(2017年 アメリカ)
リサとケイトの姉妹は休暇でメキシコを訪れていた。リサが失恋で落ち込んでいたこともあって羽目を外したかったケイトは、地元の人から紹介されたシャーク・ケイジ・ダイビングに挑むことにした。
8点/10点満点中_サメと、サメよりももっと怖いもの
※このレビューはネタバレを含んでおります。該当箇所は分かるようにしているので、注意して読んでください。
スタッフ・キャスト
監督・脚本はリブート版『バイオハザード』のヨハネス・ロバーツ
1976年イギリス出身。25歳の時に『Sanitarium』(2001年/日本未公開)というホラー映画の共同監督でデビューして以来、一貫してホラー映画ばかりを撮っている人であり、従前の活動拠点は母国イギリスだったのですが、本作よりアメリカに移っています。本作が530万ドルの製作費に対して4430万ドルのスマッシュヒットとなったことから注目の監督となり、2019年8月には続編『47 Meters Down: Uncaged』(2019年)が全米公開。またリブート版『バイオハザード』の監督にも内定しています。
主演は『塔の上のラプンツェル』のラプンツェル役のマンディ・ムーア
1984年アメリカ合衆国ニューハンプシャー出身。14歳の時にレコード会社と契約し、1999年にデビューアルバム『So Real』を発売。当初はティーンエイジャー向けのポップス路線だったものの、シンガーソングライター志向だったことから大人向けの曲調へと変化させていきました。
アン・ハサウェイ主演の『プリティ・プリンセス』(2001年)での意地悪な同級生役で映画デビュー。また長身を生かしてモデル業もしており、歌手・俳優・モデルのどれでもいけるという恵まれ過ぎた状態で活躍していました。
2億6千万ドルという破格の製作費が投入されたディズニー映画『塔の上のラプンツェル』(2010年)ではオーディションでタイトルロールを勝ち取り、ザッカリー・リーヴァイとのデュエット曲『輝く未来』はアカデミー歌曲賞にノミネートされました。
登場人物
- リサ(マンディ・ムーア):恋人と別れたばかりで傷心の姉で、妹ケイトと二人でメキシコ旅行中。引っ込み思案で慎重な性格だが、「羽目外そうぜ!」「インスタ映えする画像をアップしてリア充ぶろうぜ!」という妹ケイトに引っ張られて、気乗りはしないがシャーク・ケイジ・ダイビングに参加した。
- ケイト(クレア・ホルト):リサの妹で、姉とは対照的に活発な性格。現地でのナンパには付いていき、誘われれば警戒心よりも好奇心を優先。王道のツアーコースを行くよりも、旅先で裏道に入って思いも寄らぬ穴場を見つけ出すことに喜びを見出すタイプ。リサが渋る中、シャーク・ケイジ・ダイビングにノリノリで参加した。
- テイラー船長(マシュー・モディーン):リサとケイトが参加したシャーク・ケイジ・ダイビングを運営している船長。老朽化した船、信用していいのか分からない胡散臭さ、実力があるんだかないんだか分からない見た目で、主人公と観客を不安のどん底に叩き込む。
感想
リサがウザい
いきなり文句から入りますが、姉のリサが相当ウザいです。
慎重な性格なのは分かるのですが、それにしても序盤から「やっぱり私やめとくわ」的な発言が多すぎて、こういう人と一緒に旅すると面白くないなぁと、リアルに嫌な感じの人になっています。
事故後にもしばらくパニクっていて、これまたウザいです。事態を打破しようと一生懸命に頑張る妹ケイトを止める発言もするのですが、「サメが居て危険だからケイジを出ちゃだめ」ならともかく、「怖いから私を一人にしないで」なので、こんな弱っちい姉を説得する妹が気の毒に思えてしまいます。
ただし、リサのウザさを我慢しなければならないのは前半のみで、後半はそんなリサもわがまま言ってられないほど事態が逼迫してきて、とても盛り上がりました。
海底の描写が凄い
海底に取り残されることの恐怖が実に見事に描けています。
浅瀬ではあれだけ透明だった海も、47mとなると暗くて視界も悪く、サメがいるはずなのに一寸先の見通しすら利かないという怖さ。
白眉は、遠くに見える光を目指してリサが泳ぐ場面。真下には吸い込まれそうな海溝が口を開けている上を泳いで渡らねばならないことの恐怖には筆舌に難いものがありました。このまま暗闇に落ちてしまうんじゃないかという不安感が実に見事に表現されているのです。
加えて、海底の暗さで方向を見失い、帰るべきルートが分からなくなってパニックに陥る場面も実によく演出されており、怖くて怖くて見ていられませんでした。サメというダイレクトな対象物よりも、海そのものの方がよほど怖いということが、実に見事に演出されています。
痛みの描写が凄い
全米公開時には、ホラー映画としては珍しくR指定を避けてPG-13で上映された作品なのでスプラッタ描写が盛んにあるわけではないのですが、観客にリアルに痛みを感じさせる描写が非常によくできていて、実際の血糊の量以上に観客の心に傷を与えます。
銛がかすめて手の平から出血する場面や、海底とケイジの間に挟まった足を引き抜く際にスネがすりむける場面などは、通常のホラー映画と比較すると随分と大人しい怪我ではあるものの、観客がリアルに連想できるレベルにチューニングされていて、見ながら「あ~!」と叫んでしまいそうになりました。
また、ちょっとのことで傷ついてしまう人間の肌の弱さを描くことで、鋭い牙を持ったサメという脅威をより深刻に見せるという効果も得られており、最小限の特殊メイクで最大限の効果を与えるという高効率演出には感心させられました。この監督、ダテにホラー映画ばかり撮っていないなと。
注意!ここからネタバレします。
オチが素晴らしすぎる
序盤からやたらと潜水病に触れられていたし、窒素による幻覚症状がどうのこうのという話も出てきていたので、これが伏線なんだろうということには気が付いていたのですが、それにしても、ここで幻覚を持って来るかという、現実と幻覚の境目の作り方には唸らされました。
加えて、サメ映画は人間がサメの脅威から間一髪逃れて終わりというパターンが多く、本作も一旦はそのパターンを継承して一つの山場を形成しているのですが、後にそれが幻覚と分かることで、海中で非力な人間が、海に適応した体を持っているサメから逃れることなんてできるわけないだろという、ジャンルへの高度なアンチテーゼにもなっているという構造にも「ほぉ~」っと感心させられました。これぞ究極のリアリズムです。
まとめ
感情移入できない登場人物にこそ難はあるものの、きわめてよくできた海の描写と手慣れた恐怖演出には、そうした欠点を凌駕するだけの魅力がありました。上映時間もコンパクトなので長所で逃げ切れているし、B級ホラーとしては良作の部類に入ると思います。
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