ヒストリー・オブ・バイオレンス【7点/10点満点中_暴力のカタルシスを否定したアクション映画】

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[2005年カナダ]

7点/10点満点中

■クローネンバーグなのに面白い

劇場公開時には「クローネンバーグの映画なのに面白い!」と話題になった作品でしたが、確かにシンプルなあらすじで理解が容易である上に、アクション映画らしいカタルシスもあって、とても面白い作品に仕上がっています。忍従を重ねるが、反撃せざるをえない状況にまで追い込まれると華麗な殺人技でアウトロー達を瞬殺するヴィゴ・モーテンセンのかっこよさだけで90分は余裕でもっています。

ネタを明かすと、クローネンバーグは前作『スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする』に2年もの時間を費やした割に個人としては1ドルも金が入ってこなかった経験から、今度は売れ線をと考えて本作をチョイスしたという経緯があるのですが、敷居が高くて何がうまいんだか分からない料理ばかり作ってきた板前さんにカツ丼を作らせると、とんでもなく旨いものを作ってきたかのような嬉しい意外性がありました。

■アクション映画でありながら暴力礼賛にはなっていない

また、そうした単純明快さと同時に深い考察にも耐えうる奥行も兼ね備えているという点が、他のアクション映画にはない魅力となっています。作品中で描かれるのはマフィアやいじめっ子に絡まれた末に行使する暴力であり、通常の映画あれば「仕方ないよね」で流される類のものばかりなのですが、本作が独特なのは暴力を受けた側の人体損傷や、いじめっ子が病院送りになったという事後的な情報など、暴力の帰結部分までをきっちり見せてくるということであり、これにより何とも言えない後味の悪さが残ります。

前述の通り、表面上はアクション映画らしいルックスになっているものの、この後味の悪さに観客は違和感を覚えます。そしてよくよく考えてみれば、本作は暴力映画のようでいて、その実「どんな理由であれ、他人に暴力振るっちゃったらあなたのレベルも下がるよ」とでも言っているかのような含みがあり、ひいては娯楽映画の暴力に拍手喝采する観客に自己批判をさせるという二重構造の内容となっているわけです。

■暴力の連鎖に巻き込まれたアメリカの物語

さらには、一度でも暴力の連鎖に巻き込まれてしまうとそこから抜け出すことは困難であるという、普遍的な暴力の考察にもなっています。公開時のインタビューでクローネンバーグもモーテンセンもアメリカという国を描いた映画だと明言していましたが、個々の事象を切り取ればやむをえない背景があったにしても、問題解決の方法として暴力を用い続けたことで次のトラブルに見舞われるという負の連鎖が始まる様は、対テロ戦争の泥沼から抜け出せなくなったアメリカそのものです。

■加害者と被害者は紙一重

また、当初主人公はマフィアから因縁をつけられる被害者のように見えていたものの、クライマックスでその兄より明かされる主人公の過去と、身内からすら「死んで過去の落とし前をつけろ」と迫られるほどの激しい憎悪を抱かれている様より、劇中起こるトラブルはすべて自業自得のものだったことが判明するという構成もよく考えられています。視点によって見え方が変わってくる正義というものの脆弱性を描いていると同時に、過去の中東政策の失敗が911テロに繋がったというアメリカの状況も示唆しており、こちらも興味深く感じました。

■アメリカの二面性

もうひとつ興味深かったのが、主人公の二面性といういかにもクローネンバーグらしいテーマも描かれていることです。マフィアから恐れられるほどの狂犬だったジョーイ・キューザックがいかにして田舎町の食堂店主トム・ストールに変貌したのか。また、トムの頭の中ではジョーイという人格がどう処理されているのか。噛み合わない会話に業を煮やしたフォガティは「お前は自分のウソを信じ込んでいるな」と言い、妻は「あなたは多重人格なの?」と言い、どちらもトムの人格とジョーイの人格が共存していないのではないかとの推測をしているのですが、主人公はそのどちらの解釈にも同意しません。トムとジョーイの人格に断絶はなく、どちらも主人公の脳内に自然に存在しているものと考えるべきなのでしょう。

そして、この解釈もまたアメリカ社会の考察に繋がっているように思いました。世界一文化の進んでいる国なのに、世界一戦争をしている国でもある。また、国内の特に信仰の厚い層こそがもっとも戦争を望んでいたりと、アメリカとは傍から見ると大きな矛盾を抱えた社会なのですが、当事者内ではそこに断絶があるわけではなく、彼らなりに筋の通った言動のつもりでいる。暴力と日常とは縁遠いもののようでいて、実は同じ文脈の中で発生しうるものであるという危うさを訴えているように感じました。

History of Violence
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
脚本:ジョシュ・オルソン
原作:ジョン・ワグナー,ヴィンス・ロック
製作:クリス・ベンダー,J・C・スピンク
製作総指揮:ジャスティス・グリーン,ロジャー・E・カス,ジョシュ・ブラウン
出演者:ヴィゴ・モーテンセン,マリア・ベロ,エド・ハリス,ウィリアム・ハート
音楽:ハワード・ショア
撮影:ピーター・サシツキー
編集:ロナルド・サンダース
配給:ニュー・ライン・シネマ(アメリカ),ムービーアイ(日本)
公開:2005年5月16日(フランス)2005年9月23日(アメリカ),2006年3月11日(日本)
上映時間:96分
製作国:カナダ,アメリカ合衆国

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