フランシス・ハ_甘くてビターな傑作青春映画【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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青春もの
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(2012年アメリカ)
公開時、本作は全米で熱狂的に支持されたと言いますが、確かにこれは秀逸な青春ドラマだと思います。人生の一側面を的確に切り取った含蓄ある側面と、フランシスという誰からも支持されるキャラクターを愛を持って観察するという柔らかな側面が見事に融合しているし、これを90分未満でコンパクトに収めて見せた語り口の簡潔さも好印象です。

あらすじ

ダンサーを目指すフランシスは27歳になっても大学時代のルームメイトのソフィーと暮らし、定職にも就かずに夢を追っていた。しかしソフィーは結婚して部屋を出ていき家賃を払えなくなったことから、フランシスの流転が始まる。

感想

彼女が変わって作風も変わったバームバック

ノア・バームバックが私生活上のパートナーでもあるグレタ・ガーウィグとの共同脚本で作り上げた本作ですが、以前のパートナーだったジェニファー・ジェイソン・リーと作った『マーゴット・ウェディング』とは対照的な内容となっており、彼女が変わることで同一監督の作風がここまで変わるものかと驚かされました。以前よりバームバックは私情を作品に反映させるタイプのクリエイターだと思ってきましたが、本作でその認識は確信に変わりました。

以下、『マーゴット・ウェディング』との差異に注目しつつ、本作をレビューしたいと思います。

迷惑だが可愛げのあるフランシス

迷惑な気質というのはバームバック作品の主人公にほぼ共通する個性ですが、『マーゴット・ウェディング』の主人公・マーゴットが許せないレベルの迷惑さだとすると、本作の主人公・フランシスは許せるレベルの迷惑さです。

TPOをわきまえず思ったことをそのまま発言したり、懐具合を考えず思いつきで浪費したりと、他人の事情も自分の事情も顧みない奔放さがマイナスにはなっているものの、その曲がり方が可愛げという方向に向いているため、周囲も笑って済ませてくれます。この点が、言葉を発する度に周囲も観客も凍りつかせていたマーゴットと大きく異なります。

可愛げによって問題が覆い隠されている

ただし、その可愛げには彼女の本質的な問題を覆い隠すという副作用もあります。プロのダンサーになるという夢はほぼ叶わないことは分かっているのに、その現実を受け入れない。仕事にも結婚にも振り切れていない現状を継続すれば将来はないという瀬戸際の状態にあるのに、ほんの数年後の自分がどうなるのかという想像力が働いていない。

若さという免罪符の効力切れが迫る年齢にありながら、彼女の発想は幼いのです。しかし彼女には可愛げがあるから、親も友人も本人にそのことを指摘してあげない。だから彼女は大学入学時点からまるで成長していません。付き合いが続くのは大学時代の友人ばかりで、彼女の口から出てくるのは大学時代の思い出話ばかり。

同世代の女性が子供の話をしていても「妊娠なんて私には想像もつかないわ」と他人事のように話すし、親友が婚約するとどこか遠くへ行ってしまうような感覚を抱きます。

庶民には奔放という自由はない

そうやって何の考えもなしに生きているフランシスですが、親友ソフィーが結婚するとなって良き理解者を失うと、同じく夢追い人であるレヴとベンジーの家に転がり込みます。

自分と同じ境遇の若者、しかも年齢はちょっと上ということにフランシスは安堵を抱くのですが、レヴとベンジーの身の上を聞くと、どちらもボンボンで現在の金に困っていないし、今の生活を止めると決断しても、親のコネで次の道はどうとでもなるということが判明します。庶民の生まれで、何の保証もないままただ若さを浪費しているだけのフランシスとは立場が違ったのです。

ここもマーゴットとフランシスの相違点で、大きな家を娘にポンと与えられるほど裕福な両親の下に生まれ(名優ヴィック・モローの娘として生まれたJ・J・リーの生い立ちを反映?)、おまけに旦那の社会的ステータスも高くて金の心配をする必要のないマーゴットにはあらゆる選択の自由があったのに対して、強力な保護者のいないフランシスには奔放に振る舞うにも限度があります。

その直後、収支計画のない生活や浪費が祟って、彼女は金欠状態に陥ります。ここでフランシスの夢追いは強制終了。困った彼女はほぼ本能的に出身大学へと戻っていきますが、そこで彼女は自分が大学生達とも明確に異なる立場にいるという事実を突きつけられます。

痛みの末の成長

現役大学生たちの姿を見ると、もう自分は若くないという事実を嫌でも実感させられます。天真爛漫なフランシスの顔がどんどん曇っていき、序盤では街を全力疾走していた彼女が森の中をとぼとぼ歩く様には非常に重苦しいものがありました。

しかし今まで生きてきた土地や人間関係と強制的に切り離され、容赦なく現実を思い知らされたことで、彼女は27歳のあるべき姿に近づいていきます。それは彼女の持っていた良さの一部を殺したのかもしれないが、次のステップへ進むという大きな果実をもたらします。

独特なタイトルの持つ意味が明かされるクライマックスには爽やかな感動があり、ダメな奴が最後までダメなまま終わることの多いバームバック作品としては珍しく、主人公が前向きな成長を遂げます。

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