(2017年 アメリカ)
近寄った生き物をすべて死なせてしまうという謎の性質を持った男の話で、斬新なSF設定が散りばめられた序盤こそ面白いのだが、監督の演出力不足で中盤以降の伸びがなく、最終的にはSFから逸脱したところに着地してしまう。
感想
序盤が一番面白い
知らない映画だったが、Amazonプライムに上がっていたので何気なく鑑賞。
紹介文には「『メッセージ』(2016年)のスタッフが関与」的なことが書かれていたが、どうやらサウンドデザインが『メッセージ』の人だったってだけで、クリエイティブ面でドゥニ・ヴィルヌーヴが関わっているという訳でもない。
その程度の接点で『メッセージ』の名前を出すとはほとんど詐欺だが、その程度しか売りとなる事項がないということから中身はお察しいただきたい。
冒頭、ある男が目覚めるのだが、記憶がない。そこには大破した車があり、自分自身も怪我を負っていることから、どうやら事故に遭ったのだろうということは分かる。
男は車道に出て助けを求めるのだが、停まってくれた車のドライバーは白目をむいて死んでいる。頭上を飛んでいた鳥もボトッと落ちてきた。何だこの現象は。
男は人を求めてダイナーに向かうが、やはり全員死んでいる。どうやら自分が近づくと生き物が死ぬらしい。
この謎だらけの序盤だけは素晴らしい出来だった。
意表を突く展開の連続に、異変を察知した男の自然な反応が良い。
ただし本作の魅力はほぼこの序盤に集約されており、あとはグダグダなので覚悟していただきたい。
ドラマが盛り上がらない
財布に入っていた身分証から自分がリアムという名前だと分かった主人公は、身分証に記載の住所を頼りに帰宅する。
すると知らない女がやってきて、リアムは自分に近づくなと警告するんだが、彼女だけはなぜか死なない。
彼女も記憶喪失で、名前が分からないのでジェーンと名乗っている。『ジェーン・ドウの解剖』(2016年)という映画もあったが、ジェーンとは名無し女性に付けられる仮称である。
そしてジェーンが傍にいると他人が死ぬこともないということが分かり、リアムはジェーンと行動を共にし、二人で我が身に何が起こったのかを突き止めようとする。
こうして男女のバディが出来上がり、最初は半ば強制的に組んだ二人が段々と良い感じになっていくのだが、そこにロマンス映画らしき盛り上がりはない。
お膳立てはできるけどエモーションが伴わないのが本作の演出の限界なのである。
監督を務めたのはキャロライン・ラブレシュとスティーブ・レナードという全然知らない人達で、本作後にはテレビ映画を何作も手掛けているのだが、本作製作時点ではほとんど実績のない新人だった。
この二人はまだまだ勉強中という状態だったのだろうか、演出力不足で本編は全く盛り上がらない。
その後、ジェーンには婚約者がいたことが分かり、ドラマは緩やかな三角関係へと発展していく。
当然のことながら婚約者はジェーンを愛しているのだが、以前の記憶がないジェーンは婚約者よりもリアムに対する愛着を持っている。そしてリアムもまた、いけないとは思いつつもジェーンに好意を抱いている。
この三角関係もちゃんと演出すれば面白くなったはずなんだが、やはり見せ方の問題で胸に迫ってくるものがない。
SFからサスペンスへ ※ネタバレあり
どうやらジェーンには双子の妹がいて、彼女は失踪中の妹を探していたんだが、なかなか発見できずに絶望していたとか、話におかしな尾ひれがどんどんつき始める。
我々観客にとって興味があるのは、どうしてリアムとジェーンに超常的なパワーが身に付いたのってことなんだが、その辺りは変な落雷がありましたという話だけで片付けられてしまう。
そこからはリアムとジェーンに徐々に記憶が戻ってきて、あの夜に私たちは事故現場で一体何やってたんだってことが明らかになり始めるのだが、さほど関心のある部分ではないので正直どうでもよかった。
ジェーンは妹の件で絶望して橋から投身自殺を図ろうとしていたんだが、そこに現れたのが通りすがりのリアムで、彼が自殺を止めてくれた。
なんだがリアムはリアムで裏の顔があって、彼は若い女性を狙うサイコキラーで、ジェーンはそのターゲットだったって、何じゃこの話。
SFからどんどん離れていくので眩暈がしそうになったし、だったらシンプルに記憶喪失の話にすればよかったのであって、どうして込み入ったSF設定を入れてしまったんだろう。
本作の元ネタは『ダークシティ』(1998年)ですよね。
主人公は記憶喪失で、彼はシリアルキラーじゃないかという疑いがありつつも、最後には記憶よりも今の感情が人間を形作るという感動的な結末を迎える。
ダークシティは記憶そのものをテーマにしていたのでSF設定とミステリーに乖離がなかったが、本作は「近づいたら死ぬ」という特殊過ぎるSF設定を置いてしまったがために、分裂気味の映画になっている。
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