(2025年 アメリカ)
准教授から学生への性暴行疑惑をきっかけに、社会的に扱いに困るマイノリティ問題が噴出する社会派サスペンス。内容自体は結構攻めているのだが、社会的反発を恐れてか抽象的な表現に徹した結果、映画としてはつまらなくなっている。

インテリも一皮剥けば差別主義者
Amazonプライムで配信されているのを何気なく見たんだけど、ルカ・グァダニーノ監督、ジュリア・ロバーツ、アンドリュー・ガーフィールド、クロエ・セヴィニーら結構なメンツが顔を揃えた気合の入った作品が配信スル―という点に、時代を感じた。
ジュリア・ロバ―ツ扮するアルマは名門イェール大学で哲学を教える教授であり、その評価は高いようで終身在職権を狙える位置にもいる。
お友達を自宅に招いたパーティーでも高尚な会話が9割という実に優雅な人生を送っているアルマだが、そのパーティー後、共同研究者であるハンク准教授(アンドリュー・ガーフィールド)が加害者、教え子のマギー(アヨ・エビデリ)が被害者の性暴力疑惑が持ち上がり、いろいろと安泰じゃなくなるというのが、ざっくりとしたあらすじ。
当事者二人の証言以外に確たる証拠がない中で、どちらとも浅からぬ関係にあるアルマは、被害者・加害者の双方から「私の味方ですよね」と迫られる。
ここまでだと通常の社会派サスペンスだ。
アルマがしがらみを断ち切ってマギーのための証言をし、憐れな被害者女性の名誉回復に貢献してめでたしめでたしという筋書きを想定したのだが、脚本は思わぬ変化球を投げてくる。
冒頭のパーティーで、空気の読めない男子学生が「有色人種で女性で性的マイノリティのマギーはこの先安泰だよね。だって大学がうえに上げたいと思ってる属性ドンピシャなんだから」という発言をしてブーイングを受けるのだが、この発言こそが物語の核心を突いたものだった。
本作が描くのはレイプ事件そのものではなく、表面上の強者(白人・男性・性的マジョリティ)と、表面上の弱者(有色人種・女性・性的マイノリティ)の対立である。
パーティーでは、くだんの男子学生がおかしい奴扱いを受けて収まったのだが、その後のレイプ事件をきっかけに”理解ある”白人たちの化けの皮がはがれていく。
疑惑をかけられたハンク准教授は、マギーの属性について早口での批判を始める。
気持ちはわからんでもないが、冒頭ではインテリぶってた方ですよね?と、その豹変が滑稽にも見えてくる。
アンドリュー・ガーフィールドによる熱演もあり、安全圏から外れた時、正論とはいとも簡単に崩れるということを如実に示した名場面だった。
そして普段は知識人然として振る舞っているアルマもまた、気持ちに余裕がなくなってくると有色人種の学生に辛く当たり始める。
アルマの夫フレデリックも同様だ。
彼もまた精神科医としてインテリ然として振る舞っているのであるが、事件の相談のため自宅にやってきたマギーに対しては、露骨に嫌な態度を示す。
もともと性的マイノリティに対して冷淡な部分があったのだが、安全圏にいる時にはそのホンネを押し隠していた。しかし自分たち夫婦の生活を揺るがしかねない事態が起こった時、彼の差別感情は発露したのだ。
また別の場面、フレデリックは今日あったことの報告として、配偶者の不倫を頑なに否定する患者の話をするのだが、彼の配偶者であるアルマもまた共同研究者ハンクと同僚以上の関係であることは誰の目にも明らかで、彼自身も配偶者の不貞を認められないでいる。
他人に対しては正論をぶつけながら正当な自己評価はできないというインテリの弱点をよく突いた描写だった。
リベラルな人達は金や気持ちに余裕があるから綺麗事言っていられるのであって、実のところ心の奥底に差別感情は残っているし、気持ちに余裕がなくなれば差別主義者と大差のないことだって言い出す。
こうした不都合な事実を本作は白日の下に晒す。
権力を振りかざす弱者
こうして書くと「差別された人可哀そう映画」だと思うところだが、”弱者”側もまた、弱者であることで得られている権力を振りかざしているというもう一方の事実も明らかにする。
あの夜、ハンクを誘ったのはマギーの方で、二人が行為に至ったのは事実だが、その時点で一定の合意はあった。
しかしハンクから論文の盗用を指摘されたことでマギーは態度を翻し、ハンクを加害者に仕立て上げたのだ。
白人男性vs黒人女性の争いでは、圧倒的に”弱者”側の意見の方が通りやすいという社会の反応を読んでの行動であるが、男性であれば誰しもがこうした告発のリスクを感じたことがあるのではないか。
教え子に手を出すのは割とタブーに近いので、その点でハンクはシロとは言えないが、職業倫理の範疇で留まる問題と、性加害者にされるかもしれないという問題では、まったくレベルが違う。
そしてアルマは、同性としてマギーの”ズルさ”を見抜いているので、被害を訴える教え子に肩入れできないでいる。
アルマもまた、和姦を強姦と主張して一人の男性を社会的に追い込んだ経験があるのだ。
封印した過去を持つインテリ女性という難役を、ジュリア・ロバーツは抑えた演技で見せる。本作は彼女のキャリア史上最高のパフォーマンスではないかと思う。
凄い映画だけど面白くはない
こうして振り返ってみると実に鋭い社会派作品だったと思うのだが、見ている間はさほど楽しめなかった。
かなり攻めた内容に製作者側も相当ナーバスになっていたのか、ダイレクトに分かりやすい演出などはなく、2時間20分もの抑揚のない話を見せられるのは、まぁまぁしんどかった。
突如5年後にワープし、アルマもマギーもハンクも、みんなそれなりに幸せになっているというオチの付け方も中途半端だった。
白人男性のみがババを引いて女性は生き延びたというオチの方が主題に合っているように思うのだけれど、そうする度胸が誰にもなかったのだろう。


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