インソムニア(2002年)_倦怠感・疲労感の描写が凄い【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス

(2002年 アメリカ)
クリストファー・ノーランの初メジャー作品は無難な仕上がりでした。当時パッと出のインディーズ監督だったノーランが大きな予算とビッグネームのスターに対処する能力を示し、映画として綺麗にまとめていることは評価できるのですが、あまりに正攻法すぎて驚きに欠けている点は残念でした。

あらすじ

アラスカの田舎町で少女の全裸遺体が発見された。LA市警の花形刑事ドーマー(アル・パチーノ)と、その相棒エッカートが捜査の応援に駆り出されるが、白夜のアラスカでドーマーは深刻な不眠症に陥り、捜査現場でエッカートを誤射して死なせるという事故を起こす。咄嗟の判断でドーマーはエッカートの死を犯人による銃撃によるものとして偽装するが、真犯人(ロビン・ウィリアムズ)にその一部始終を見られていた。

スタッフ・キャスト

監督は『ダークナイト』のクリストファー・ノーラン

1970年ロンドン出身。今や巨匠中の巨匠であり、フィルム撮影へのこだわりや携帯電話嫌いという変わった面でも知られる大監督。

映画学校には入らず独学で映画製作を学び、製作費6000ドルの自主製作映画『フォロウィング』(1998年)と、限りなく自主映画に近かった低予算映画『メメント』(2000年)で注目されました。本作製作時点ではサスペンス映画の監督として目されていました。

本作でワーナーと仕事をしたことがきっかけで、ダーレン・アロノフスキーが下りたバットマンの企画を引き継いで『バットマン ビギンズ』(2005年)を完成させ、その続編『ダークナイト』(2008年)が批評面でも興行面でも歴史的な大成功を収めました。

以降、『インセプション』(2010年)、『インターステラー』(2014年)、『ダンケルク』(2017年)と撮る映画すべてが話題となり、世界で最も新作を待ち望まれている監督となっています。

本作では監督としてのみクレジットされていますが、最終稿はノーランが執筆したもののようです。

製作はスティーヴン・ソダーバーグとジョージ・クルーニー

ノルウェー映画『インソムニア』(1997年)のリメイク企画を製作したのはスティーヴン・ソダーバーグとジョージ・クルーニーというハリウッドインテリ映画の顔役二人です。

二人は『アウト・オブ・サイト』(1998年)の監督と主演という立場で出会い、よほど気が合ったのか『オーシャンズ』シリーズでも組み、ジョージ・クルーニーの監督デビュー作『コンフェッション』(2002年)や『グッドナイト&グッドラック』(2005年)はソダーバーグが製作を務めています。

本作の監督を探していたソダーバーグが『メメント』(2000年)を見てクリストファー・ノーランを抜擢したという経緯があります。

3人のアカデミー賞俳優共演

本作には3人ものアカデミー賞俳優が出演しています。実に豪華ですね。

まずは主演のアル・パチーノ。言わずと知れた名優であり、アカデミー賞にノミネートされること実に9回、何度も涙を飲んだ末に『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1993年)で念願のアカデミー主演男優賞を受賞しました。

『セント・オブ・ウーマン』は良い映画でしたが、『ゴッドファーザー』(1973年)や『狼たちの午後』(1975年)がノミネート止まり、『スカーフェイス』(1983年)はノミネートすらされず、彼の代表作とは言い難い『セント・オブ・ウーマン』で受賞というのはちょっと微妙ですね。

次にロビン・ウィリアムズ。コメディ俳優として人気でしたが普通の演技でも評価が高く、アカデミー賞主演男優賞に3度ノミネートされた実績があり、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1998年)でアカデミー助演男優賞を受賞しました。

最後にヒラリー・スワンク。キャリア初期には出演作が軒並み興行的不振で苦労したものの、25歳の時に『ボーイズ・ドント・クライ』(1999年)でアカデミー主演女優賞受賞。また本作後には『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)で二度目のアカデミー主演女優賞を受賞しました。

