見えざる手のある風景_笑えない風刺映画【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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コメディ
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(2023年 アメリカ)
強者による弱者の経済的簒奪や文化の盗用などをテーマにした社会風刺映画だけど、風刺の部分が全面に出すぎていて、笑いに昇華されていないのが欠点。着眼点は悪くなかっただけに、もっと笑いのセンスのある監督に撮って欲しかった。

感想

今までまったく知らなかった映画だけど、Amazonプライムで配信されているのを発見して、何気なく鑑賞した。

なぜ本作が引っかかったのかというと、プランB製作だから。プランBは俳優ブラッド・ピットが共同設立者である映画製作会社で、シネフィルであるブラピらしい通好みの作品選びで定評があり、『それでも夜は明ける』(2013年)と『ムーンライト』(2016年)でアカデミー作品賞を受賞している。

そんなプランBが手掛けたのだから並みの映画ではないだろうと思って見たら、予想を越えてユニークな作品だった。

舞台となるのは2030年代のアメリカで、一見すると現代社会と大差ないのだが、高度な文明を持つエイリアンとの接触によって経済・産業は根底から覆り、エイリアンと懇意にしている一部の超富裕層を除いては、全員が等しく貧しい社会が到来している。

主人公の高校生アダムは、母・妹と共に郊外の住宅で生活している。ある時、転校生のクロエの一家がホームレス生活を送っていると聞き、彼女への好意も大いに込みで、アダムは自分の家にクロエ一家を住まわせることにする。

ただしどちらの家族もカツカツである上に、この苦境から抜け出すために何の努力をすればいいのかすら定かではない社会。アダムとクロエは金目的で自らを主人公に恋愛リアリティショーを製作し配信するというのが、ざっくりとしたあらすじ。

この概要からお察しの通り、強者による弱者の経済的簒奪が大きなテーマとなっているのだが、本作の地球人たちは、もはやぐうの音も出ないほどの違いのあるエイリアンに対して反抗する気力すら失っているというのが、通常のSF映画と大きく異なるところ。

加えて若者の一獲千金の方法が動画配信になっているという点も現代的。

動画配信はGoogleが運営するYouTubeの超独占市場で、YouTuber達の生殺与奪はGoogleが握っていると言っても過言ではない。Googleの運営方針が変われば動画がNGにされるリスクはあるし、収益の分配方法もGoogleの決め次第だ。

実際、ここ数年は収入の激減を報告するYouTuberが増えており、彼らからすればGoogleは神に等しき存在だと言える。

そんなわけで、庶民では太刀打ち不可能な巨大資本をエイリアンの脅威と見立てた本作の構成はなかなかに興味深かった。

アダムとクロエの動画は、恋愛という行動様式を持たないエイリアンの間で大バズリして、二人は良い収入を得るのだけれど、ウケを狙いすぎた結果、エイリアンたちから「やらせでしょ」という指摘を受けるに至る。最初はナチュラルだったものが、次第にやりにいくようになるというのも、動画配信の常だ。

それでもYouTubeならばファンが離れておしまいだろうが、本作のエイリアンたちは違う。「やらせは罪」だとしてアダムとクロエは罪に問われ、6代先まで借金まみれという高額な罰金を課せられることになる。

ヤラセがバレたら罰金というのは、現実社会でも取り入れて欲しいシステムだとちょっとだけ思ったけど、それにしても高校生の動画配信者が罪に問われるのは酷だ。このエイリアンたちには慈悲の心が全くないということが分かってくる。

その後、罪の免除の代わりにエイリアンのホームステイを受けいれるとか、学校を閉鎖されるとかいろいろあって暇になったアダムは、無人化した校舎に宇宙人への反感をアートで表現する。

決してうまくはない絵なんだけど、絵心のないエイリアンたちにはこれがぶっ刺さり、高額の契約料と引き換えに宇宙で絵を描いてほしいと依頼される。

これは露骨に文化の盗用でしょうな。

アダムの作品の本質はエイリアンの支配への反抗だったけど、エイリアンたちはその本質部分を捻じ曲げて、アートの上澄み部分のみを掬い取ろうとする。

通常の映画の主人公ならば、「この絵はそういうものじゃない!」と言って反抗するところだけれど、アダムは「そんな大金をもらえるのなら」と言って、あっさりとエイリアンの金を受け取ってしまう。なかなか世知辛いが現実とはそういうものだ。

ただしアダム自身も自分は絵がうまいとは思っていないので、自分の才能に過大な期待をかけられていることを知ると、やっていく自信がなくなって契約放棄をして帰ってきてしまう。ここで映画は終わり。

全編を通じて何とも気の抜けた作品で、それは結末まで続くのだけれど、それが笑いに昇華されているわけでもないのはちょっと残念だった。

個人的に社会風刺映画の最高傑作だと思っている『26世紀青年』(2006年)という映画があるんだけど、あの映画は鋭い批評精神と共に、腹を抱えて笑うほどのギャグがあって、笑いと風刺がうまく噛み合っていた。

本作は批評精神ばかりなので、どこか味気ない。

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