プライベート・ライアン孤立主義と国際主義の間で揺れるアメリカ【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(1998年 アメリカ)
戦争映画のルックスを一変させた作品であり、そのインパクトは充分です。戦闘場面と比較して物語はやや平凡であるものの、9名の登場人物によって当時の国際情勢を表現している点は興味深く感じました。

あらすじ

1944年。ノルマンディー上陸作戦でライアンという兵士が死亡した。このライアンは4人兄弟であり、他の2名もすでに戦死。生き残っているのは末弟のジェームズ・フランシス・ライアン(マット・デイモン)だけであり、アメリカ陸軍参謀総長のジョージ・マーシャルはライアンの本国帰還を命じた。 しかしライアンは空挺部隊の一員としてノルマンディー上陸作戦に参加しており、広い戦地のどこに降下したのかが分からなくなっていた。そこでレンジャー大隊のミラー大尉(トム・ハンクス)にライアン捜索の命が下る。ミラーは7人の部下を連れて危険な敵地へと入るが、たった一人の二等兵を救うために8名の兵士が命をかけるということに一同は戸惑う。

登場人物

  • ジョン・H・ミラー(トム・ハンクス):アメリカ陸軍大尉で、C中隊隊長。軍からの命により、7名の部下とともにライアン救出作戦へと向かう。入隊前の経歴が謎であり、中隊内での賭けの対象になっている。
  • マイケル・ホーヴァス(トム・サイズモア):二等特技軍曹。各地を転戦してきたミラーの女房役。戦地の土を採集するのが趣味。
  • リチャード・ライベン(エドワード・バーンズ):一等兵。ライアン救出作戦への抵抗感をもっとも強く持っており、ミラーに対して不平不満を表明する。
  • ダニエル・ジャクソン(バリー・ペッパー):二等兵で狙撃の名手。敬虔なカトリックであり、狙撃の際には十字架にキスをする。
  • スタンリー・メリッシュ(アダム・ゴールドバーグ):二等兵でユダヤ系。ナチスを強く嫌っている。有名な「アパム、弾持ってこい」は彼のセリフ。
  • エイドリアン・カパーゾ(ヴィン・ディーゼル):二等兵。戦闘の最中であるにも関わらず落ちている果物を物色する、現地の子供を預かろうとする、父親への手紙を大事にするなど、兵士らしからぬ行動が多い。
  • アーウィン・ウェイド(ジョヴァンニ・リビシ):四等特技兵。隊の衛生兵。
  • ティモシー・E・アパム(ジェレミー・デイヴィス):五等特技兵で独語と仏語に堪能。ミラーの隊の通訳が戦死したため、急遽メンバーに加えられた。
  • ジェームズ・フランシス・ライアン(マット・デイモン):二等兵。空挺師団所属でノルマンディー作戦時には前線に降下した。3人の兄が死亡したため特例的にその任を解かれることになったが、居場所が不明だった彼の捜索のためにミラーの部隊が送り込まれることになった。

感想

戦争映画のルックスを永遠に変えた作品

上陸艇では兵士たちがゲーゲーと吐き、扉が開くと同時に一斉射撃に晒される。戦争の悲惨さを訴える映画は多くありますが、ここまで強烈な画で見せた作品はかつてありませんでした。本作の舞台はノルマンディー。連合国が華々しい勝利を収めたイメージの強いノルマンディー作戦において米国側の損害をはっきりと描いたことで、戦争とは勝者にとっても敗者にとっても地獄であることを強く印象付けています。

本作が映画界全体に与えたインパクトは大きく、特にリドリー・スコットは「スティーブンは驚くべき表現の領域に到達した。我々も早く、そこに追い付かねばならない」と同業者としての焦りを表明し、『グラディエーター』の冒頭を古代のオマハビーチに変え、またサイモン・ウェストが降板したと見るや『ブラックホーク・ダウン』の監督に名乗りを上げ、『ハンニバル』のポスト・プロダクションを行いながら『ブラックホーク・ダウン』のプリ・プロダクションを開始するという無茶なスケジュールを受け入れてまで『プライベート・ライアン』と同等の戦争映画を自分も作るということにこだわりました。

また、『パール・ハーバー』や『ワンス・アンド・フォーエバー』から直近の戦争映画『ハクソー・リッジ』『ダンケルク』に至るまで『プライベート・ライアン』のビジュアル面での強い影響は見て取れ、もはやすべての戦争映画は『プライベート・ライアン』から逃れられないほどの状況となっています。

オマハビーチはフランク・ダラボンによる後付け

これほどまでに強烈だったオマハビーチの場面ですが、実はロバート・ロダットの書いた当初の脚本はノルマンディー上陸後からスタートし、この場面はありませんでした。しかし、オリジナル脚本にはパンチが足らないと感じたスピルバーグがフランク・ダラボンに加筆を依頼して出来上がったのがこの場面であり、ノンクレジットではあるものの、本作の功労者の一人はフランク・ダラボンであると言えます。

冒頭のみが突出した歪な映画

主人公を含む8名の兵士たちは連合軍の支配が及んでいない危険な戦地で隠密行動をとらねばならないということが本作の骨子なのですが、冒頭のオマハビーチの場面があまりに強烈すぎて、相対的に本編の舞台となるフランスがさほど危険な場所には見えないという問題が起こっています。本来は「いつ敵に見つかるかわからない」という緊張感が全編を貫くべきだったにも関わらず、そうしたスリルの醸成には失敗しているのです。これは、本来なかったオマハビーチの場面を付け加えてしまったことの弊害だと言えます。

孤立主義と国際主義の間での葛藤

「これは俺たちがやる必要のある戦闘なのか?」この問いは全編に渡って繰り返されます。

そもそも、ライアンという見ず知らずの男、しかも階級的には最下層の二等兵を救い出すために、歴戦の勇者である8名の軍人が命をかけるというミッション自体が不合理なものでした。また、通りかかったレーダー基地にドイツ兵がいたというくだりにおいても、「我々の任務でもないんだし、敵からの攻撃を受けないよう迂回しましょうよ」という部下たちに対して、「次に通った味方が攻撃されるかもしれないんだから、ここの敵は我々が潰しておかねばならない」と主張するミラー。さらに、発見したライアンを連れ帰ればミッション終了だったところを、前線の橋を守るというよそ様の任務に合流するなど、ミラー隊は戦う意義について常に葛藤を抱えています。

この構図は、欧州で繰り広げられていた第二次世界大戦に参戦した際のアメリカ側の事情を8名の軍人の物語にまでぐっと圧縮したものだし、ひいては孤立主義か国際主義かという現在に至るまでアメリカ合衆国が抱え続けている葛藤を描いたものだと言えます。

トム・ハンクスはミスキャスト

マット・デイモンからヴィン・ディーゼルまでを集めた若い兵士たちのキャスティングは完璧でした。またタフな鬼軍曹を演じるトム・サイズモアのハマり具合も抜群で、彼らの力によってキャラクター達は陳腐にならずに済んでいます。

ただしトム・ハンクスだけはミスキャスト。”戦争に適応しすぎた男”にはどうしても見えないために、かつては教師をしていたという終盤近くでの告白がサプライズになっていないのです。部下に隠れて涙を流すという重要な場面も、トム・ハンクスが演じたために本来持つべき意義を失っています。彼のパブリックイメージでは、涙を流さない男には見えないからです。ブルース・ウィリスやメル・ギブソンのような、どうやっても軍人にしか見えない俳優がミラー大尉を演じるべきだったと思います。

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