(1990年 アメリカ)
銃の持つ圧倒的なパワーに狂わされた男女2名を描いたスリラーであり、まぁ言いたいことは分からんでもないのですが、主題ありきで理屈を後からくっつけていったような映画なのでとにかく不自然な点が山盛り。主題に辿り着く前に見ていることがバカバカしくなるような映画でした。
あらすじ
警察学校を卒業したての警官ターナー(ジェイミー・リー・カーティス)は、パトロール中に強盗を発見し、銃を向けられたため射殺する。しかし偶然その場に居合わせたハント(ロン・シルヴァー)が強盗の銃を持ち帰ったために、ターナーは発砲の正当性を立証できずに停職処分にされる。ハントは平凡なトレーダーだったが、偶然手にした銃のパワーに魅了され、その銃を使って連続殺人を犯すようになっていた。そんな中でターナーとハントは再開し、激しい恋に落ちるのだった。
スタッフ・キャスト
監督は後のオスカー監督キャスリン・ビグロー
1951年生まれ。高校卒業後にはアートの世界に進んだものの後に映画に転身し、コロンビア大大学院で映画理論を専攻。ウィレム・デフォー主演の『ラヴレス』(1982年)で長編監督デビューし、同時期にGAPの広告モデルも務めるという才色兼備ぶりを発揮しました。
1989年にはジェームズ・キャメロンと結婚し、1991年に離婚。そのキャメロンが脚本を書いた『ストレンジ・デイズ/1999年12月31日』(1995年)は初の大作でしたが、製作費4200万ドルに対して全米興行成績がたったの800万ドルという大爆死となりました。
映像センスに光るものはあるが観客受けのする映画は撮れないというのが80年代から90年代にかけてのビグローでしたが、2000年代後半に入って突如才気を爆発させます。
『ハート・ロッカー』(2009年)でアカデミー作品賞と監督賞を始め6部門受賞、続く『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)、『デトロイト』(2017年)も高評価という、出す映画すべてを批評面でも興行面でも成功させる大監督となりました。
脚本は『ヒッチャー』のエリック・レッド
1961年ピッツバーグ出身。善悪が複雑に入り組んだサスペンスを得意とする脚本家兼監督なのですが、監督デビュー作である短編映画『ガンマンズ・ブルース』(1981年)の製作後、1年ほどNYでドライバーの仕事をしていました。その頃に書いたと思われる『ヒッチャー』(1986年)の脚本が評価され、ルトガー・ハウアー主演で映画化されてカルト的な人気を博しました。
その後、本作の監督であるキャスリン・ビグロー監督のバンパイア映画『ニア・ダーク/月夜の出来事』(1987年)の脚本を手掛け、ロイ・シャイダー主演のスリラー『ジャッカー』(1989年)で長編監督デビュー。
また、混迷した『エイリアン3』(1992年)の脚本執筆に呼ばれた一人であり、リプリーが登場しない西部劇風の内容にしたのですが、フォックスからは不評で不採用となりました。
製作はオスカー常連オリバー・ストーン
1946年NY出身。『ミッドナイト・エクスプレス』(1978年)でアカデミー脚色賞受賞、『プラトーン』(1986年)、『7月4日に生まれて』(1989年)でアカデミー監督賞を二度受賞した大監督です。本作がドイツで公開された際にはオリバー・ストーンの映画として宣伝されたようなのですが、どうにも名義貸しの匂いもしてきます。
というのも、この時期にストーンは株式投資に失敗し、映画プロデューサーのエドワード・R・プレスマンに損害を肩代わりしてもらっていました。『トーク・レディオ』(1988年)はその借りを返すために撮った映画だと言われています。
そして本作もエドワード・R・プレスマンが製作しているので、当時知名度のなかったキャスリン・ビグローとエリック・レッドの名前だけでは弱いと感じたプレスマンが、天才監督の名声としての欲しいままにしていたストーンをプロデューサーの中に入れたような気がします。
