(2015年 ノルウェー)
不吉な前兆の積み重ねや、津波発生時のスペクタクルは素晴らしかったのですが、発生後の人命救助が見ていられないほど酷いものでした。主人公一家はゴキブリ並みの生命力で全員生き残り、その他の登場人物はことごとく死ぬという容赦のなさと不条理さ。終盤はほとんど笑って見るしかないほどの状態となります。

あらすじ
長年、ガイランゲルフィヨルドでの地質研究に携わってきた地質学者のクリスチャン(クリストファー・ジョーナー)は、都会の石油会社への転勤を控えてきた。引越し前日に異常な測定値を発見したクリスチャンは大規模なフィヨルド崩落が迫っていることを確信し、避難警報発令を訴える。
作品解説
監督は『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(2018年)のロアー・ウートハウグ
1973年生まれ。2002年にノルウェーの映画学校を卒業し、サスペンス映画『コールドプレイ』(2006年)で監督デビュー。本作で注目を浴びた後、アリシア・ヴィキャンデル主演の『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(2018年)でハリウッド進出しました。
スカンジナビア初のディザスター映画
スカンジナビア諸国は映画製作が比較的活発であり、世界的に活躍する映画人も多く輩出しているのですが、そうは言っても市場規模は限られているので、経済的事情から大作は製作しづらい傾向にあります。
そんな中でもノルウェー映画界は『トロール・ハンター』(2010年)や『コン・ティキ』(2012年)など大掛かりな見せ場が必要とされる題材を小規模なりに実現してきた実績を持っており、本作はそんなノルウェー映画界が放つスカンジナビア初のディザスター映画でした。
公開初週で14万枚をこえるチケットを売り上げ(ノルウェー歴代3位)、最終的にはノルウェー国民の6人に1人が観るほどの大ヒット作となりました。
感想
前半は『ジョーズ』(1975年)を踏襲
舞台となるのは観光資源で潤っている田舎町。そこで大災害の前兆に気付いた主人公と、「ヘタに騒ぐと観光業が打撃を受ける」と言って制止する周囲という構図は、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(1975年)を踏襲したものとなっています。
不吉な前兆を積み重ねながら「その日」が静かに迫ってくるというサスペンスフルな構成や、安全策を取ろうとする学者肌の主人公と、そうは言っても経済を死なせるわけにもいかないだろという同僚との間で発生する論争は、定番ながらもよく出来ています。
圧巻の津波場面
いよいよやって来た「その日」。山に設置された計測器は素人目にも分かるほどの異常値を示し、待ったなしの状況となります。
そこから起こる山の崩落と津波の発生は製作費600万ユーロという小規模作品とは思えないほどの堂々たるスペクタクルであり、不謹慎ながら目を楽しませてくれます。
加えて津波がすぐに人里に到達するのではなく、10分の時間的猶予があるという点が見せ場をさらに盛り上げます。10分間で安全圏である海抜80m地点にまで逃げ切れるのかというタイムリミットサスペンスとなり、なかなかハラハラさせてくれるのです。
監督は『ボーン・アイデンティティ』のような視点を意識してこれらの見せ場を作ったと言いますが、大災害を俯瞰で見せるローランド・エメリッヒとはまた違ったアプローチは新鮮でもありました。
ちょっとだけ文句を言うと、緊急事態に直面した登場人物達の反応がワンテンポ遅い点は地味に気になりましたが。
例えば、山に入った観測員達が無線で崩落寸前であることを聞かされるのですが、聞かされた瞬間に脱出しようとせず、一瞬「どうしようかねぇ」という顔をします。
また津波の発生が決定的となり、住民には10分の猶予しかないという逼迫した状況下で緊急警報のボタンを押せという命令が出るのですが、指示を受けた研究員が数秒戸惑います。
ほんの数秒の間ではあるのですが、これらの間が結構なストレスになりました。さっと動けんのか、お前らはと。
