(2023年 スペイン)
密航者の隠れたコンテナが海に流されるというサバイバルスリラー。サバイバル劇としては一貫性がなく、ランダムなアイデアの積み重ねという印象も受けたが、主人公の成長譚としてみるとなかなか面白かった。
感想
Netflixで配信されていたのを何気なく鑑賞したら、思いがけず面白かった映画。
舞台はどういうわけだかディストピア化したスペインで、深刻な物不足に悩む独裁政権は子供や高齢者をゴクツブシと見做して弾圧。
それでも子供を持ちたいミアとニコの夫婦は海外脱出を試みるんだけど、出航前に夫婦が離れ離れになるわ、彼ら密航者たちが隠れているコンテナがおかみに見つかるわと、とにかくすべてがうまくいかない。
挙句に、ミアが閉じ込められたコンテナは嵐に遭って船から海に落っこちて漂流を開始。さてさてミアの運命や如何にというのが、ざっくりとしたあらすじ。
極限状態でのサバイバル劇は決して珍しいジャンルではなく、実話をもとにした『オープン・ウォーター』(2004年)、ロバート・レッドフォード主演の『オール・イズ・ロスト〜最後の手紙〜』(2013年)などがその前例。酸素切れ寸前の宇宙船を舞台にした『オキシジェン』(2021年)という変わり種もありましたな。
この手のジャンルはコンセプトこそ観客の目を引くものの、話の展開のさせ方が難しいのが、意外と良作が少ない。
例に漏れず本作も期待されるほどのサスペンスには達していなかったように思う。
サバイバル劇のポイントは、主人公が軸となるプランを持ち、その実現のためにあらゆる困難を乗り越えるという点にあると思う。
『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)は「ひたすらに船底を目指す」、『オール・イズ・ロスト~最後の手紙~』(2013年)は「発見される可能性を高めるよう1秒でも長くヨットを浮かべておく」、『フライト・オブ・フェニックス』(2006年)は「生き残った1機のエンジンでも飛ぶ軽飛行機を即席で作り上げる」だった。
しかし本作にはそうした軸となるプランがないので(主人公がド素人なので致し方ない部分ではあるが…)、サバイバル劇として一本筋が通っていない。ひたすらに状況に対処するのみで一貫性がなく、ランダムなアイデアの積み重ねでしかないのだ。
また金属製のコンテナ内でも携帯電話が使える、大海原でも通話ができるなど、疑問点を感じる部分も多い。
これらのことからサバイバルスリラーとしては決して良好な出来とは言えないのだが、その一方で主人公ミアの成長譚としてはよくできているので、そこに集中して見ると楽しめる。
登場時点のミアは夫に依存する非力な女性だが、夫と離れ離れになるわ、ひとりで海を漂流するわ、この極限状態で子供は産まれるわで、「頼れるのは自分だけ」状態となる。
そこからの巻き返しの凄まじさよ。
どんなトラブルが起こっても投げ槍になることなく、どうにかして解決の糸口がないかを探る。状況は悪化し続け、子供はこちらの都合など考えず狂い泣く。まさに極限状態ではあるが、ミアは決して折れない。
この力強さこそが本作最大の見せ場であり、主演のアンナ・カスティーリョの演技にも説得力があった。
ベタな言葉ではあるが、「母は強し」をまざまざと見せつけられる良作である。
コメント
ここの映画レビューサイトは語彙力豊富でなおかつ作品の本質を見抜いた深い考察が読んでて中々愉しいのでこれからも続けてほしいです
褒めていただいて、ありがとうございます。これからも頑張って続けます。