シカゴ7裁判_ものすごく面白い実話ドラマ【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの

(2020年 アメリカ)
60年代に行われた歴史的裁判の映画化ですが、とにかく面白い史実を腕のあるストーリーテラーが演出しており、社会派ドラマとして大変興味深く、またエンタメ作品としても大満足できる面白さでした。私見ではアカデミー賞に食い込む可能性のある作品だと思っています。

あらすじ

1968年8月、民主党大会が開かれていたシカゴにベトナム戦争に反対する学生・活動家・市民が集まっていた。一部の参加者が党大会会場に押しかけようとした結果、警官隊との衝突が起こり、多数の負傷者を出した。1969年3月、暴動を主導したと思われる8名が起訴され、裁判が始まった。

スタッフ・キャスト

監督・脚本は『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキン

1961年NY出身。1980年代には売れない役者生活を送っていたのですが、戯曲の執筆を始めた途端に才能が爆発し、元は舞台劇として執筆していた『ア・フュー・グッドメン』の映画化権が売れて、同作で映画脚本家デビュー。トム・クルーズとジャック・ニコルソンが共演し、アカデミー賞では作品賞を含む4部門にノミネートされるという大成功を収めました。

また製作総指揮を務めた連続テレビドラマ『ザ・ホワイトハウス』(1999-2006年)は高評価を獲得し、エミー賞最優秀作品賞を4年連続で受賞するという快挙を達成。

デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)でアカデミー脚色賞受賞、初監督作『モリーズ・ゲーム』(2017年)ではアカデミー脚色賞にノミネートされました。

主演はサシャ・バロン・コーエン

1971年ロンドン出身。ケンブリッジ大学卒業後にコメディアンとなり、バラエティ番組で生み出したキャラクター・アリ・Gでブレイク。2002年には同キャラクターを映画化した『アリ・G』も製作されました。

モキュメンタリー映画『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)でアカデミー脚本賞にノミネート。

本作の企画においては、スピルバーグが監督しようとしていた2007年からアビー役にキャスティングされていました。

共演はアカデミー賞俳優エディ・レッドメイン

1982年ロンドン出身。父は銀行の頭取、兄は起業家と銀行重役という超優秀一家に生まれ、エディ本人も名門イートン校を経てケンブリッジ大学を優秀な成績で卒業しました。

演劇界で活躍した後に映画界に進出し、『博士と彼女のセオリー』(2014年)でアカデミー主演男優賞を受賞しました。翌年の『リリーのすべて』(2015年)でもアカデミー主演男優賞にノミネートされました。

『ファンタスティック・ビースト』シリーズでは主人公ニュート・スキャマンダー役を演じています。

作品概要

1969年の実話がベース

1960年代後半のアメリカは、公民権運動とベトナム反戦運動の盛り上がりで内戦さながらの状況となっていました。

そんな最中の1968年8月、時の与党である民主党の党大会が行われたシカゴで反戦運動家達と警官隊が衝突し、大勢の負傷者を出しました。その後、暴動を扇動されたとされる8名が共同謀議の罪で告発され、共和党に政権移動後の1969年3月に裁判が開始されました。

被告人8名のうち、ボビー・シールはホフマン裁判官を「ファシスト」「差別主義者」などと罵ったため猿ぐつわを噛まされるような異常事態となり、混乱を避けるために切り離されて別個の裁判となりました。

こうして7名となった被告人はマスコミからシカゴセブンと呼ばれるようになりました。うち、アビー・ホフマンとジェリー・ルービンは法廷内でのパフォーマンスを繰り返し、全国の反体制運動家達の注目を集めました。

1970年2月、共謀罪では全員無罪、暴動の示唆では5名に有罪判決が下り禁固刑と罰金が命じられたのですが、その後上訴審によってホフマン裁判官の偏った姿勢が認められて、すべての判決は逆転されました。

スピルバーグが監督するはずだった

このシカゴセブンの実話を『シンドラーのリスト』(1993年)にもスクリプトドクターとして参加したアーロン・ソーキンが脚色し、2007年頃にスティーヴン・スピルバーグ監督で製作されることがほぼ決定していました。

