トゥルー・ストーリー_濃厚な心理劇だが後半失速する【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2015年 アメリカ)
ニューヨークタイムズに勤め、何度も表紙を飾って来たマイケル・フィンケルは、捏造記事が原因で会社を解雇された。失意のうちに故郷のモンタナに戻ったマイケルの元に、殺人容疑をかけられているクリスチャン・ロンゴという男が、マイケル・フィンケルを名乗って逃亡していたという知らせが入る。興味を持ったマイケルは、ロンゴに面会することにする。

© 2015 – Fox Searchlight

スタッフ・キャスト

アーノン・ミルチャンとブラッド・ピットが製作

  • ブラッド・ピット:1963年オクラホマ出身。言わずと知れた大スターなのですが、シネフィルとしても有名であり、自らの製作会社プランBエンターテイメントを保有しています。実は映画プロデューサーとしての実績は俳優としての実績を越えており、『ディパーテッド』(2006年)、『それでも夜は明ける』(2013年)、『ムーンライト』(2016年)と三本のアカデミー作品賞受賞作を製作しています。

監督・脚本のルパート・グールドって誰?

1972年ロンドン出身。英国演劇界では有名な監督であり、パトリック・スチュワート主演の『マクベス』やレイフ・ファインズ主演の『リチャード三世』などの演出を行ってきました。

2012年にはウィルアム・シェイクスピアの史劇作品をテレビシリーズ化した『ホロウ・クラウン/嘆きの王冠』(2012年~)の監督の一人に選ばれました。同作はBBCとサム・メンデスが製作し、ベン・ウィショー、トム・ヒドルストン、ジェレミー・アイアンズ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジュディ・デンチら英国のトップ俳優が大挙して出演したテレビシリーズであり、こうしたビッグプレジェクトから声がかかることからも、グールドがいかに評価の高いクリエイターであるかが分かります。

映画界に進出した本作では、リメイク版『サスペリア』(2018年)のデヴィッド・ガイガニックと共同脚本も手掛けています。

終始真面目なジョナ・ヒル

1983年ロサンゼルス出身。父はコンサートツアー専門の税理士で、エンタメ業界とも繋がりのある裕福な家庭で生まれ育ちました。

大学在学中より一人芝居の舞台に立っていたところ、父の友人のダスティン・ホフマンからオーディションを受けることを勧められ、デヴィッド・O・ラッセル監督、ダスティン・ホフマンも出演した『ハッカビーズ』(2004年)で映画デビューをしました。

その後は太った体格を活かしてコメディ映画で活躍するようになり、『40歳の童貞男』(2005年)、『もしも昨日が選べたら』(2006年)、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007年)などのヒット作に出演しました。邦題に「童貞」と付く映画に2本も出演しているあたりに、当時の彼の立ち位置がよく表れていますね。

批評面では、『マネーボール』(2011年)と『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされています。また、クエンティン・タランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)の演技も好評でした。

上記の通り、基本的にはコメディに軸足を置いている俳優さんなのですが、本作では笑いの要素一切なしのシリアスな役柄に挑戦しています。

登場人物

  • マイケル・フィンケル(ジョナ・ヒル):ニューヨークタイムズの記者で、3年間で10回表紙を飾ったほどの腕利き。記事の執筆・おしゃべり・ポーカーを同時にこなせるほどの知能を持っている。喘息持ち。捏造記事を書いたことで職場を追われて故郷のモンタナに戻った。
  • ジル・フィンケル(フェリシティ・ジョーンズ):マイケルの妻で、大学職員。
  • クリスチャン・ロンゴ(ジェームス・フランコ):妻と3人の子供を殺害し、メキシコに逃亡していたところを逮捕された。その際に、偽名としてマイケル・フィンケルを名乗っていたことから、フィンケル本人との接点を持つこととなった。

感想

誰もが共感できる弱みを持つマイケル

マイケルは腕利きの記者だったのですが、その絶頂期にある記事の捏造が発覚して、職場を追われます。ただし完全な創作でもウソでもなく、記事の訴求力を高めるため、複数人の取材対象に起こったことを一人の人物にまとめて物語性を高めたという点には、同情の余地もあります。

面白い記事でなければ読んでもらえないし、読んでもらえなければ記事で訴えたかった社会問題の周知もできない。この程度の失敗と言っていいのかは分かりませんが、仕事に熱中するあまりに、仕事の本質を忘れてしまうという失敗は誰の身にも起こりうることです。マイケルの失敗は非常に人間的であり、仕事熱心な人であれば誰しもが陥る可能性を持った失敗であることから、多くの人の共感を呼びます。自分もマイケルと同じ失敗をしないとは言い切れないなと。

