PLAN 75_どうせえっちゅーねん【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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社会派
社会派

(2022年 日本)
現実社会の延長線上に感じられる世界観や倍賞千恵子の演技など、見るべきものは確かにある。ただしひたすら「可哀そう」の人情節で終わっており、「で、どうすればいいのか」という思案をさせる内容になっていないので社会派作品としては中途半端。

感想

現実社会の延長線上にあるリアリティ

是枝裕和がエグゼクティブプロデューサーを務めたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(2018)の一編『PLAN 75』を長編にブローアップした作品で、早川千絵監督にとっては長編デビュー作にあたる。

Amazonプライムに上がっていたものを何となく見始めたが、底辺層の社会問題に日本映画らしい湿っぽさを加味した是枝節というものはしっかりと継承されており、見る価値は十分にある。

超高齢化社会や安楽死をテーマにした作品としては『ソイレント・グリーン』(1973年)や『トゥモロー・ワールド』(2006年)などの先例があるが、ディストピアSFではなく現実社会の延長線上でこのテーマを描いたのが本作の特徴。

タイトルにもなっているPLAN 75とは75歳以上の希望する高齢者を安楽死させるための制度なのだが、パンフレットのデザインや制度に誘導するためのパブリシティが実によく作りこまれており、実在する制度であるかのようなリアリティがある。

「死に方を自分で選択できる自由」とポジティブな打ち出し方をしたり、10万円の支度金で釣ったりといった点が妙にリアルで、この制度を社会に受け入れさせるためにどんな仕掛けが必要であるかを、作り手側がじっくり考えたということが伝わってくる。

市役所には専門の部署が置かれていて、担当者は懇切丁寧に説明してくれる。それは民間の押し売りとは違うし、アレな信念を持った狂信者らしさもない。淡々としたお役所口調もまたリアルで、早川千絵監督の観察眼には恐れ入った。

また細かくは説明されないが、日本の社会保険制度がほぼ崩壊しているという背景も透けて見えてくる。

主人公ミチ(倍賞千恵子)は後期高齢者ではあるが外でのお勤めをしないと一人暮らしすら維持できない様子だし、市役所の福祉課はホームレス化した高齢者への対策として公園での炊き出しを行い、高齢者が野宿しやすいベンチについて業者からの説明も受けている。

日本社会全体が「ない袖は振れぬ」という状態なのだ。ここまで余裕を失えば、高齢者の安楽死という方針もとらざるを得ないだろう。こうした背景の設定もよく考えられている。

加えて、PLAN75を選択せざるを得なくなった高齢者たちの背景もよく作りこまれている。

主人公ミチは最初の結婚に失敗し、若いころに死産を経験したことで家族を持つという理想を捨てた生涯を送ってきたために、今や天涯孤独の身である。

仕事こそが社会との唯一の接点となっていたが、職場で他の高齢者が死亡するという事故が起こってからというもの雇い主も高齢者雇用に慎重になり、クビを切られてしまう。

生活の術と前向きに生きるための人間関係の両方を同時に失ったミチは、PLAN75を選択する以外にやりようがなくなってしまう。

もう一人の高齢者 岡部(たかお鷹)は、実の弟からも疎まれるほどの無頼者として生きてきたため、自分の家族も、頼るべき友人もいない。

今の自分の在り様はこれまで為してきたことの結果だと思っているので、誰を恨むでもなく、合法的な安楽死で誰にも迷惑をかけずキレイに逝きたいと考えている。

解決策の不在という致命的な欠点

ただし、こうした隙の無さが本作の欠点にもなっている。

ここまでガチガチに作りこまれてしまうと、PLAN75なしにこの社会は成り立つのかという思いも持ってしまうのだ。

社会保障制度とはネズミ講みたいなもので、制度への参加者が増え続けてこそ維持されるという仕組みである。裏を返せば、若者が減り続ける社会では崩壊するしかない。

この点、本作で描かれる社会では若い世代が減りすぎており、世代間の相互扶助が成り立っていない。それでも高齢者を生かすということは、若い世代に重税を強いることにもなる。それはそれで若い世代にとっては不合理だろう。

図らずもミチや岡部の存在が示している通り、最終的にPLAN75に行きつくのは「次世代の納税者を作る」ということに参加してこなかった高齢者たちだ。

そういった高齢者たちが、数の少なくなった若い世代を頼りにするということは、ある意味で虫の良い話だと言える。

余裕のある資源を彼らに振り分けないのなら「なんと酷い社会だろう」と思うのだが、全国民に満足な社会福祉を行き渡らせることは不可能という極限状態においては、今の社会を作り上げた高齢者たちにその責任を取っていただくことは、もっとも合理的な選択肢ではないかとも思うのである。

冷徹であるが、若い世代から奪うよりもよほど筋が通っている。

だからこそこの映画は、全体として一体何が言いたいのかよく分からないのである。

非力な高齢者を追い込むのは確かに悪いことだが、それ以外に有効な対策もない中で、何をどうしろと言っているのかがさっぱり見えてこない。

結論も見えていないことでただ漠然とした説教をされているような映画なので、見終わった後に妙なモヤモヤが残る。

子を産み育てるということの重要性

ちょっと酷いことを書いてしまったので補足したい。

ここからは映画の感想というよりも私個人の少子高齢化に対する意見表明なので、「そんなのどうでもいい」という方は、ここで読むのを終えていただいてもいい。

なぜ私が子供を作らず蓄財もしてこなかった高齢者に手厳しいかというと、身近に実例があるからだ。

うちの父親は3人兄弟の末っ子なのだが、兄二人(私から見て叔父)は生涯未婚だった。

年老いた母(私から見て祖母)とず~っと同居で、家事は祖母に任せっきり。定時で仕事を切り上げては、ひたすらギャンブルや飲酒で給料を使い果たすという人生を送っていた。

悪い人たちではなく、幼い私にも良くしてくれたが、休日になれば一日中パチンコ屋に入り浸るなど子供の目にも異常に映るような生活を何十年も続けており、こういう人生を送っている親戚の面倒を最終的に見ろと言われるのは地獄だなと思ったりもした。

不摂生がたたってか二人とも70前に死んだので私に火の粉が降りかかることこそなかったが、現在は日本社会全体レベルでこういうことが起こっているのだ。

一般に、子供を持つことは金がかかると言われている。私にも子どもが3人いるが、確かに金がかかって仕方がない。

その裏を返せば、子供を持たなかった世帯は蓄財ができていないとおかしいのだが、実際にはそうではない。

適切な統計データを見つけられなかったので体感値になるが、未婚・子なし家庭の方が金を貯めていないという印象だ。

なぜなら、子供という巨大な支出源を抱えた家庭は長期的なマネープランを真剣に考えるのに対して、そこまで大きな支出の心配のない家庭はバケツの底に穴の開いたような家計を何十年も放置してしまい、その結果が「そこまで使った覚えもないのに大して金が貯まっていない」という状況につながるのではないかと思う。

自分一人だし、老後は年金で何とかなるだろうという甘いビジョンがあるのかもしれないが、残念ながら数十年後の年金の支給水準などどうなっているかなんて分かったもんじゃない。

日本社会というチームのメンバーを増やすことに協力してきたわけでもなく、ひとりで生きていけるよう蓄財に励んできたわけでもない人々が、最終的には国のご厄介になろうというのは個人的には受け付けない。面倒見切れんというのが本音としてはある。

本作の感想として適切なのかどうかはわからないが、ここまで完璧に作り込まれたディストピアを見せられて私が至った結論はこんな感じだ。読まれて不快になられた方には申し訳ない。

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