『ブレイブハート』後の物語
メル・ギブソン監督の『ブレイブハート』のラスト、ウォレス処刑から「…こうして、スコットランドは独立を勝ち取った」という締めのモノローグの間で端折られた年代が本作では描かれています。ただし『ブレイブハート』は時代考証面での誤謬が非常に多い作品として有名であり、他方で本作はなるべく史実に忠実に描かれていることから、両作はほぼ別世界の話と言えるほど、ドラマ面での繋がりがないのですが。
登場人物について
ロバート1世
『ブレイブハート』では革命家であるウォレスに憧れながらも、狡猾な父の謀略に翻弄される優柔不断な男として描かれていました。しかし、実際にはスコットランドの紙幣に描かれるほどの国民的人気があり、もっとも偉大なスコットランド王としての評価を不動のものとしています。
この点、本作では最も偉大な王にして最も偉大な戦士であるという地元での評価に忠実なキャラクターに変更されており、イングランドへの勝利が確定したバノックバーンの戦いへ至るまでの過程も、きちんと史実を踏まえたものとなっています。
なお、ブレイブハートという言葉はメル・ギブソンがウィリアム・ウォレスの物語のタイトルに使ってしまったので、世界的にはウォレスと結び付けて記憶されていますが、本来はロバート1世の心臓を指す言葉でした。もうひとつ余談ですが、彼のブルースという姓は、バットマンの本名であるブルース・ウェインのモチーフでもあるとのことです。
エドワード1世
『ブレイブ・ハート』では好戦的で倫理観に欠けた癇癪持ちのクソじじぃとして描かれていました。しかし、実際には武勇に優れ、政策や計略にも長けたイングランド史上屈指の名君として評価されています。また愛妻家としての一面も持っており、人格面でも一定の評価を受けています。
スコットランド視点の本作においても依然としてヒールの立ち位置にはいるものの、王であるからには時に非情な判断を迫られるという含みを持った描写とされており、好んで血生臭いことをする人格破綻者という描写にはなっていません。
なお、タレントのハリー杉山が「僕の先祖はトランプのキングのモデル」と発言していましたが、エドワード1世こそがその人です。ハリー杉山が本当にエドワード1世の血筋なのかどうかは分かりませんが、それほどエドワード1世の国民的人気が高いということはこの逸話からも読み取れます。
エドワード2世
エドワード1世の息子。『ブレイブハート』ではお気に入りの臣下(男)といつもイチャイチャしていて政治に一切の関心がなく、時折炸裂するエドワード1世の癇癪に心底怯える臆病者として描かれていました。
史実のエドワードもイングランド史上屈指のアホとして名を馳せる人物です。アホと言えばジョン欠地王が有名ですが、歴史家の間ではこのエドワード2世の方がアホ度で勝ると見られているほどです。最終的に彼は奥さんのイザベラ妃(『ブレイブハート』ではソフィー・マルソーが演じていました)によってクーデターを起こされた挙句、ウィリアム・ウォレスもかくやというほどの惨い殺され方をしました。
そして、本作でも彼はアホ扱いです。若い頃のバナナマン日村のようなオカッパ頭で、見るからにアホ全開。その見た目通りに能力面でも人格面でも劣った人物なのですが、父親からの評価を受けようと自らスコットランド遠征を志願したり、戦場では先頭に立つ勇気を示したりと、やる気だけはある分、『ブレイブハート』よりはマシな扱いになっていましたが。
良くも悪くもライトな冒険映画
前述の通り、基本的には史実を踏まえた作品なのですが、全体としてはライトな冒険映画としてまとめられており、重厚な歴史ものにはなっていません。
本作は完成時点では4時間あったと言われています。恐らく当初は重厚な史劇を目指した作品だったのでしょう。しかし当初のバージョンの評判が悪かったことから難しい部分をどんどん切り落とし、気楽に見られる冒険映画に落ち着いたのだろうと思います。確かに見やすい映画にはなっているし、2時間という上映時間を退屈することはありませんでした。
とはいえ、多くの手勢を失い、しかもライバル諸侯を殺してしまって政治的にも窮地に追い込まれたロバートがいとも簡単に盛り返してしまう様などは、ちょっと軽すぎるように思いましたが。史実の再現には成功したものの、映画的なリアリティの醸成には失敗しています。
他方、ウソばっかりではあるものの歴史ものらしい重厚感に溢れており、映画的なリアリティの醸成には成功していた『ブレイブハート』とはこれまた好対照であり、映画的に正解なのは『ブレイブハート』の方なんだろうと思います。
『最後の追跡』のコンビが監督・主演
2016年のクライムドラマ『最後の追跡』は作品賞を含むアカデミー賞4部門にノミネートという高い評価を受けましたが、本作はそのデヴィッド・マッケンジーが監督し、また同作に出演したクリス・パインが主演しています。
その名が示す通りマッケンジーはスコットランド系であり(”Mac”から始まる姓はスコットランド系)、『ブレイブハート』へのモヤモヤを本作にぶつけたように思います。真の英雄はロバートの方だよと。その意気込みの通り、冒頭9分の長回しは相当頑張って撮られており、合戦シーンなども大変な迫力でした。また、進軍する騎馬軍団を真正面から捉えるショットが何度か登場するのですが、この躍動感あふれるショットはかなりかっこよくて印象に残りました。
クリス・パインは本作でやたら脱ぎまくりで、下の毛を披露するほどの入れ込みよう。彼のようなスターが出演したおかげで、作品には華が出ています。ただし、ロバート王へのハマり具合はどうだったかと言われると、正直微妙でした。童顔の彼には王様らしい威厳がなく、『ブレイブハート』で同じ役柄を演じたアンガス・マクファーデンの方が、よほどロバートらしかったです。なお、マクファーデンは『ブレイブハート』のスピンオフ企画”Robert the Bruce”で再度ロバート王を演じるとのことです。
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