余計な人命救助
その後に描かれるのは津波襲来時、及び、引いた後の人命救助なのですが、「なんでそうなるの?」の連続で、ここで映画のクォリティは三流パニック映画のレベルにまで落ちます。
幼い娘を連れて高台ダッシュ中の主人公クリスチャンは車に挟まった近所のおばちゃんを発見。その場に居た別のご近所さんに娘を託しておばちゃんの救助を行います。
もう間に合わないと判断したおばちゃんとクリスチャンはその場の車に乗り込んで津波をやり過ごそうとするのですが、ついに襲来してきた津波の水圧で車のガラスは簡単に割れて車内に水が浸入。そして、流れてきた棒が刺さっておばちゃんは死にます。しかしクリスチャンのみほぼ無傷で生還。直後に託した娘との再会を果たします。

津波に飲まれたクリスチャンが生き残るという展開はさすがに無理があり過ぎな気がして、ここで一気に映画のリアリティが後退したように感じられました。
後述する息子ソンドレの救出劇とのバランスをとるために、ここで主人公が赤の他人を助けようとしたというアリバイを作っておきたかったのだろうとは思いますが、それにしても良くないくだりでしたね。
グダグダの息子救出劇
主人公の奥さんイドゥンはホテル従業員。津波へのカウントダウンが始まると宿泊客を叩き起こし、同時にバスを手配して、短時間で客を高台へ逃がすための動きを開始します。しかし、いざバスを発車させる段階になると、ホテルに宿泊させていたはずの息子ソンドレの姿がない。
イドゥンはバスを先に行かせて自分は息子を探すためにホテルに残ることにするのですが、マリアという宿泊客がなぜか「私も一緒に息子さんを探す!」と言ってバスから降り、その夫フィリップも仕方なくその動きに追従します。
特段イドゥンやソンドレと親しくしていた描写がないにも関わらず、マリアがその身を犠牲にしてまで赤の他人の息子の捜索に参加した理由がよく分からないし、作業用通路で音楽を聴きながらスケボーをしていたので緊急事態に気付かなかったというソンドレのアホさ加減も見ていて辛かったです。こんなバカを助けるために3人もの大人が避難を諦めたのかと。
発見されたソンドレを含む4人はホテル内のシェルターに逃げ込もうとするのですが、マリアの動きが思いのほか遅く、シェルターを目前にして津波がやってきます。水に流されていくマリア、マリアを助けようとする夫フィリップ、「このままでは全員死ぬ」と言ってシェルターの扉を閉めようとするイドゥン(笑)。
どうしようもない場面だったとは言え、人情から息子の捜索に協力してくれたマリアをアッサリ見捨てることにするイドゥンの非情さが光っていました。我が子さえ助かれば良かったのかと。
その後、マリアを失ったフィリップは自暴自棄になって悪態をつき始めるのですが、その内容が「このままじゃ俺は死んでしまう」の一点のみで、そもそも助けに来なきゃよかったとか、バカなことをしていたソンドレへの批判でもないので、言ってることがズレているというか、何というか。
そうこうしているうちにシェルターの水位も上がってきて、フィリップはパニクり出します。床に足も届かないほどの水位になってくるとフィリップはイドゥンやソンドレにしがみつこうとしてくるので、このままでは全滅と判断したイドゥンはフィリップを絞め殺します。
って、なんじゃこの展開(笑)
主人公家族のみ異様な生命力
その後、父クリスチャンがホテルに到着し、シェルターに閉じ込められたイドゥンとソンドレの救助を開始します。
しかしここで足を引っ張るのもソンドレ。通路を泳いで逃げる最中に酸欠状態となってもがき始めます。体力勝負の一幕において中年の両親が持ち堪えているのに、なんで高校生のお前が足を引っ張るんだよとイライラさせられました。
ソンドレを助けた父クリスチャンは心肺停止状態となるのですが、懸命な蘇生術によって息を吹き返します。
これだけ人が死にまくってる映画なのに、主人公家族だけが異様な生命力を持っている点は、もはやギャグの領域に達していました。親父くらいは殺しておくくらいで丁度よかったんじゃないかと。
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