ノック 終末の訪問者_家族を殺さないと人類が滅びます【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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終末
終末

(2023年 アメリカ)
家族の命か人類の存亡かという究極の二択を突きつけられた家族を描く終末ドラマ。この突拍子もない設定を堂々たるドラマに落とし込んだM・ナイト・シャマラン監督の抜群の演出力・構成力が光る。世評は振るわないようだが個人的には好き。

感想

Amazonプライムに数か月前からあがっているのは知っていたけど、なぜか興味が持てず未見状態が続いていた。正月で暇だし、かといって長い上映時間の映画だと寝落ちしそうだしという微妙なタイミングで見た。

図らずもこれが2024年一発目の映画鑑賞になったけど、なかなか面白かったので今年の出足は良いんじゃないか。

脚本・監督を務めたのはM・ナイト・シャマラン。初期の神童ぶりからは一転して、今ではアレな監督という評価で固まりつつある御大だけど、本作は珍しく原作付き。

2017年に出版された小説を別の脚本家コンビが2019年に脚色、それをさらにリライトしたのがシャマランだったらしい。

ゲイカップルと東洋人の養子が住むキャビンに、人種も背格好もバラバラな4人組の襲撃者が現れ、「君たち3人家族のうち一人の命を差し出さないと人類が滅びる」と、電波丸出しの要求をされるというのが、ざっくりとしたあらすじ。

主人公がゲイカップルという点に何か意味があるんだろうかと思ったけど、彼らは差別から逃れるために人里離れたキャビンで暮らしていたという、完全密室を作るための設定の一つに過ぎなかったようで、昨今の過剰なポリコレ設定ではないという点にはご安心いただきたい。

冒頭わずか15分で舞台を作り上げてしまうシャマランの手慣れた演出には恐れ入った。

個人的な感想として、シャマランって音の演出がうまい監督だと思ってるんだけど、本作でもキャビンが襲われる際のぐるりと取り囲まれたようなサウンドデザインは秀逸だった。

キャスティングも適格だ。人間味溢れる大男デイヴ・バウティスタは「こいつに襲われたら観念して縛られるしかねぇ」と思わせる圧倒的な威圧感を披露する。

その他、いかにも人のよさそうな中年女性とか、メンタルダウン寸前の顔をした若い女性とか、犯罪者ギリギリの風体の白人男性とか、怪しさと真実らしさのちょうど中間地点にいるかのような4人組のいかがわしさ・不安定さが、実に良い味となっている。

この4人組が家族に対して「あなたたちが決断しないと人類が滅びます」と言ってくるのだけど、主人公も観客もにわかには信じられない。

「そりゃこんな話を信じられませんよね」と言うと、家族の目の前で仲間のうちの一人を処刑して本気であることを見せつける襲撃者たち。続けてテレビをつけて、彼らの予言通りに破滅が始まっていることを提示する。

テレビ報道によって世界情勢を映し出すというのは『サイン』(2002年)でもやっていた。

その後の20年間でメディアはテレビからウェブ、そしてSNSへと大きくシフトしたけど、依然としてテレビのインパクトって大きいんだなということを、本作を見て強く感じた。

テレビで流れることの客観性は依然として唯一無二のものだ。SNSでの切り取られた動画は断片のみで全体が分からないし、フェイクの可能性だってある。テレビ局の信頼性こそが人々の事実認識に大きな影響を与えているのだ。

どうもこいつらが電波系ではないことを悟った家族は、人類70億人の運命を背負った決断を下すというのが、本作のメインテーマとなるのだけれど、主人公と観客に破滅を受け入れさせるプロセスが実にスムーズなのはシャマランの持ち味だ。

また主人公が運命なり天命なりを悟る物語もシャマランの定番だ。『シックス・センス』(1999年)も『アンブレイカブル』(2001年)も『サイン』(2002年)もそうだった。

そのテーマが特に強く出ていたのが『レディ・イン・ザ・ウォーター』(2006年)で、マンションの住民たちがそれぞれの役割を自覚するまでの物語だったけど、『レディ~』が良き事を為すまでのライトサイドの物語だったとするならば、本作はイヤ~な役割を引き受けてしまった人々のダークサイドの物語だと言える。

襲撃者4人組は人類滅亡のビジョンを見せられた挙句に、小さくも平和で幸福な生活を送る家族の元を訪れて「一人殺せ」と迫らなきゃいけない。

家族は、自分たちが人類の命運を握る存在であることを認識し、家族か人類かの決断を下さなきゃいけない。

仮に人類が救われることになったところで、彼らは傷つき、何かしら大きなものを失うことになるので、どう転ぼうが「めでたしめでたし」とはならないのである。

本作の欠点を指摘すると、観客にも「自分ならどうするのか」と考えさせるレベルにまで踏み込めていないということがある。その原因は主人公カップルの個性が弱すぎることで、襲撃者4人組にキャラクターとしてのインパクトをほぼ吸収されている感があった。

主人公カップルのキャラも立っていればシャマラン史上最高傑作になった可能性もあっただけに残念だ。それでも面白かったけどね。

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