感想

倦怠感・疲労感の描写が素晴らしい

原題及び邦題のインソムニアとは不眠症の意味。

作品は、もともとストレスで不眠症気味だったLA市警殺人課のドーマー刑事(アル・パチーノ)が、少女殺人事件の捜査へのヘルプでアラスカ州に出張で訪れたところ、白夜でまったく眠れなくなりあらゆる判断ミスを犯すという内容。

さすがは稀代の演技派俳優と呼ばれるだけあってアル・パチーノの不眠症は素晴らしく、次第に疲れとストレスが蓄積されていく様、目を大きく見開いているが焦点があっておらず、心ここにあらずのような表情は実にリアルでした。

終盤なんて、今にも倒れるんじゃないかというほどの倦怠感を表現しており、見ているこちらがくたびれてくるほどでした。

また、やや白く眩しい画面で白夜のうっとうしい明るさを表現した撮影も素晴らしく、精神をやられそうな特殊環境を観客に疑似体験させることに成功しています。

そして真っ白な舞台で犯罪ノワールを描くという矛盾した構図も違和感なくモノにしており、クリストファー・ノーランはこの企画でやるべきことをきっちりと押さえていたと言えます。基本的にはよく出来た映画なのです。

意外性の連続なのに驚きが少ない

物語は結構凄いことになっています。

犯人を追跡中にドーマー刑事は相棒を誤射して死なせてしまいます。状況から考えて正直に誤射と言えば済んだ話なのですが、LAで受けていた内部調査のストレスや白夜の中での不眠症の影響からその時のドーマーは正常な判断能力を失っており、咄嗟に犯人による発砲として偽装します。

一度嘘をついてしまったが最後、嘘で塗り固める必要が出てきたドーマーは偽装工作を重ねていくのですが、そこに「お前が相棒を撃ったところを見たぜ」という犯人ウォルター・フィンチ(ロビン・ウィリアムズ)が現れ、お互いの利益のため一緒に偽装工作をしようと持ち掛けられます。

殺人事件の犯人が自分を追う刑事に接触してきて、両者が共犯関係になる。なかなか刺激的なあらすじなのですが、ノーランの演出は生真面目でこうした美味しい展開を観客に興奮を持って伝えられておらず、それどころか予定調和な雰囲気までが漂っています。

思いがけない展開の連続に驚き、この物語がどこに着地するのかが分からないというサスペンス映画特有の感覚は、残念ながら本作には宿っていませんでした。

主人公の良心の呵責が中途半端 ※ネタバレあり

フィンチが持ちかけてきたのは、被害者少女のボーイフレンドに殺人と相棒銃撃の罪を着せるというもので、地元警察の捜査能力や証拠の完全性を考えれば、その線で十分通用すると思えるレベルのものでした。

加えて、そのボーイフレンドは被害者少女に暴力を振るい、捜査中のドーマーに対しても無礼な態度をとってきたので、罰してやって当然とも言える若者でした。

フィンチの誘いに乗れば自分自身のキャリアは守られ、何事もなくLAに帰ることができる。ドーマーはこの誘いに乗ろうとします。

ただしそれは自己保身のためではなく、ドーマーには守らねばならないものがあったからです。

ドーマーがLAで内部調査を受けていたのはある凄惨な事件での証拠ねつ造を疑われたためであり、実際にドーマーは証拠をねつ造していました。

ドーマーはプロの勘でその容疑者が真犯人であることを確信しており、刑務所にぶちこんでおかないと危険な人間であると考えていました。そこで法廷で足らないピースをねつ造により補ったというわけです。

もしここで証拠ねつ造が発覚すればこの危険人物が無罪放免となり、野に放たれてしまう。だから自分が絶対にコケてはならない、今回の件も隠し通さねばならないという使命を感じていました。

一方にある大儀を守るために別の不正に手を染め、悪党とは言え殺人は犯していない少年を殺人犯に仕立て上げるのか?

ドーマーは善悪二元論では割り切れない難しい判断を迫られ、最後は職業人としての良心に任せようとするのですが、この心の葛藤が十分に描けていないので、観客に対して「あなたならどうしますか?」と問いかけるような内容になっていません。

そのために、結末がいかにもハリウッドらしいありきたりな印象となってしまった点は残念でした。

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