グリーン・ゾーン【8点/10点満点中_イラク戦争を総括した早すぎた傑作】

スポンサーリンク
スポンサーリンク
戦争
戦争

[2010年アメリカ]

8点/10点満点中

■イラク戦争開戦の経緯

アメリカ国内では、自由や民主主義といった価値観の普及を最優先課題と考えるネオコンと、世界各地の事情に精通した現実主義のCIAが数十年間に渡って対立していました。また、イラクはサダム・フセインが独裁によって内乱を抑え込んでいる状態が続いていましたが、フセインから弾き出されたシーア派はアメリカという外圧を使ってフセインを排除しようと目論んでいました。そんなシーア派がネオコンと結びついて「サダム・フセインは国際法に違反する大量破壊兵器を隠し持っている」という大宣伝を行い、アメリカ国内世論をイラク戦争開戦にまで動かしていったと言われています。

本作はまさにその構図を娯楽アクションにまで落とし込んだ作品なのですが、戦争を起こしたい人間達がついてきたウソや、経験も実績もあるジャーナリストが裏取りもせずに国防総省からの情報を垂れ流してきたという事実など、イラク戦争に係る多くの不都合な事実が本作では白日の下に晒されています。

■イラク占領政策の失敗

さらに興味深いのは、いかにしてアメリカがイラクで敵を増やしていったのかという過程が克明に描かれていることです。本作のキーパーソンであるアル・ラーウィー将軍はまず開戦前にアメリカに裏切られていますが、それでもなお融和の方向性を模索しており、武装蜂起を唱える他の将軍たちに対して「そのうち占領政策に躓いたアメリカは我々に協力を求めてくるはずだから、それまで待とう」と言って自制を促していました。しかしアメリカは自分を賞金首にして執拗に命を狙ってくるものだから、さすがのラーウィーも反米的な方向へと転向していきます。

戦争に勝つだけなら敵の首都さえ制圧してしまえば終わりですが、占領政策ともなれば現地の勢力を使わなければまずうまくいきません。しかし前述した通りイラクという国を手中に収めたいシーア派が開戦の背景にいたことから、アメリカは本来味方として取り込んで利用すべき勢力を敵視して排除するという政策を実施したために、何もかもがうまくいきませんでした。その結果苦しめられたのは混乱の収まらない社会で生活せざるをえないイラク国民と、そのイラク国民から直接的な敵意を向けられるアメリカ軍兵士達でしたが、本作はその過程をも作品の要素として取り込んでみせています。

■主人公は一兵卒

上記の通り実に政治的な背景を持つ作品でありながら、本作の主人公はマット・デイモン演じるロイ・ミラー准尉という一兵卒です。

ミラー准尉は日々命がけで大量破壊兵器の捜索活動に従事していますが、どれだけ探しても一向に何も出てきません。今日も大量破壊兵器が埋められているという市街地の道路を掘っていると、「これだけ目撃者のいる市街地のど真ん中にモノを隠したりするバカはいませんよ」ともっともなことを言ってくるイラク人フレディと出会い、「さっき戦犯を見かけたから、場所を教えるのでさっさと捕まえてください」とのタレコミを受けます。半信半疑で行ってみると、本当に賞金首を発見。そこからミラーは国防総省が実施している不可思議な政策を目の当たりにすることになります。

ミラーの視点は観客の視点でもあり、彼の目を通してイラク戦争の真実や誤った占領政策を論じていくという切り口は非常に面白く、かつ、分かりやすく感じました。

■アクション映画としても充実している

これだけの情報量を詰め込んだ作品ながら、アクションとしての面白さも両立しています。細かいカットを積み重ねて構成される銃撃戦は臨場感に溢れているし、現場を走る兵士の視点と、それを上空からナビゲートするヘリの視点を交互につなぎ、観客に対して戦況や位置関係をスムーズに伝えるという神業的な編集には脱帽するしかありません。本作におけるポール・グリーングラスのアクション演出は驚異的なレベルに達していると言えます。

■公開時には大不評

『ジェイソン・ボーン』シリーズを大成功させた直後のポール・グリーングラスとマット・デイモンが再度タッグを組む戦争アクションということで1億ドルの予算はすぐについたのですが、興行成績はアメリカ国内で3,500万ドル、全世界でも9,500万ドルと製作費の回収すらできないほどの大惨敗を喫し、批評的にも失敗しました。

その原因としては、社会派作品でもないのにここまではっきりとアメリカ人が聞きたがらない話をしてしまったという点が考えられるのですが、イラク戦争に対する熱狂も冷めた今こそ再検証されるべき映画ではないかと思います。

 

Green Zone

監督:ポール・グリーングラス

脚本:ポール・グリーングラス,ブライアン・ヘルゲランド

原案;ラジーフ・チャンドラセカラン

製作:ティム・ビーヴァン,エリック・フェルナー,ロイド・レヴィン,ポール・グリーングラス

製作総指揮:デブラ・ヘイワード,ライザ・チェイシン

出演者:マット・デイモン,エイミー・ライアン,グレッグ・キニア,ブレンダン・グリーソン

音楽:ジョン・パウエル

撮影:バリー・アクロイド

編集:クリストファー・ラウズ

製作会社:ワーキング・タイトル,スタジオカナル,レラティビティ・メディア,Antena 3

配給:ユニバーサル・ピクチャーズ(米),東宝東和(日)

公開:2010年3月12日(米)2010年5月14日(日)

上映時間:114分

製作国:アメリカ合衆国

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント