ナポレオン(2023年)_美しく壮大で退屈な歴史スペクタクル【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
中世・近代
中世・近代

(2023年 アメリカ・イギリス)
史劇王リドリー・スコットの面目躍如でビジュアルの出来は素晴らしく、戦闘シーンはド迫力だった。ただし世界史上における最重要人物の人生を描くのに3時間弱では明らかに時間不足で、ドラマに感情移入はできなかった。別の映画かというほど変わった『キングダム・オブ・ヘブン』(2005年)という前例もあるので、今後のリリースが予定されている4時間半バージョンに期待。

感想

世界史版レジェンド&バタフライ

公開日は仕事でどうしても映画館に行けなかったので、その翌日の土曜日にIMAXにて鑑賞。

この秋冬ではもっとも期待していた映画だったんだけど、残念ながらその期待値には達しなかった。

皆さんご存じ、世界史上の偉人ナポレオンの半生がテーマであり、軍人としてフランス革命に立ち会うところから、セントヘレナ島に没する最晩年までが描かれる。

時代設定は1793年から1821年の28年間とそこそこの範囲がカバーされているし、しかも対象はかのナポレオンなので並みの28年ではない。

その濃密な半生を3時間弱で描くにはちょいと無理があったのか、中身はエピソードの羅列状態で、感情を揺り動かされるような大きなうねりは感じられなかった。

話の主軸は英雄ナポレオン(ホアキン・フェニックス)と最初の妻ジョセフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)との愛憎関係で、木村拓哉&綾瀬はるかが織田信長&濃姫を演じた『レジェンド&バタフライ』(2023年)とコンセプトがよく似ている。最近流行りなのだろうか。

『レジェバタ』は織田信長を元来器の小さな男と設定したうえで、濃姫の影響で偉大となり、濃姫から離れたことで判断を誤るようになったとしたが、本作もまったく同じ経過を辿る。

世間から注目されるきっかけとなったトゥーロン攻囲戦でのナポレオンはガチガチに緊張しており、キレたいじめられっこのように「うわ~!」と叫びながら敵に突撃していく。

結果、勝ったからいいものの、後の大将軍らしさはない。

その後、ジョセフィーヌと出会ってナポレオンが一方的に惚れるのだが、このジョセフィーヌが浮気するわ、散財しまくりだわ、旦那からのラブレターを無視するわとやりたい放題で、天下の悪妻ぶりを見せつける。

笑ったのがジョセフィーヌの浮気を聞きつけたナポレオンが遠征地エジプトからわざわざ帰国するくだりで、怒りに満ち満ちたナポレオンはジョセフィーヌを罵倒するのだが、いつの間にやら二人の立場は逆転しており、ナポレオンは説教される立場に回っている。

どうやらナポレオンにはマザコンという設定があり、彼は無意識のうちに自分を強く縛り付けてくれる女性の存在を求めていたようにも受け取れるのだが、ナポレオンとその母マリア(シニード・キューザック)の描写が不足しているので、マザコンの線からジョゼフィーヌとの関係性を読み解くというアプローチは決して十分ではない。

そして悪妻ぶりとは裏腹に、ジョセフィーヌは圧倒的なあげまんで、彼女とくっついた時期のナポレオンは本人も意図しなかったほどの大勝利・大成功を次々と収める。彼女のあげまんぶりは当時から評判だったようで、フランス軍兵士たちからは勝利の女神と呼ばれていたらしい。

とはいえ、ナポレオンとジョセフィーヌのどこが化学反応を起こしていたのかがイマイチ分からないので、二人の愛憎劇はさほど盛り上がらなかったが。この点では、濃姫の方が文武両道の常識人だったとしたレジェバタの方が、まだ筋が通っていたと思う。

最終的にはジョゼフィーヌを嫌う母マリアからの横槍で離婚せざるをえなくなるんだけど、ナポレオンが妻か母かの両天秤で悩む構図がやはり中途半端で、考えさせられる部分がない。

この映画、母マリア関係の描写が少なすぎるので、ディレクターズカット版で深掘りされることを期待する。

圧倒的な戦闘シーン

戦闘シーンは史劇王リドリー・スコットの面目躍如。本当に素晴らしかった。

製作したアップル・スタジオの太っ腹な支援の甲斐もあって、最大8000人のエキストラを動員しての撮影など、近年のCG主体の構成とは次元の違う画作りを存分に楽しめた。

また戦略が描けていたことも戦闘シーンの魅力につながっている。

序盤のトゥーロン攻囲戦では、現地の貧弱なフランス軍に油断しきったイギリス軍の不意を突いて砦を奪取し、海に向けられた大砲で沖合の敵艦隊を撃沈するという作戦が立案される。

ポイントは砦の迅速な奪取であり、不意打ちのメリットを享受できるうちに攻め切らねばならないという点にハラハラさせられた。

ナポレオンがヨーロッパの勢力図を根底から変えたとされるアウステルリッツの戦い(別名 三帝会戦)では、数的優位に安心しているロシア・オーストリア連合軍をこちらの地の利のある場所にまでおびき寄せ、フランス軍の猛攻と氷の湖との挟撃に遭わせて撃滅するという、凄まじい策士ぶりを見せる。

この時のナポレオンの采配は本当に神がかっていたが、その凄さを画面上で見せつけたリドリー・スコットの抜群の演出力・構成力も光っている。

一方、ナポレオンが大敗したワーテルローの戦いにおいては、イギリス軍の「方陣」の頑強さが描かれる。

歩兵が密集して360度の攻撃に対応する陣形であり、騎兵中心のナポレオン軍はこれを突破できなかったために兵力を消耗し、敵の増援の到着を許してしまう。

ヒース・レジャー主演の『サハラに舞う羽根』(2002年)でも方陣は描かれていたけど、その戦略的な意義がここまで分かりやすくはなかった。

真の狂人はロシア皇帝アレクサンドル1世

こうしてナポレオンの半生を駆け足で味わったが、私が一番気になったのはロシア皇帝アレクサンドル1世だったりする。

イケイケ時代のナポレオンをも手玉に取り、直接会談では飄々とした態度で敵意を隠しながらも、後日きっちりと反抗する。怒ったナポレオンがロシアに攻め入ってくると、首都モスクワを丸ごと放棄してナポレオン軍を撤退にまで追い込む。

当時の常識からいうと、首都ひとつ失うくらいならさっさと降伏して条件交渉してしまった方が傷が浅いのだが、アレクサンドルの勝ちに対する執念は異常なレベルとなっている。

こいつこそ真の狂人であり、それに比べればナポレオンなんて凡人レベル。アレクサンドル1世がどういう人間だったのかは、ぜひ深堀りしてほしいところだった。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント