(2018年 アメリカ)
現在の犯罪捜査と過去の潜入捜査が並行して描かれるうちに、事の真相が浮かび上がってくるというクライムドラマで、光るものは確かにある。ただし複雑な語り口ゆえにドラマにエモーションが伴わず、オチ以外に面白みは感じなかった。
感想
ニコール・キッドマンはくたびれた捜査官
運河で射殺体が発見され、ベテラン刑事エリン(ニコール・キッドマン)の回想と共に、この死体は一体誰なのかが明らかにされるというのがザックリとしたあらすじ。
ニコール・キッドマンはブスに見える特殊メイクを施しており、美人女優がわざわざブスになりきって嫌味ったらしいのと思ったが、映画を見ていくとこの特殊メイクにも必然性があることが分かる。
17年前の潜入捜査と現在のエリンの犯罪捜査が交互に映し出される構成となっており、どちらもニコール・キッドマンが演じていることから、年代差を出すために現在パートでは特殊メイクを施しているのである。
『ベンジャミン・バトン』のブラッド・ピットみたいなものだと考えていただきたい。
17年前によほど衝撃的なことがあったのか、現在のエリンはよれよれにくたびれ切っている。職場での敬意を受けられず、家庭生活は崩壊し、思春期の娘からは蔑まれている。
娘は高校にもロクに通わず夜な夜な彼氏と遊び歩いているのでエリンは注意に行くのだが、二人とも言うことなんて聞きやしない。
ただしここでのエリンの対応が出鱈目で、痛ましさよりも阿呆らしさを感じてしまったのがマイナスだったが。
高校生の娘をバーなどに連れ歩いている成人の彼氏なんていくらでもしょっ引く口実はあるし、エリンは刑事なのだからそれをやる力も持っている。実力行使をちらつかせて彼氏を遠ざけてしまえばいいのに、喫茶店なんぞで説得を試みようとするもんだから余計に舐められる。
挙句には彼氏に金を渡して実家に帰ってもらおうとするのだが、この手の輩は甘い態度を見せると余計につけあがるので、うまいやり方とは思えない。
家庭問題の処理方法があまりに下手くそすぎて、エリンのドラマには感情移入できなかった。
同様に、現在の捜査プロセスにも面白みは感じなかった。
エリンはかつて犯罪組織に所属していた人物達に再接触を図るのだが、17年も経つと重病を患っていたり、過去の行為を反省して慈善活動に精を出していたりと、彼らもいろんな道を歩んでいる。
そうした年月の重みを感じさせるドラマになっていれば良かったんだが、エリンとかつての捜査対象の間でのコミュニケーションは全く盛り上がらないので拍子抜けした。
過去の潜入捜査はスリルに欠ける
17年前に何があったのかと言うと、新米時代のエリンはFBI捜査官クリス(セバスチャン・スタン)とカップルという体で、犯罪組織に潜入していた。
そのリーダーのサイラス(トビー・ケベル)という男は、子分をけしかけてロシアン・ルーレットをさせるなど人命軽視のアブナイ奴として描かれているのだが、設定ほど怖くは感じなかったので全体的に演出力不足である。
そして、この犯罪組織がどういう罪状でFBIから目を付けられるに至ったのか、潜入によって何を暴こうとしているのかの説明がないので、エリンとクリスの捜査活動にも緊張感がなかった。
犯罪者たちの仲間になって、ただダラダラとたまり場で寝転んだりヤクを決めたりしているだけにしか見えないのである。
最後まで見れば、エリンは犯罪組織での生活が楽しくなってしまっていたこと、偽装のはずだったクリスとの関係にも本気になっていたことが分かるのだが、事の真相が分かるまで面白みを感じないというのが、本作の欠点ではなかろうか。
結末には驚いた ※ネタバレあり
最後の最後に分かるのは、17年前のエリンは身も心もアウトローになっており、サイラスが強盗した金を奪おうと画策していたという黒歴史である。
幸か不幸かその計画は失敗し、エリンには潜入捜査を成功させたという武勲だけが残ったので捜査官としての地位に戻ることができたのだが、彼女にしょっ引かれた犯罪者たちは事の真相を知っているので、17年後のエリンに対して辛く当たっていたのである。
かつ、17年前のエリンの無謀な計画によって相棒であり恋人だったクリスが死亡しており、そのことがエリンの強烈なマイナス思考に繋がっていることも分かった。
なのだが、繰り返し言うが事の真相が分かるまでは面白みを感じないので、本編が退屈であることには違いないが。
そして冒頭の死体はサイラスで、あの死体がきっかけで現在の捜査が始まったのかと思いきや、実は事が片付いた結果だったという叙述トリックには驚いたのだが、これもまた全体の不出来を補うレベルではなかった。
最後の最後でエリンが死を選んだことにも唐突感があったし、複雑な語り口とドラマがうまく噛み合っていないように感じた。
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