アビー・ホフマン役はサシャ・バロン・コーエン、トム・ヘイデン役はヒース・レジャー、ボビー・シール役はウィル・スミスだったのですが、脚本家協会のストライキに巻き込まれて企画は頓挫。

その後、本作と同じく平和的なデモが血みどろの事態に発展した実話を映画化した『ブラディ・サンデー』(2002年)でベルリン国際映画祭金獅子賞を受賞したポール・グリーングラスが監督するという話もあったのですが成立せず、10数年を経てアーロン・ソーキン自身が監督してようやく完成に至りました。

登場人物

シカゴセブン

シカゴセブンとは1968年のシカゴ民主党大会で暴動を企てたとされる被告達のこと。セブンと言いつつ8名なのは、裁判の早い過程でボビー・シールの裁判は別個に切り離され、当時のマスコミが7人とカウントしたためです。

  • アビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン):青年国際党(イッピー)共同創立者。法廷での政治パフォーマンスを繰り返し、裁判期間中であるにも関わらず記者会見や舞台パフォーマンスをやめない。
  • ジェリー・ルービン(ジェレミー・ストロング):青年国際党(イッピー)共同創立者。アビーと行動を共にしている。
  • トム・ヘイデン(エディ・レッドメイン):民主社会学生同盟(SDS)リーダー。有罪判決を回避するための法廷戦術を主張し、法廷をパフォーマンスの場にしようとするアビーと相容れない。
  • レニー・デイヴィス(アレックス・シャープ):民主社会学生同盟(SDS)リーダーでトム・ヘイデンの友人。
  • ボビー・シール(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世):ブラックパンサー党リーダー。警官殺害容疑で拘留中だが、顧問弁護士が入院中であるため弁護人不在で公判を受けている。
  • デイヴィッド・デリンジャー(ジョン・キャロル・リンチ):妻子を持つ中年男で、運動家としては珍しくちゃんとしたスーツ姿で政治運動を行っている。
  • ジョン・フロイネス(ダニエル・フラハティ):暴動には居合わせたものの、運動の中心人物でもない自分がなぜ起訴されているのかを不思議に思っている。
  • リー・ワイナー(ノア・ロビンス):フロイネスと同じく、なぜ自分が起訴されたのかを不思議に思っている。

シカゴセブンの関係者

  • ウィリアム・クンスラー(マーク・ライランス):シカゴセブンの弁護人。弁護士にして公民権運動家であり、有名裁判も多く手掛けている。
  • レナード・ワイングラス(ベン・シェンクマン):弁護士。クンスラーと共同でシカゴセブンの弁護を行う。
  • フレッド・ハンプトン(ケルヴィン・ハリソン・Jr):ブラックパンサー党シカゴ支部長。

司法省

  • リチャード・H・シュルツ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット):シカゴセブン裁判の主任検事だが、本心では共同謀議で実刑判決を下すことは難しいと考えており、またこの裁判は反体制側の政治運動に利用され、体制にとって不利に働くと予想している。
  • トム・フォーラン(J・C・マッケンジー):シュルツの上司の連邦検事。
  • ジョン・N・ミッチェル(ジョン・ドーマン):現司法長官。シカゴセブンを共謀罪で服役させよとシュルツ検事に命じる。
  • ラムゼイ・クラーク(マイケル・キートン):前司法長官。政権交代と共に辞任するという慣例に反してギリギリまで司法長官の座を明け渡さなかったため、後任のミッチェルから反感を買っている。

その他

  • ジュリアス・ホフマン(フランク・ランジェラ):シカゴセブン裁判の裁判官。権威主義的かつ高圧的な人物で、被告人側の気に入らない発言は却下し、それでも相手が黙らないと法廷侮辱罪を躊躇せず適用する。
  • ダフネ・オコナー(ケイトリン・フィッツジェラルド):身分を隠してジェリー・ルーベンに接触し、デモ隊に潜入していたFBI捜査官。証人として出廷。

