BLUE/ブルー_才能がないという惨い現実【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
青春もの
青春もの

(2021年 日本)
いくらボクシングが好きでも、向いていなければうまくはならないという、惨たらしい現実の一側面を描いた傑作ドラマ。うまくやれず、周囲から馬鹿にされて何かを諦めた経験を持つ人なら、心の髄にまで響いてくること間違いなしです。

感想

才能がないと悲惨

「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、そうじゃないこともあるよというのが本作の内容。

主人公の瓜田(松山ケンイチ)はボクシングジムの選手兼トレーナーで、ジムの所属選手の中でもキャリアはかなり長い方。毎日真面目にトレーニングをこなし、ボクシング理論にも精通しており、プロライセンスも持っています。

がしかし、試合やスパーリングとなると致命的に弱くて、ライセンスを持っていない後輩からもバカにされる始末。

必ずしも思いが成果に結びつくとは限らないし、向き不向きというものは厳然と存在する。そんな冷たい現実を本作は示しているのですが、よほど資質に恵まれた文武両道の方ではない限り、瓜田の気持ちって多少なりとも理解できるんじゃないでしょうか。

私なども、ドッジボールのチーム分けで全然指名されず、売れ残った末に「え~、こいつかよ~」とか言われながら仕方なく引き取られた小学校時代を思い出しました。何か湿っぽい話をしちゃってごめんなさいね。

みんなでドッジボールをするのは好きだったんですけど、あのチーム分けの儀式には本当に傷つきましたよ。

が、瓜田が特殊なのは、常人ならばプライドが傷ついたり、勝てないので面白くなくなってやめているであろうところ、こいつはボクシングが好きで堪らないので、周囲から冷たい視線を受けても愚直に取り組み続けるということです。

どれだけ馬鹿にされてもムキになったり怒ったりせず、意地悪なことを言われても「僕弱いですから」と言って笑顔でやり過ごす。なんという真っすぐな良い奴なんでしょうか。

しかし本当に気にしていないわけではなく、一人になった瞬間に死ぬほど落ち込み始めるので、勝ちたいという思いは他の選手並みにあることが分かります。

思いも練習量もあるのに、結果を出せない。こんな切ないことがありますか。

でも、向いていなければ何をやったって芽が出ないということが現実なのです。

勝てるボクサーが幸せとも限らない

そんな瓜田とは対照的なのが、同じジムに所属する後輩で友人の小川(東出昌大)。

はっきりとは言及されないものの、初期には瓜田からの指導を受けたものと思われるのですが、彼には適性があったので先輩を追い越して日本チャンピオンを狙える位置にまで来ており、ジム内での羨望と尊敬を受ける花形選手となっています。

加えて、瓜田の意中の人である千佳(木村文乃)とも付き合っている。

瓜田が持ちたくても持てないものを二つも持っているのですが、ならば小川が幸せなのかというと、そういうわけでもない。

チャンピオンを狙うとなれば自分よりも格上の強敵と戦い続けねばならないわけだし、ジムの栄光も背負っているので、無理をして頑張っている面もある。

さほど強くない相手とちょっと打ち合ってノックダウンという瓜田とは比較にならないほど小川の体にはダメージが蓄積されており、パンチドランカーの症状も示し始めています。

小川のボクシング生命は風前の灯火であるどころか、今後の日常生活にまで支障が出るかもしれない。

上を目指す者はそれほどの代償を支払っており、彼の姿を見ていると、瓜田のように低いレベルで勝負し続けるのも悪くはないかなと思ってしまいます。

楢崎=昔の瓜田

そして瓜田と小川に千佳も加えた三角関係が物語の重要な構成要素となっているのですが、本編では彼らの過去については直接言及されません。

それに代わって描かれるのが、新たにボクシングジムの門を叩く楢崎(柄本時生)の物語であり、彼の姿を見ることで、瓜田は昔どんな感じだったのかが分かるという構造になっています。

楢崎はゲームセンターのバイトで、中学生からもからかわれるほどの人畜無GUYなのですが、意中の女子に対して見栄を張りたくてボクシングジムに入門します。しかし彼女は自称モデルの男性バイトに心を奪われかけている。

これって瓜田達の関係性と似たようなものですよね。地味な男が女子にカッコつけたくてボクシングを始めるのだが、彼女の気持ちはイケメンになびいていると。

そんな事情があるので、入門したての楢崎は「真剣なトレーニングではなく、ボクシング風でいいんです」と言うんですが、そのうちどんどんボクシング熱に目覚めていきます。

恐らく瓜田もこんな感じだったんでしょう。

そして楢崎も現在2戦2敗なので、勝てないボクシング好きになりそうな気配ムンムンなのですよ。

なぜ瓜田はボクシングをやめたのか

そんなこんなで瓜田、小川、楢崎という3人のボクサーが描かれるのですが、瓜田は途中でボクシングを辞めてしまいます。

セリフの上では、次の試合に負けたら辞めるつもりでいたとの説明がなされるのですが、私としては「そうかぁ?」という印象でした。

なぜなら、試合前のトレーニングでボクシング人生の集大成にするような気迫や熱気が感じられず、周囲への手っ取り早い説明のために試合の負けを理由にしたんじゃなかろうかと感じたからです。

では瓜田が辞めた真の理由は何なのかというと、小川がタイトル戦に勝利したことではないでしょうか。

小川はチャンピオンになったら千佳と結婚すると宣言していましたが、ついにその時が来たので、瓜田も身を引かねばならないと感じたのでしょう。

千佳に対する瓜田の姿勢も切なかったんですよ。そもそもボクシングを始めたのは千佳の一言が原因だし、後に小川には千佳を取られてしまったものの、ボクシングを続けて小川との距離が近ければ、その彼女である千佳との接点も持ち続けられる。

瓜田がボクシングを続けるモチベーションの一つが、それだったんじゃないのかなと思います。

しかし二人が結婚するとなれば、千佳への思いをこれ以上引きずっているわけにもいかない。相手がゲス不倫でお馴染みの東出昌大であってもです。

そこで彼らとの関係を繋いでいたボクシングをきっぱりと辞めたのでしょう。

また、ボクシング理論に自信を持てなくなったことも原因かなと思います。

瓜田自身は強い選手ではないのですが、センスがない分、テクニックや理論で補ってきており、指導者としては優れていました。

現に「ボクシング風でいい」と言っていた楢崎に基礎をしっかりと習得させ、誰からも、本人からも期待されていなかったにも関わらず、プロテストにすんなり合格させてみせました。

選手としてはイケていないが、トレーナーとしてはイケる。

これが瓜田の最後のプライドだったのかもしれませんが、タイトル戦の小川は瓜田の指示通りに動かず勝利し、瓜田は自分の知識、テクニックでは上位クラスに通用しないことを思い知ります。

トレーナーとしての自分の限界も露呈したことから、もうボクシングには見切りを付けようと感じたのかもしれません。切ないですね。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント