(2020年 アメリカ)
ヒーローが存在する社会というものを突き詰めた極限のリアリティ、息詰まるパワーゲーム、壮絶な個人のドラマ、容赦のない残酷描写と不謹慎なブラックユーモアが盛り込まれた濃密な全8話であり、その圧倒的な面白さと考察の深さには脱帽するしかありませんでした。今一番見るべき海外ドラマです。
あらすじ
前シーズンで指名手配犯となったザ・ボーイズは地下での潜伏生活を余儀なくされているが、ベッカの生存を知ったブッチャー(カール・アーヴァン)だけはやる気満々であり、ヴォート社の研究施設で暮らすベッカを奪還しようとザ・ボーイズの活動を再開させる。
その頃セブンは、前シーズンで死亡したトランスルーセントに代わってストームフロントを新メンバーに加えるが、情報発信力が高く謀略にも長けたストームフロントは徐々にチーム内での影響力を強めていき、ホームランダーを操るほどになっていく。
登場人物
ザ・ボーイズ
ザ・ボーイズとは反スーパーヒーロー活動を行っている地下組織であり、CIAの支援を受けながら活動している。
- ビリー・ブッチャー(カール・アーバン):ザ・ボーイズのリーダー。英国特殊部隊出身で、後にアメリカに渡ってCIAに所属したが、8年前に妻ベッカを失い、その背後にホームランナーがいることを確信したことからザ・ボーイズに参加した。シーズン1最終話にて、ヴォート社の研究施設で生存していたベッカと、その息子ライアンに出会ったが、ホームランダーの血を引くライアンへの愛着は一切なく、ベッカのみを救い出そうとしている。
- ヒューイ・キャンベル(ジャック・クエイド):シーズン1第一話にてAトレインとの衝突事故で恋人を亡くしたことが原因でザ・ボーイズに参加した。捜査・犯罪・テロ等の前歴を持つ者が多いザ・ボーイズの中では珍しい一般人であり、MMからはヒューイの感性こそが行き過ぎを防いでいると評価されている。スターライトと恋仲であり、組織の垣根を超えた二人の協力関係が役立っている。
- マーヴィン・ミルク/通称MM(ラズ・アロンゾ):元衛生兵でブッチャーの仲間だったが、シーズン1で初登場した時点ではザ・ボーイズから足を洗っており、妻子と共に幸せな家庭生活を送っていた。ブッチャーからの要請でザ・ボーイズに復帰して以降、指名手配されて地下に潜伏せざるを得なくなり、妻子と生活できなくなった。一見すると正常だが、実は強迫神経症を患っていることをスターライトに見抜かれる。
- フレンチー(トマー・カポン):フランス出身で麻薬の常習者。銃の密輸などの犯罪行為を行っており、ザ・ボーイズでもその調達能力が役立っている。キミコに恋愛感情を抱いている。
- キミコ(福原かれん):幼少期に弟とともに光解放軍というテロ組織に誘拐され、そこでコンパウンドVを投与されて能力者になった日本人。セブンから見た「スーパーテロリスト」である。ブラック・ノワールと渡り合えるレベルの身体能力と、高い治癒能力を持っている。シーズン1でコンパウンドVの密売人に監禁されていたところをザ・ボーイズに救出され、以降は彼らと行動を共にしている。
セブン
セブンとは、ヴォート社が抱える大勢のスーパーヒーローの頂点に君臨する7名で結成されるヒーローチーム。
- ホームランダー(アントニー・スター):スーパーマンがモデルだと思われるセブンのリーダー。怪力、飛行能力、傷つかないボディ、目からビームと攻守ともに優れた絶対的エースであり、セブンの象徴的存在。ただしヴォート社のラボで生まれ、親の愛を知らずに育ったことから人格面で大きな問題を抱えている上に、彼の精神面でのマネジメントもしていたマデリン・スティルウェル(エリザベス・シュー)をシーズン1最終話で殺害したことから、精神的に不安定になっている。自身の血を引く息子ライアンの存在を知り、分身として育てたいと思っている。
- クイーン・メイヴ(ドミニク・マケリゴット):ワンダーウーマンがモデルだと思われるセブンの2番手。身体能力の高さと傷つかない鋼の体を持っている。ホームランダーの冷徹な方法に抗議するなど常識的な感性を持つ人物ではあるが、表面的には体制に従順であり波風を立てない。ホームランダーと交際していた過去を持つが、実はバイセクシャルであり、現在は同性の恋人を持っている。これまで彼女のセクシャリティは隠されてきたが、利用価値ありとして本人の承諾もなしに公表された。
- ディープ(チェイス・クロフォード):アクアマンがモデルだと思われる海のヒーローで、水棲生物全般とコミュニケーションを取れる。また肋骨付近にエラを持っており水中活動も行えるが、本人はこれを醜いと感じており公表していない。シーズン1でスターライトにセクハラ行為を働いたためにメンバーから外され、オハイオ州に左遷された。そこで宗教カルト”共同教会”に勧誘され、当初は乗り気ではなかったが、彼らの政治力をセブンへの復帰に利用できると考えてその広告塔となった。
- Aトレイン(ジェシー・T・アッシャー):フラッシュがモデルだと思われる世界最速の男。ウサイン・ボルトのような決めポーズをとる。同じ能力を持つショックウェイブに今の立場を脅かされるのではないかと不安を抱いており、そのためにコンパウンドVへの依存度を高めて体調不良を示し始めた。
- ブラック・ノワール(ネイサン・ミッチェル):GIジョーのスネークアイズに激似しているセブンの忍者。言葉を発せず命令に忠実であるためホームランダーから信頼されており、ヴォート社の汚れ仕事なども行う。そんな彼も自分がコンパウンドVの申し子だったことは相当ショックだったようで、それを知った時には隠れて泣いた。
- スターライト(エリン・モリアーティ):スターガールがモデルだと思われるセブンの新人。スターガールとは1999年にコミックが発刊された比較的新しいヒーローであり、2020年には実写ドラマ化もされて本国では好評を博しています(アローバースに含まれている模様)。そんなスターガールと同じく本作のスターライトもスーパーヒーロー界の新人なのですが、煌びやかな外観とは裏腹に腐り切った内情に愕然とし、ヒューイを通じてザ・ボーイズの活動にも協力している。
- ストームフロント(アヤ・キャッシュ):原作では男性でマイティ・ソウのようなヒーローだったが、性別変更によってX-MENのストームっぽくなった雷を操るヒーロー。シーズン1で死亡したトランスルーセントの補充要員だが、その情報発信力の高さや策士的な動き方から瞬く間にセブンの中心的人物となった。
- ランプライター(ショーン・アシュモア):X-MENのパイロがモデルだと思われるセブンの元メンバーで、炎を操る。かつてCIA副長官マロリーを暗殺するつもりが誤ってその孫を焼き殺してしまい、恐らくその事件がきっかけで表舞台から姿を消した。スターライトは彼の補充要員だった。現在はヴォート社が極秘に運営する実験施設”セージ・グローブ・センター”で働いている。
ヴォート社
ヴォート社は能力者達のパワーの源泉であるドラッグ「コンパウンドV」の製造者であり、その副産物たるスーパーヒーロー達を広告塔として利用することで事業拡大を進めている。
- スタン・エドガー(ジャンカルロ・エスポジート):ヴォート社CEO。ヴォートの本業は製薬であり、ヒーロー事業は一部門に過ぎないとしてホームランダーを牽制し、生身の人間ながらヒーロー達に畏怖の念を抱かせている。コンパウンドVを企業機密にしておきたいと考えていたにも関わらず、ホームランダーによって世界中に拡散され、また議会への説明も行わざるを得なくなったことを苦々しく感じている。
- アシュリー・バレット(コルビー・ミニフィ):シーズン1ではマデリン(エリザベス・シュー)のアシスタントだったが、彼女の死により副社長に昇格し、主にセブンのマネジメントを行っている。ただし前任者ほどのカリスマ性はなく、セブンのメンバー達からは軽視されている。
- ジョナー・ヴォーゲルバウム博士(ジョン・ドーマン):ヴォート社の元科学者でホームランダーを作り上げた張本人だが、ヴォーゲル自身はホームランダーを失敗作であると評価している。現在は隠遁生活を送っている。
その他
- ベッカ・ブッチャー(シャンテル・ヴァンサンテン):ビル・ブッチャーの妻で、ヴォート社の広報担当だった。8年前にホームランダーに強姦されて以降は行方不明で、ビルもホームランダーも彼女が死んだものと思っていたが、実はホームランダーとの間の息子ライアンを極秘裏に出産しており、ヴォート社の研究施設で生活していた。ライアンを能力者にしたくないと思っている。