感想

理不尽極まりない裁判

舞台は公民権運動やベトナム反戦運動で国内世論が二極分化されていた60年代末のアメリカ。

反戦運動家達を駄々っ子のようなものとして捉えている共和党政権が、見せしめとしてそのリーダー達を刑事罰に問おうとします。これが本作で描かれるシカゴセブン裁判です。

シカゴセブンの弁護人であるウィリアム・クンスラー(マーク・ライランス)は「政治裁判なんてものはない」と言うのですが、この裁判では通常の理屈が通らず、被告人に有利な局面ではことごとく横やりが入り、反戦運動家を懲らしめたいという時の政権の意向が多分に反映された政治裁判の様相を呈します。

  • 被告側弁護士が有利な展開になると裁判長が記録の削除と言い出す。
  • 被告人たちに好意的な陪審員が排除される。
  • 証言者が警察官やFBI職員など体制寄りの人物ばかり。
  • 決め手となるはずだった前司法長官クラーク(マイケル・キートン)の証言が不採用とされる。

これらの非道を行うのはジュリアス・ホフマン(フランク・ランジェラ)裁判長。

権威主義的な頑固じじいぶりが心底ムカつくし、時の政権への忖度が存分に感じられるダーティさや、前司法長官が出廷するとそれまでとは打って変わって下手の態度に出るという小物ぶりなど、全方位的に嫌な野郎でした。

ただしこうした憎まれ役がいるとドラマは盛り上がるもので、かなりの求心力を持った物語となっています。

活動手法を巡る対立

対するシカゴセブン内も一枚岩ではありません。

ヒッピーの組織の代表であるアビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)は、注目度の高いこの裁判を政治パフォーマンスの機会であると捉え、有罪上等で裁判長の権威を茶化すような言動を繰り返します。加えて裁判期間中であるにも関わらず記者会見や舞台でのパフォーマンスを行い、政治的発言を止める気がありません。

一方、学生組織の代表であるトム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)は、とにかく裁判を乗り切ることに主眼を置いており、自分達に沙汰を下すのは体制側である以上、体制を刺激しない身なりや言動を意識しています。

信念を曲げないアビーに対し、体制と折り合いながらでないと理念は実現できないというトム。どちらの言い分にも一理あります。

そして、この二人の対立を眺めるブラックパンサー党のボビー・シール(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は、どちらも親への反発で活動をしているだけで、命までは張っていないと喝破します。

警察にいつ射殺されるか分からないというリスクを負ってまで戦っている黒人運動家からすれば、いくら体制に牙をむかれても命まで奪われることのない白人運動家達は甘ちゃんであり、理念的な主張やパフォーマンスで自己陶酔しているに過ぎないというわけです。

この三者三様の理屈、理念を実現するための手法の違いは興味深く感じました。

思わぬ人物が活躍するという興奮 ※ネタバレあり

こうして紆余曲折ありつつも裁判は佳境へと突入していくのですが、思わぬ人物が大活躍するという作劇の基本を本作もしっかりと踏襲しており、実に胸のすく結末を迎えます。

他人を茶化してばかりのアビーの行動の真意。それは彼らの組織には資金力がないため、道化を装って注目を集め、主義主張の普及を行っていたということでした。

そして爪を隠していた能ある鷹アビーは、佳境に入っていきなりインテリぶりを発揮して大活躍をします。

リンカーンの演説や聖書の一節を巧みに引用して検察側のロジックを崩し、提示された証拠の信ぴょう性を揺らがせます。

トムが暴力行為を煽ったとされる検察側の決め手となる録音テープが出された時、アビーは「言葉を文脈から切り取れば、どうとでも捻じ曲げられる」と言って対抗。

当時、トムの目の前では友人のレニーが警棒で頭をかち割られて流血していたという前提条件を無視して、録音テープの内容だけで判断するべきではないとして切り返します。 そして、アビーの大活躍から感動的なトムの意見陳述。

この流れの作り方は完璧であり、アーロン・ソーキンのストーリーテラーぶりには恐れ入りました。

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