(2019年 アメリカ)
シーズン2の問題点が大きく改善された良作でした。謎解きとドラマの両方が面白く、両者の関連性もきちんと打ち出せており、これぞTRUE DETECTIVEと言える作品に仕上がっています。
あらすじ
1980年、アーカンソーの田舎町で幼い兄妹が行方不明となる。州警察の刑事ウェイン(マハーシャラ・アリ)とローランド(スティーヴン・ドーフ)が捜査に当たるが、人間関係が密接に絡み合った田舎町での捜査は難航する。
作品概要
TRUE DETECTIVEとは
HBO製作のテレビシリーズで、2014年から2019年までに3シーズンが製作されています。一貫して小説家のニック・ピゾラットが脚本を書きおろしており、テレビドラマでありながら映画スターを主演に起用していること、捜査官を主人公にしていること、ある土地を舞台に現在と過去が交錯するドラマであることが特徴となっています。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020年)の監督にも抜擢されたキャリー・フクナガが全話を監督したシーズン1(2014年)の評価は圧倒的であり、プライムタイムエミー賞では監督賞を受賞しました。
この好評を受けて翌年にはシーズン2(2015年)が製作されたのですが、こちらはあまりに複雑な謎解き、魅力に欠ける登場人物、個々の構成要素がうまく関連せずまとまりのないストーリーと非常に評判が悪く、プロデュースを務めたウディ・ハレルソンが失敗作と認めています。
シーズン2の不評からシリーズは4年間に渡って凍結状態にあったのですが、2019年1月に再起動したのが本作シーズン3なのでした。
3つの時間軸で繰り広げられるドラマ
本作の主人公はマハーシャラ・アリ扮するウェイン・ヘイズ刑事であり、大過去(1980年)、過去(1990年)、現在(2015年)の3つの時間軸が同時に展開されます。
- 1980年:州警察の刑事だったウェインは相棒のローランドと共に、後にパーセル事件と呼ばれる男女2名の子供の失踪事件を追う。
- 1990年:パーセル事件の捜査は1980年に打ち切られていたが、1990年に発生した強盗事件で、半ば死亡扱いとされてきたパーセル事件の被害者女児の指紋が出てきたことから州警察は事件の再捜査を開始。1980年の捜査を担当していたウェインが呼び戻される。
- 2015年:ウェインの妻・アメリアがパーセル事件の経緯をまとめたノンフィクション文学は当該分野の名著となっており、テレビ局が事件の当事者であるウェインのインタビューを取りに来る。しかしこれは単純な取材ではなく、ディレクターは何らかの新事実を掴んでいる様子であり、ウェインは過去を回想しながら未解決事件を追い始める。
感想
情報量が適正に調整されている
あまりに複雑だったシーズン2の反省を活かし、本シーズンの情報量は適正なものとなっています。視点をあっちこっちに分散させず主人公ウェインに固定し、一つの事件から複数の事件に分岐させるようなややこしいこともしていません。基本的には一直線に進む単純な謎解きとしているのです。
他方で探偵ものとしての面白さを毀損するほどの単純化は避けられており、何気なく聞き流していた人物名が後に捜査線上に上がってくるなど、視聴者には相応の集中力を要求してきます。この加減が易しすぎず難しすぎず絶妙なレンジとなっており、最後まで謎解きを楽しむことができました。
失敗し続けた男の物語が心に染みる
1980年パートでは捜査の最前線に居たウェインは、1990年パートでは州警察内でも閑職に追いやられ苛立っている様子であり、2015年パートでは何やら後悔を抱えた老人として描かれています。
ドラマでは犯罪捜査を通して彼のドラマが語られていき、1990年のウェインはなぜ苛立っているのか、2015年のウェインは何を後悔しているのかが徐々に明かされていくのですが、このウェインのドラマにはかなり求心力があり、惹き付けられました。
彼は1980年にある大きな決断を下し、その時点では確固たる信念に基づいて下した決断ではあったが、若さゆえにその決断の及ぼす影響までは測りかねてキャリアを失ってしまった。そこから彼の人生は失敗の連続であり、正義を信じる心すら揺らいでいたことが明かされます。正しい信念に基づく正しい決断が必ずしも正しい結果をもたらすわけではないという社会の容赦のない一面を描いたビターな物語には、大人の共感を得られる力がありました。
加えて、ウェインは描き方を間違えれば主張がコロコロ変わる自己中心的なキャラクターにもなりかねなかったところを、人間味ゆえの不完全さとして共感を得られるキャラクター像に仕立て上げられています。本作の脚本・演出・演技の質はかなり高いと言えます。
愛し合ったカップルがすれ違うまでの過程が胸を打つ
本作は優れたラブストーリーでもあります。
1980年で描かれるのはウェインがアメリアと出会い、結ばれるまでの過程。1990年で描かれるのはキャリアの不遇の中でウェインがストレスを抱え、ギクシャクし始めた二人の関係。2015年で描かれるのはアメリアと死別してすべてを総括するウェインの姿であり、本作で描かれるのは『エターナル・サンシャイン』(2004年)、『(500)日のサマー』(2009年)、『ブルーバレンタイン』(2010年)のような、愛し合ったカップルがすれ違うまでの過程なのです。当該ジャンルが傑作揃いであるという例に漏れず、本作も胸を打つドラマとなっています
1980年には一目会った瞬間にお互いを意識し合い、運命の出会いだったはずなのに、1990年にはキャリアの停滞から抜け出せないウェインが、作家として開花しようとしている妻に対して苛立っている。かと思えば、出世した元相棒のローランドの助力によって刑事に戻れるとなると、途端に態度が大きくなってアメリアをうんざりさせる。
ウェインって本当にどうしようもない男なんですよ。ただ、仕事がうまくいかなくなると私生活でも腐ったり、そんな時に奥さんが良い顔で仕事してると嫌味を言いたくなる気持ちって、男なら多少なりとも分かります。気持ちは分かるんだけど、それを奥さんに対して言っちゃいけないんだよという一言を言っちゃうんですね。そのドラマがとても痛くて切なく感じました。
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