それまで肩で風切って歩いていたマイケルは、NYに居られなくなってモンタナの田舎に戻ります。大学職員の奥さんからは「私が勤務時間を増やして何とか頑張るから」なんて言われ、その言葉自体は非常にありがたいものの、一家の大黒柱としてのプライドはズタズタ。何か仕事をしなけりゃと、ニューヨークタイムズよりも劣る地方紙に記事の執筆を申し出ても相手にされず、人生のどん底を味わいます。男として非常に辛いマイケルの立場には、私の心も引き裂かれそうになりました。そして、そこに現れたのが死刑囚のロンゴでした。

ロンゴの無罪を信じたくなる心理

ロンゴは妻と3人の子供を殺害した容疑で収監され、裁判を待っている囚人です。彼の罪状にはほとんど疑いの余地がなく、世間からは殺人犯と見られている男であり、初面会時のマイケルもロンゴを警戒していました。

しかし、ロンゴは意外な面を見せることでマイケルと観客を虜にします。彼は田舎の殺人犯とは思えないほど博識で文章や絵画のセンスを見せ、インテリ層が購読しているニューヨークタイムズにも熱心に目を通していました。先入観と実像との乖離、まずこれがマイケルと観客の価値観を揺さぶります。

次に語られるのが彼の身上であり、裕福な出身ではなかったことと、若くして子供を授かったことから学歴には恵まれていなかったのですが、そんな中でも一時は仕事で成功して出世コースに入ったこともありました。しかしひとつの失敗から職を失い、その後はカフェでアルバイトをして家族を養っていたと言います。田舎という狭い世界なので、かつての職場の後輩が客として来ることもあったというシチュエーションが泣かせます。

恵まれない境遇から何とか浮上しようともがいていたロンゴの苦悩はマイケルと観客の双方に突き刺さりました。自分自身を投影できるリアルな苦悩がそこにはあったからです。特にマイケルにとっては、今まさに自分が味わっている苦悩を知っている仲間として、ロンゴへの共感が一気に増していくのでした。

彼の妻子が死んだことは事実であるが、その犯人は人の死を楽しむサイコパスではなく、家庭という重い責任を背負ったまま沈んでいった男に見えてきて、「本当にこの男が殺したのだろうか?」「殺したとしても、何か仕方のない事情があったはずだ」という思いを掻き立てられました。

パラダイムシフトがうまく機能していない

そして後半の裁判では、客観性の場で真実が明かされていき、思いっきり感情移入していたマイケルと観客は裏切られることになるのですが、このパートがうまく機能していないので、作品全体が締まっていません。

ロンゴは、4人の犠牲者のうち自分が殺したのは2人だという奇抜な主張を始めます。生活に絶望した妻が子供3人と心中を図り、上の子二人は妻によって殺された。下の子は細く呼吸をしていたが、この子の人生がどうなるのかを考えるといたたまれなくなって自分がとどめを刺したと。さすがに理解のできる説明ではなかったことからマイケルは我に返り、ロンゴは信用できる男ではない、自分は担がれていたのだということに気が付きます。

前半のドラマをすべてひっくり返すこの部分こそが、物語におけるもっともダイナミックな部分だったと思うのですが、残念なことにこのパラダイムシフトをうまく演出できていませんでした。一対一の密室で話していると物凄くまともなことを言っているように聞こえていたが、第三者を交え、客観証拠と照らし合わせながら発言を検証すると、「なぜ自分はこんな男を信用していたんだ」と愕然とする。その落差を表現できていないのです。

その理由としては、前半でのマイケルとの対話と、後半での裁判での証言にあまり重なっている部分がないことが一点。次に、このパートではマイケルの感情表現が豊かではありませんでした。後半ではマイケルがただ怒っているだけなのですが、信じてはいけない者を信じてしまったことを恥じたり、真理を見誤るという点で捏造記事を書いた時点から何ら成長していないことに不安を抱いたりといった、もっといろんな感情がそこにはあるべきだったと思います。

まとめ

家庭を抱えた状態で仕事に行き詰った男の物語としては見応えがありました。完全に失敗した男と、失敗の過程にある男の対話には普遍性があって、多くの人が自分の物語としても見られると思います。ただし、法廷劇に入ってからはつまらなくなってしまうので、全体としてはイマイチの出来だったと言わざるをえません。

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