十人の敵が放つマシンガンは一発もかすらない。一時的に次元が肉弾戦に入った際には、取り囲むその他大勢の敵兵たちは銃撃を止めてくれるという親切ぶり。
あとヤクザの設定のはずなのに、施設を守っているのはミリタリージャケットを着た兵隊たちというのも、よく分からなかった。
アデル自身と、彼女が率いる組織の実態が分かったような分からんような状態なのも、本作の問題点だろう。
アデルの部下の川島(永瀬正敏)という男に至っては、顔を変化させる機能まで持っている。変装の名人というレベルではなく、顔の作りを変えられるのだ。基本形はダンディな中年男性なんだけど、若い女性の顔に変化することも可能。
アニメの『ルパン3世』でもこんな超常現象キャラは出てこなかった。これを実写でやるとおかしくなると、誰も気付かなかったんだろうか。
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