(2003年 アメリカ)
21世紀の駄作の代表的作品なのだが、確かに酷かった。メインのクライムドラマにはまったく骨がなく、コメディパートはまったく笑えない。当時ガチカップルだったベン・アフレックとジェニロペがイチャイチャしてるだけの映画で、ほとんどプライベート垂れ流し状態。見ているこっちが気まずくなってきた。
作品解説
マフィア映画からラブコメへ
本作のオリジナル脚本を書いたのは『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)、『ミッドナイト・ラン』(1986年)のマーティン・ブレストで、監督も務めた。
元はドストレートのマフィア映画で、ベン・アフレックとハル・ベリーの共演が予定されていたのだが、ハル・ベリーが『X-MEN2』(2003年)出演のため降板し、歌手で女優のジェニファー・ロペスに交代した。
共演者に手を出すことで定評のあるアフレックはジェニロペにも手を出し、ほどなくして二人の交際が世を賑わせるようになる。
この大物カップルはベニファーと呼ばれていたのだが、数年後にブラピ&アンジーがブランジェリーナと呼ばれるなど、なぜかアメリカのワイドショーはゴテンクス的なネーミングを好む傾向がある。個人的にはセンス悪いネーミングだと思うが。
このゴシップを受け、製作・配給を行うソニーは欲をかき始める。
リアルでの二人の交際と映画を関連付ければ話題性ばっちりで、観客にも大うけするんじゃないかというわけでマーティン・ブレストを説得し、突貫作業でロマンティック・コメディに書き換えさせた。
この変更の影響で製作費は5400万ドルから7560万ドルに増額されたが、この判断が大失敗だった。映画のクォリティがガタ落ちしたのである。
全米大コケ映画
本作は2003年8月1日に全米公開されたが、スター共演の話題作であったにも関わらず初週で375万ドルしか稼げず、初登場8位と低迷した。
2週目には67万ドルにまで低下。初週と比較した売上高の下落率は81.9%で、当時のワースト記録だった。
全米トータルグロスはたったの608万ドルで、ベン・アフレックの出演料1250万ドル、ジェニファー・ロペスの出演料1200万ドルすらカバーできなかった。
史上初 ラジー賞主要5部門独占
惨憺たる興行成績、肯定評が全く見当たらない批評家レビュー、リアルカップル共演という公私混同ぶりのイタさ、メジャースタジオが駄作を作ったという無駄金ぶりなど、ラジー賞好みの要素が揃ったことから、その年のワースト作品の台風の目となった。
なんとラジー賞9部門にノミネートされ、最低作品賞、監督賞、脚本賞、男優賞、女優賞の主要5部門に最低スクリーンカップル賞を加えた合計6部門を受賞。
主要5部門を独占したのはラジー賞の歴史始まって以来のことだった。
そして2005年には25周年最低コメディ賞を受賞。また2010年には2000年代最低作品賞にもノミネートされた(受賞はジョン・トラボルタ主演の『バトルフィールド・アース』)。
この通り、本作は最低映画の金字塔的作品であり、アメリカの北京原人だと言える。
感想
噂通りの駄作
本作は公開当時から悪評しかなく、スター共演作でアル・パチーノにクリストファー・ウォーケンと脇役も豪華だったにもかかわらず、日本での劇場公開は見送られた。
ほとんどネタ映画扱いで、映画好きならみんな知っているものの、実際に見た者は数少ない。そんな映画。
例に漏れず私も見たことがなかった。
それがこの度Netflixにあがっていた上に、ベン・アフレックとジェニロペが20年ぶりに復縁して婚約までしたという話題性もあって、いっちょ見てみることにした。
こうして20年越しの視聴となったのだが、この手の映画は酷い酷いという悪評だけが先行して、実際見てると意外と悪くないというケースもあるので(『ウォーターワールド』,『GODZILLA』)、ちょっとだけ期待する自分もいた。
が、本作に関しては世評が完全に正しくて、思った通りの酷い映画だった。
映画として褒められる部分がまったくないという清々しいまでの駄作ぶりで、他人には絶対に勧められない出来映えだった。
コメディなのにまったく笑えない
奇妙なタイトルは主人公の名前を指す。
ラリー・ジーリ(ベン・アフレック)はLAのマフィアの下っ端構成員だが、ある時、療養施設に入院する青年ブライアン(ジャスティン・バーサ)の誘拐を指示される。
すんなりと誘拐に成功したジーリはブライアンを自宅マンションに連れ帰るのだが、そこに見ず知らずの美女リッキー(ジェニファー・ロペス)が現れ、重要な案件なので協力して進めるよう指示されたと言う。
こうして3人のちぐはぐな関係が始まるのだが、それぞれにはいかにもコメディらしい極端な性格付けがなされており、作り手側は笑わせる気満々なのだということが伝わってくる。
- ジーリ:教養のないチンピラで、男らしさに異常なこだわりがある
- リッキー:セクシーでとんでもなく男受けするレズビアン
- ブライアン:底抜けに明るい知的障碍者
リッキーがレズビアンだと知らないジーリが頓珍漢なアプローチをかけたり、二人で性器談義を繰り広げたり、ブライアンがやたら『ベイウォッチ』(人気お色気ドラマ)にこだわったりと、いろんな下ネタが仕込まれているのであるが、これらがまったく笑えないというのが凄い。
下ネタという飛び道具を使っても笑えないというのは相当なものである。
『ビバリーヒルズ・コップ』や『ミッドナイト・ラン』など、笑い要素強めの娯楽作で実績を上げてきたマーティン・ブレスト監督は、本作の不出来にすっかり自信をなくしてしまい、監督を引退してしまった。
それほどまでに本作はスベりまくっているのである。
まったく山場のない犯罪映画
ジーリが誘拐したブライアンは連邦検察官の弟であり、マフィアのボス(アル・パチーノ)の公判を有利に進めるため、組織はブライアンを使って脅しをかけようとしている。
なのだが、それは組織の中間層が勝手に計画したことで、終盤に登場するボスは「そんな脅しが通用するわけないだろ」と言い出す。
これが骨子となる物語であり、この内容ならば、誘拐の発覚を恐れたボスはブライアンを処分しろと言い出すのだが、彼に対する愛着の芽生えたジーリはこれに抵抗する的な展開を想像する。
なのだが、全くそうならないのが本作の凄いところ。
「元いた場所にブライアンを返して来い」で終わりなのである。
せっかくアル・パチーノを出演させているのにハードな措置を取らないし、刑事役にクリストファー・ウォーケンを配置しているのに全く絡んでこない。
一応は犯罪映画のフォーマットを取りながら、ここまでその要素が生きていない映画というのも凄い。
まったく山場がない平野のような犯罪映画だった。
ガチカップルが褒め合う恥ずかしさ
犯罪映画としてはそこまで腑抜けで、では一体何がやりたかったのかというと、ベン・アフレックとジェニファー・ロペスのラブコメである。
ジーリはリッキーに惚れるのだが、レズビアンのリッキーにとっては恋愛対象外。そんな深い谷を乗り越えようと、ジーリがあの手この手でリッキーにアプローチを仕掛けるのが、本作の横糸である。
ジーリはリッキーに見とれて「いい女だなぁ」と言ったり、彼女に面と向かって「最高すぎる」と言ったりするのであるが、当時二人はガチカップルだったという点が、見る側の気恥ずかしさを誘う。
一方リッキーもリッキーで、最初はジーリに無関心という態度だったのだが、次第に彼に心を開き始めて、「あなただったら男でもいいわよ」なんて言い出す。
映画という場でリアルのカップルが褒め合うって、本当にセンスを疑う。
まぁ脚本通りに言わされていただけとも言えるのだが、当時のベン・アフレックとジェニロペの待遇を考えるとセリフに口出しくらいはできたはずであり、本人たちもノリノリだったんじゃないのと思えてくる。
その公私混同ぶりが、映画と観客との間に深刻な温度差を生んでいる。
日本で言えば梅宮アンナと羽賀研二みたいなものである。って古すぎるか。
親友のマット・デイモンによると、正気に戻ったベンは本作を心から恥じており、そのタイトルを出されただけでも引きつるらしい。
こんなどうかしてる映画が世界中の人の目に触れた。ただの大コケ映画ならば数年で風化したところ、レジェンド級の最低映画になったので半永久的に語り継がれることになった。
これはハズい。本作は監督のみならず出演者にも深い傷を与えた作品だった。
ジェニロペは目の保養
なのだが、この時のジェニロペのセクシーさ、美しさは確かに凄い。
ベン・アフレックのみならず監督もスタジオ幹部もみんなジェニロペに魅了され、彼女を褒めちぎるセリフが泉のように湧き出てきたのだろうと思う。
そういえばジョージ・クルーニーと共演した『アウト・オブ・サイト』(1998年)でもジェニロペの美しさは際立っていたし、彼女とクライムドラマの相性はかなり良いのだろう。
加えて、マーティン・ブレスト監督は『ジョー・ブラックをよろしく』(1998年)で、他にこれと言った代表作のないクレア・フォラーニから魅力を引き出し、彼女が次世代スターになるのではないかと一時的に錯覚させた実績も持っている。
全盛期のジェニロペという逸材、彼女と相性の良いジャンル、女優を美しく撮れる監督、この3要素が揃ったことで、本作のリッキーは誰の目にも魅力的に映っている。
いろいろとグダグダな本作であるが、ジェニロペだけは見せ場として機能しているので、美人を見る目的であれば必見だと言える。
しかしベン・アフレックは美人ばかりよく落とせるものだ。最近ではアナ・デ・アルマスと交際していたし、過去にはグウィネス・パルトローとも付き合っていた。本当にモテる人なんだろう。
交際遍歴の華やかさで言えばハリウッドトップじゃなかろうか。そんな人生を送ってみたいものである。
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