主演は『トゥルーライズ』のジェイミー・リー・カーティス
1958年LA出身。父は1950年代の二枚目スターであるトニー・カーティス、母は『サイコ』(1960年)の美人女優ジャネット・リーというサラブレッドです。
ジョン・カーペンター監督の『ハロウィン』(1978年)や『ザ・フォッグ』(1980年)に出演してスクリーミング・クィーンと呼ばれたカーティスを、拳銃を持った殺人鬼と孤立無援状態で対峙する女性警察官役にしたという辺りに、何となくキャスティング意図は見えてきますが。
後にキャスリン・ビグローの夫となるジェームズ・キャメロンが監督した『トゥルーライズ』(1994年)での主人公の妻役でゴールデングローブ主演女優賞を受賞しました。
感想
警察が主人公の言い分を聞かなすぎ
本作は新米警官ターナー(ジェイミー・リー・カーティス)が強盗を射殺するところから始まります。ターナーが発砲したのは強盗に銃を向けられたためだったのですが、現場に居合わせたハント(ロン・シルヴァー)がこっそりと拳銃を持ち帰ってしまったために、正当防衛の証拠が残っていません。
これに対しニューヨーク市警はターナーによる発砲を違法なものと判断して停職処分にするのですが、いくら何でも身内の言い分を聞かなすぎでしょう。銃社会アメリカという土地柄を考えると、強盗が銃を持っているという状況は容易に推定できるわけだし。
その後、なんやかんやあって連続殺人犯になったハントはターナーに対して罪を白状し、ターナーは彼を逮捕するのですが、警察内部は身内であるターナーの主張を信用せず、社会的地位のあるハントさんがそんなことするわけないだろって感じで釈放してしまいます。
いや、バカかと。
主人公の行動に問題多すぎ
釈放されたハントはターナーを襲い、その友人を殺し、ターナーの実家にまで押しかけてきますが、明らかに自分を狙っている殺人鬼が野放しになっている状況を友人や家族に警告もしないターナーも凄い。
そして、自分を警護兼監視している他の警官から銃とバッジを奪ったり、協力してくれている同僚刑事を手錠で繋いで一人でハントを追いかけたりと、自ら状況をどんどん悪くしていく感じも頭悪くてついて行けませんでした。
と、ここまで文句を書いてきて気付いたんですが、エリック・レッドの脚本って、人里離れた荒野を舞台に自分一人で悪と対峙せざるをえないというシチュエーションがないと成立しないんだろうと思います。
都会を舞台にして、主人公は警察という官僚組織の組織人。そんな前提を置きつつ彼女が単独で戦わざるを得ないシチュエーションを無理やりに作ったので、どうしてもおかしな部分が出来てしまっています。
悪人が突然強くなりすぎ
悪役ハントは平凡な金持ちでしたが、射殺された強盗の所持していた拳銃をこっそり持ち帰ったことから、銃の魅力に取りつかれました。
そこから連続殺人犯となり、ターナーの名を刻んだ銃弾で人を殺しまくる毎日。そのうち警察官であるターナー本人を襲い、複数人の警察官相手の銃撃や格闘も行うだけの卓越したスキルを見せるようになるのですが、頭がおかしいとは言え、そのスキルは一体どこで身に付けたんだよという状態になっていきます。
本作は『ヒッチャー』のような得体の知れない悪ではなく、その出自までが描かれた悪なのだから、力の源泉を有耶無耶にしてはいけませんでした。
≪キャスリン・ビグロー監督作品≫
ブルースチール_頭の良い人間が一人も出てこないスリラー【4点/10点満点中】
ストレンジ・デイズ/1999年12月31日_長くてつまらない【4点/10点満点中】
K-19_面白いけど史実を脚色しすぎ【6点/10点満点中】
ハート・ロッカー_アメリカ人が自身を戦争ジャンキーと認めた【8点/10点満点中】
ゼロ・ダーク・サーティ_深みはあるが視点は狭い【5点/10点満点中】
デトロイト(2017年)_怖くて深い実録サスペンス【8点/10点満点中】
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