ダーティー・コップ_友達のヤバイ一面を見てしまったら…【5点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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クライムサスペンス
クライムサスペンス

(2016年 アメリカ)
一応クライム・サスペンスではあるのですが、緊張感あふれるタイトな作風ではなく、ユーモアを交えつつユルく進んでいると途中から段々怖くなっていくタイプの作風です。最後まで見ると非常に意義を感じられる作りにはなっているのですが、抑揚のない展開であまり面白くはないので、途中脱落者が多く出るかもという仕上がりです。

あらすじ

ラスベガス警察のストーン(ニコラス・ケイジ)は、小物の麻薬売人に高額な保釈金がキャッシュで支払われたことから、その背後に何かがあると睨んで独自に潜入捜査を開始する。その結果、郊外の何の変哲もない建物に巨大な金庫があることを突き止め、その中身を奪うことにする。ストーンズは、同じく警察官で友人でもあるウォーターズ(イライジャ・ウッド)を誘って計画を実行に移す。

スタッフ・キャスト

ブリュワー兄弟は新人の兄弟監督

本作の脚本・監督を務めるベンとアレックスのブリュワー兄弟はMTV監督として活躍し、ジャスティン・ビーバーの”Where Are U Now”でMTVミュージックアワードを受賞。本作で長編映画デビューとなりました。

ただし本作以降ロクな作品をリリースしていないところを見ると、本作が映画界での最初で最後のトライになったようです。

主演はニコラス・ケイジ

名門コッポラ一族の出身であり(フランシス・フォード・コッポラが叔父、タリア・シャイアが叔母、ソフィア・コッポラは従妹)、『リービング・ラスベガス』(1995年)でアカデミー主演男優賞を受賞する演技派俳優で知られていましたが、『ザ・ロック』(1996年)よりアクション俳優として開花。

ザ・ロック【良作】マイケル・ベイの最高傑作

90年代後半から2000年代前半にかけてはハリウッドトップクラスのスターだったのですが、浪費癖が凄まじく稼いだ大金を全部使ってしまい、2008年に破産状態となりました。

それ以降は仕事を選んじゃおれんと言わんばかりに年に数本のB級映画に出演するようになり、今ではすっかりセガールと並ぶVシネ俳優です。

共演はイライジャ・ウッド

1981年アイオワ州出身。子役として『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』(1989年)に出演し、同じく子役スターだったマコーレー・カルキンと共演した『危険な遊び』(1992年)でサターン賞若手男優賞受賞。

成人後には『ロード・オブ・ザ・リング』三部作(2001年~2003年)のフロド・バギンズ役で人気を博しました。大のホラー映画好きが高じて2012年にホラー専門の映画制作スタジオThe Woodshedを立ち上げ、ニコラス・ケイジ主演の『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018年)などを製作しています。

マンディ 地獄のロード・ウォリアー_無駄な映像装飾が盛り上がりを阻害する【4点/10点満点中】

大御所ジェリー・ルイスの最後の出演映画

ニコラス・ケイジ扮するストーンの父親役を演じるのは大物コメディアンのジェリー・ルイス。友人であるニコラス・ケイジからの依頼で本作に出演したのですが、2017年に死去したルイスにとって最後の映画出演となりました。

1926年ニュージャージー州出身。1946年にディーン・マーティンと「底抜けコンビ」を結成、彼の演じたバカキャラは志村けんのバカ殿の着想の元になったとも言われています。チャリティ活動にも熱心で、筋ジストロフィー患者支援のため1966年に創設したチャリティテレビキャンペーン番組『ジェリー・ルイスのレイバー・デイ・テレソン』は、日本テレビの『24時間テレビ/愛は地球を救う』の原型ともなりました。

映画における代表作はマーティン・スコセッシ監督の『キング・オブ・コメディ』(1983年)で、ロバート・デ・ニーロにストーカーされる大御所コメディアンを演じました。

キング・オブ・コメディ_他人事ではないイタさ【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)
(1982年 アメリカ)「自分は認められていないだけで、何者かになれるはずなんだ」という自意識のみが肥大化しているが、厳しい環境で自分の可能性を試したことはない。そんな男の憐れなドラマには、誰しもが身につまされる部分があるのではないでしょう...

感想

ニコラス・ケイジの正体不明ぶりが良い

ニコラス・ケイジが演じるのはラスベガスの警察官ストーン。警察官といってもアクション映画に出てくるようなカッコいいものではなく、犯罪現場でもダラダラと関係のない世間話をしたり、最新のシステムを導入してくれと上司にお願いしたり、逆に上司から職権濫用気味のお願いを受けたりする、きわめてサラリーマン的な日常を送っています。

そんなある日、逮捕した小物の麻薬売人に高額な保釈金がポンとキャッシュで支払われたことから、こいつの裏には何かあると感じたストーンは、この売人のバイト先であるホテルでの潜入捜査を開始します。

潜入捜査の結果、何の変哲もない建物に巨大金庫が存在することが判明。ストーンがその中身の強奪を計画することが作品の内容となります。

このストーンですが、潜入捜査を思い立った理由も、金の強奪を目論んだ理由も判然としません。少なくとも社会正義に燃えている様子はないし、リスクを冒してまで大金を手に入れなければならない逼迫した経済事情もありません。なんせ実家暮らしだし。

加えて「ダーティー・コップ」という邦題とは裏腹に、欲深い汚職警官という風情でもないために、一体何を考えているのかがサッパリわかりません。もしかしたらただの暇つぶしだったのかも。

このストーンの正体不明ぶりが後半のサスペンスで生きてくるのですが、演じるニコラス・ケイジの本気とも冗談ともつかないとぼけた演技が実にハマっていました。そうそう、この人って演技のうまい人だったんだよなと。

ビビりのイライジャ・ウッドも良い

そんなストーンから「良い話があるから協力しろよ」と言われて強奪計画に参加するのが、イライジャ・ウッド扮するウォーターズ。

ストーンと同じくラスベガス警察勤務であり、一応ストーンは上司に当たるのですが、二人は友人関係にあるのでタメ口をきいています。

ストーンがボケだとするとウォーターズはツッコミであり、すっとぼけた顔して結構大胆な計画を話してくるストーンに対して、「なんでそんなことするんだよ」と観客の代わりに常識的な切り返しをします。ストーンはまともに答えてはくれないのですが。

一見するとストーンよりも態度が大きく、本気出してないだけで実はできる奴ぶってる部分もあるのですが、いざ強奪計画を実行に移すとビビりまくりであり、小物ぶりを披露します。

そして、彼の小心なところがクライマックスに向けて大きな意味を持ってきます。

友達のヤバイ一面を見てしまった

ついに強奪計画を実行に移すと、予想外のことばかりが起こります。

そもそもの彼らの計画はこうです。金庫のある一階の真上の部屋が住居として利用されていることから、まずその部屋に侵入。強力なドリルを使って2階の床(=1階の天井)をぶち抜き、金庫に侵入してスマートに中身を奪う。

しかし、いざ2階の部屋に侵入するとジャンキーみたいな男と若い女性がいて、明らかに普通じゃない感じ。で、ウォーターズが目を離した隙にストーンは男の方を撃ち殺してしまいます。無血で金だけをせしめるという二人の計画は出だしから崩壊。

女の方も抵抗してきたのでまたしてもストーンは撃ち殺そうとするのですが、そこはウォーターズが止めて何とか事なきを得ました。

その後にも、ドイツからわざわざ仕入れたドリルは作業中に壊れるわ、奥の部屋から大量の武器が見つかってどうもヤバそうな組織が関わってるわと散々なのですが、それでもストーンは諦めない。

これだけのことが起こっても淡々としているストーンに対して、予測不可能な事態の連続にビビりまくるウォーターズ。ウォーターズは、ストーンが本当にヤバイ奴なんじゃないかと思い始めます。

原題の”The Trust”(信頼)がここで意味を為してきます。友達だと思っていた人間のヤバイ一面を見た時にどうすればいいのかという。そしてストーンの正体不明ぶりとウォーターズの小心ぶりもここで生きてくるわけです。この腹の探り合いには実に見応えがありました。

※注意!ここからネタバレします。

疑心暗鬼がピークに達した後

ストーンをまったく信用できなくなったウォーターズは、「ヤバイ現場だってことを知ってたから、俺を騙して連れてきたんだろ!」「用が済んだら俺を殺して罪を擦り付けるつもりだろ!絶対そうだ。そうに決まってる!」と、疑心暗鬼がどんどん広がっていきます。

対するストーンは、「そんなわけないだろ」「この仕事が終わったら一緒にバカンスに行こうぜ。もうチケットも買ってるんだよ」となだめようとするのですが、妙に落ち着ついて話すので、ウォーターズは余計にストーンを信じられなくなります。

結局、ウォーターズはストーンを射殺してしまうのですが、その後にストーンのポケットからバハマ行きのチケットが出てきて、彼の言っていたことがすべて本当だったことが分かります。

この疑心暗鬼のやりとりは良かったですね。また、観客にとってもストーンとウォーターズのどちらが本当のことを言っているのか判別が付かない見せ方になっているので、ラストの絶望感は格別なものでした。

展開がタラタラと遅い

ただし欠点は、90分程度の短い映画であるにも関わらず、テンポが悪くて見やすくはなかったという点です。

現在起こっている問題は何なのか、それへの対応策は何なのか、対応策を難しくしている要因とは何なのかという3点を的確に描いていればスリリングこの上なかったかもしれない場面も、情報整理がうまくいっていないので「なんかバタバタしているな」で終わっています。

脚本や演出がもっと引き締まっていれば見違えるような映画になっていたかもしれないのに、残念な限りです。

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