(2009年アメリカ)
2004年バクダッド。米軍の爆弾解体チームの隊長が殉職し、新たな隊長が送り込まれてくる。彼の名前はウィリアム・ジェームズ軍曹。命知らずのスタンドプレーが多く、2名の部下は彼に振り回されることになる。
空回りするカウボーイ
主人公は英雄気取りの一匹狼として登場します。チームワークなど無視し、爆弾処理係として優秀な自分のかっこよさに酔っているだけの命知らず。そんな主人公ですが、親しくしていた現地の少年が殺されたことでテロに対する怒りに目覚め、目的意識に裏付けられた積極的な行動をとりはじめます(タバコによって主人公の変化を示している点に注目)。
その結果はどうだったか?テロとは無関係の民家に押し入っておばさんに叩き出され、無理な追跡で部下に重傷を負わせ、人間爆弾にされた男を救うことも出来ない。さらには少年が殺されたことすら人違いだったと判明する始末。ひたすらに自分の無力を思い知らされるのみでした。”Hurt Locker”とは「苦痛の極限地帯」という兵隊用語らしいのですが、それは爆弾処理の現場を示していると同時に、倫理観に目覚めても空回りするだけで何も変えることができない主人公のもどかしさも意味しているのでしょうか。
中東政策に躓いたアメリカの焦り
そして、主人公はアメリカという国そのものでもあります。世界の保安官として国際紛争に首を突っ込み、そのうちに「中東で虐げられている人たちを救ってあげなきゃ!」という目的意識を持ち始めたものの、アメリカはさんざんな目に遭いました。本作で主人公が経験したことは、まんま対テロ戦争でアメリカが経験したことに置きえることができます。
- テロとは無関係の民家に押し入る→そもそもは911の弔い合戦だったのに、ビン・ラディンとではなくフセインと戦争を始めた
- 無理な追跡で部下に重傷を負わせた→アメリカと肩を並べて参戦してくれた同盟国も多くの損害を受けた
- 人間爆弾にされた男を救うことも出来ない→肝心の現地人を救ってやれていない
- 少年が殺されたことすら人違いだった→現地事情が分からず、顔の区別すらまともについていない
アメリカが掲げてきた理念にウソはなかった
対テロ戦争の分析においては、アメリカを善か悪かのどちらかで判断したものが多いのですが、本作はその辺りの判断を下していません。確かに中東政策には失敗しているし、国際社会に迷惑をかけている。その現実はきちんと認めつつも、殺人狂のように人殺しを楽しんでいるわけではないし、石油が欲しいから中東に攻め込んだわけでもない。民主主義の普及という掲げた理念は本物であったという描き方となっているのです。
こんな切り口の映画はかつてありませんでしたが、これがアメリカという国のリアルなところなのだろうと思います。
戦争ジャンキー
終盤、主人公は任期切れで帰国するのですが、平凡な日常にはすでに馴染めなくなっています。この辺りの描写も特殊で、従軍兵士の後遺症を描いた他作品のように「戦争が主人公の人格を歪めました!」みたいな告発的な描写ではなく、一種の職業病のような描写となっているのです。主人公はPTSDで取り乱したりすることもなく、しみじみと「やっぱり俺は戦争が好きだ」と言い、戦場へと戻っていきます。
そして、これもまたアメリカという国の姿を描いたものです。あの国は間違いなく戦争ジャンキーですが、本作はそのことを善悪で評価するのではなく、淡々とその事実のみを認めます。この点、他国から戦争ジャンキーと批判されることはあっても、アメリカ人自身が自国を戦争ジャンキーであると認めた作品は前例がなく、思想的に本作はかなりの重要作であるような気がします。
さらには、2008年という対テロ戦争がまだ完全には終わっておらず、起こったことに関する歴史的評価が固まっていない時期において、これほど客観的な視点の作品がアメリカ人によって製作されたことにも意義を感じます。
後のMCU出演者が多数出演
最近になって再見すると、ホークアイとファルコンとワスプが共演した作品であることにも気付きました。低予算ながら、その後の人気俳優に目を付けてたんですね。この辺りの慧眼にも恐れ入りました。
≪キャスリン・ビグロー監督作品≫
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ストレンジ・デイズ/1999年12月31日_長くてつまらない【4点/10点満点中】
K-19_面白いけど史実を脚色しすぎ【6点/10点満点中】
ハート・ロッカー_アメリカ人が自身を戦争ジャンキーと認めた【8点/10点満点中】
ゼロ・ダーク・サーティ_深みはあるが視点は狭い【5点/10点満点中】
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