- ライアン・ブッチャー(キャメロン・クロヴェッティ):ベッカとホームランダーの間の子供。ヴォート社の研究施設内で生まれ育ったものの、それを普通の環境であると信じ込まされており、外の世界を知らない。またベッカの方針で内に秘めた能力を知らずにいたが、自分の分身として育てたい父ホームランダーの関与によって能力が開花し始める。
- グレイス・マロリー(ライラ・ロビンス):元CIA副長官でザ・ボーイズ創設者。妻を失ったブッチャーをザ・ボーイズに勧誘した張本人だが、後に孫をランプライターに焼き殺されたために戦意を喪失し、現在は隠遁生活を送っている。
- ビクトリア・ニューマン上院議員(クローディア・ドゥーミット):スーパーヒーローを危険視し、コンパウンドVに係るヴォート社の秘密を暴こうとする上院議員。
- アレステア・アダナ(ゴラン・ヴィシュニック):宗教カルト”共同教会”の指導者。政界や経済界に手を回せるほどの強大な発言力を持っており、ヴォート社との関係が悪化しつつあるディープやAトレインを取りこんで広告塔として使っている。
感想
より複雑化し面白さを増したシーズン2
シーズン1は、もしスーパーヒーローなるものが実在すれば副次的被害も出すのではないか、ヒーロー達はイメージを守るために副次的被害を徹底して隠蔽するのではないかという極限のリアリティをスタート地点とし、ヒーローとその被害者の情念入り乱れる争いが描かれました。
それはそれで非常に面白かったのですが、シーズン2では更なるテーマの拡張が図られています。
セブンvsボーイズの水面下での争いのみならず、スーパーヒーローという象徴的な存在の背後にいる権力者達のパワーゲームも本格化します。
ヴォート社は自前のヒーロー達への支持とスーパーテロリスト達の脅威を利用して「ヒーローこそが安全保障の要である」という世論を形成し、パブリックセクターへの参入や企業価値向上を目論みます。
一方、ビクトリア・ニューマン上院議員(クローディア・ドゥーミット)を急先鋒とするリベラル派は、スーパーテロリストは作られた脅威であること、スーパーヒーローは人格面で問題を抱えており、安全保障を委ねられる相手ではないことを証明しようとします。
そこにボーイズたちの活動が絡み、ヴォート社の闇を暴くことが骨子となります。
ヒーローが存在する社会というものを突き詰めた極限のリアリティ、息詰まるパワーゲーム、壮絶な個人のドラマ、容赦のない残酷描写と不謹慎なブラックユーモアが盛り込まれた濃密な全8話であり、かつ複雑だが分かりづらくはないという神がかった構成には脱帽するしかありませんでした。
ヒーロー間の対立・ヒーローと組織の対立
対立はヒーローvs アンチヒーローのみならず、ヒーロー同士の思惑の違いや、セブンとヴォート社の方針のズレなども明確となってきます。
やはり大きかったのは前半におけるコンパウンドV報道であり、超能力は薬物によって作られたものであるという事実は、ヒーロー達のミーイズムを一気に加速しました。
才能とは英語ではgiftであり、天からの授かりものという含みがあります。
いろいろ問題は起こしつつも、ヒーロー達は「天から授かった能力を世のため人のために使わなければ」という思いや使命感を持って仕事をしていたのに、それは人為的に作られたものだと分かってしまうと、後には自分しか残らなくなります。
そこからセブンの内部崩壊は一気に進み、スターライトのみならずクイーン・メイヴもほぼ活動を止め、ホームランダーの暴走は輪をかけて酷くなり、彼を利用しようとするストームフロントの活動も露骨になっていきます。
セブンは正義という軸を失い、腕力にものを言わせるならず者集団になっていったのです。
その結果、母体であるヴォート社との方向性の違いも顕著なものとなっていきます。
CEOのエドガーは広告塔として有用なのでスーパーヒーローを使っているにすぎず、本業は製薬会社であることを明言します。
そして、ヒーロー事業のことしか考えていないホームランダーがコンパウンドVを世界に流出させたことは、知的財産権を抱え込んでおきたい会社の利益に反していたと言います。
象徴的なのはヴォート社が極秘に運営する実験施設”セージ・グローブ・センター”であり、一見するとスーパーヒーローやスーパーテロリストを作るための施設のようなのですが、ヴォート社の狙いはまったくそこにはなく、コンパウンドVの品質を安定させるための人体実験場こそがその正体でした。
ヴォート社は決してヒーロー中心で回っているわけではなく、まったく別の思惑を持っている。これがドラマをより面白く予測不可能なものにしています。
またヴォート社CEOを演じるジャンカルロ・エスポジート(『ブレイキング・バッド』で麻薬王ガス・フリングを演じた人)の静かなる威圧感や、すべてを読み切っているような超然とした態度も素晴らしく、登場場面はそう多くはないながらも強い印象を残します。
シーズン3以降でもぜひ活躍していただきたい魅力あるキャラクターです。
大企業と宗教の癒着
この構図にさらに絡んでくるのが巨大宗教組織です。
シーズン1でもヒーローの支持基盤として宗教組織があることは描かれていましたが、本シーズンでは行き場を失ったヒーローを広告塔として使い、政治力も行使するという、より深刻な問題を抱えた組織として描かれます。
彼らはディープやAトレインに接触し、セラピーと称して洗脳を行います。
それを受ける側は完全に取り込まれはしないものの、その教えの一部には共感できるし、付き合っておけば復帰のチャンスを与えてくれるかもしれないという期待も膨らんで、徐々に傾倒していきます。
彼らは宗教組織と言いつつも欲を持った人間達の集まりであり、ヴォート社や政治家などと比較すると思考レベルは低いのですが、如何せん影響力があるのでエドガーすら彼らを無視することができず、持ちつ持たれつで裏取引などを行います。
これは現実のアメリカ社会を反映したものであり、人口の1/4を占める福音派は巨大な発言力を持っています。そして、近年では経済界との癒着が指摘され始めています。
理由は科学者への反発という点で利害が一致していることであり、聖書に書かれていることを真実とする福音派はそもそも科学に対して否定的であり、そこに環境問題などで科学者と対立することの増えた大企業が乗っかって来たという構図です。
宗教右派と大企業がタッグを組んで、リベラルな政策が進めづらくなる。この辺りの事情はポール・シュレイダー監督の『魂のゆくえ』(2018年)で詳しく描かれているので、ご興味のある方はぜひ。
表面的なポリコレへの皮肉
さらに本作はアメリカの社会風潮にもメスを入れます。
クイーン・メイヴがバイセクシャルであることは長年隠されてきたのですが、その事実を知ったホームランダーが嫉妬の気持ちもあってメディアの前で公表してしまいます。
すると、性的少数者がいれば活動が肯定的に捉えられるということでヴォート社もこれに乗っかり、彼女のセクシャリティを全面的に利用しようとします。
レズビアンだから男っぽい服装にしろなどと言って世間が望む性的少数者像を作り上げようと必死になり、もはやクイーン・メイヴ本人への配慮など微塵もありません。
これは、マイノリティが含まれてさえいれば本質が伴っていなくても配慮したことになるというアメリカ社会の行き過ぎたポリコレを強烈に皮肉ったものだと言えます。
次シーズンへの期待が高まるクライマックス ※ネタバレあり
物語は二転三転しつつも、最終話では当シーズン最大のヴィランであったストームフロントを女性ヒーロー3人でフルボッコにするという、胸のすく展開を迎えます。
暗くて陰惨な展開の多い本シリーズでは珍しく爽快感のある結末なのですが、その裏ではホームランナーとベッカの息子であるライアンが母を失い、幼少期のホームランナーに近い環境に置かれつつあることから、高い潜在能力を持つライアンがどう変貌していくのかという不安も抱かせます。
加えて、最後の最後で視聴者にのみ明かされる真の黒幕の存在。これには心底驚かされました。現時点では劇中の誰もその正体に気付いておらず、シーズン3以降を大きくかき回す存在になると考えられます。
セージ・グローブ・センターから脱走したサイキックはいまだ行方知れずであり、その動きが今後の展開に影響を与える可能性は十分あります。
これまた大きな不安を抱いたのですが、連続ドラマにおける不安とは次の展開への関心へと直結し、早く次が見たいと思える素晴らしい終わり方だったと言えます。
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