(2020年 アメリカ)
Amazonプライムに上がっていたのを何気なく見たが、ビックリするほど面白かった。初老カップルのロードムービーに始まり、中盤ではサイコホラーに転換し、最後は西部劇らしい決闘に雪崩れ込む。素晴らしく充実した作品である。
感想
ケビン・コスナーは良い枯れ方
舞台は1963年のモンタナ州。ジョージ(ケビン・コスナー)とマーガレット(ダイアン・レイン)の老夫婦は、息子夫婦と孫と共に平和な田舎暮らしを送っているのだが、ある日、落馬事故で息子を亡くす。
その後、息子の嫁ローナ(ケイリー・カーター)はドニー(ウィル・ブリテン)という男と再婚したのだが、ある日マーガレットは、ドニーが妻と孫に暴力をふるっているのを目撃してしまう。
心配なので若夫婦の家にちょいちょい顔を出そうと思っていた矢先、何の連絡もなくドニーとローナは引っ越してしまったものだから余計にマーガレットの不安は募り、ついには孫を引き取るために若夫婦を探し出そうと言い出す。
これが本作のざっくりとしたあらすじなのだが、老夫婦を演じるケビン・コスナーとダイアン・レインがとても素晴らしい。
ふたりは『マン・オブ・スティール』(2012年)でもスーパーマンの育ての親を演じたのだが、かつてアイドル的な人気を誇った両者が、本作では実に良い枯れ方をしている。
特にケビン・コスナーは理想的だ。
トム・クルーズやブラッド・ピットのような実年齢を感じさせない若々しさもいいが、年相応の貫禄を出しつつも、かつての二枚目スターの面影もバッチリ残しているコスナーの塩梅は実に良い。
顔はしわしわだし腹も出ているが、それでもカッコいいのだから不思議なものである。
それに付随した枯れ演技も良い。かつてはスター演技で鼻に付くところもあったコスナーだが、本作ではほとんど主張せず、しかし必要な時に俺はやるぜというアメリカの寡黙な男像を見事に体現している。
コスナー扮するジョージは、孫を連れ戻そうとする妻マーガレットの考えに当初は賛同していない。
孫はとっくに我々の手を離れたのだから、おせっかいを焼いても誰のためにもならんだろというのが彼の考え方なのである。
なのだが、マーガレットが思いのほか本気であり、一人でも行くと言い出したので、ジョージも彼女に同行することにする。
それが妻のためとか家族のためとかいう恩着せかましい感じではなく、夫婦は一体なのだから妻が行くなら俺も行って当然というナチュラルな姿勢なので、また味がある。
この夫婦の歩んできた人生について深くは語られないのだが、現在の挙動を見ているだけで多くの苦楽を共にしてきたんだろうなということが見えてくる。何という素晴らしい演技だろうか。
そして二人は若夫婦の居所を探し始めるのだが、隣の州への移動ということもあって束の間の旅行気分を味わっている感じも良い。
マーガレットが隙を見てジョージと腕を組む場面では、何て素敵な老夫婦なんだろうと思った。
非道な基地外一家
二人は、ウィーボーイという変わった姓を頼りにして若夫婦を探すのだが、行く先々で「ウィーボーイさんねぇ…」という反応が返ってきて、どうやら地元では悪名高い一家であることが分かってくる。
で、二人はついにウィーボーイ家に辿り着き、一家の晩餐に招かれるのだが、ここで映画は『悪魔のいけにえ』(1974年)みたいな雰囲気になって、それまでののどかな空気が一変する。
ウィーボーイの連中は一応もてなしているつもりのようなのだが、初対面の相手に対するとは思えない砕けすぎた態度で、「この人たちはヤバいな」ということが一瞬で伝わってくる。
『悪魔のいけにえ』でも思ったが、言葉こそ通じるが意思疎通を図ることはほぼ不可能という相手には、全く言葉の通じないモンスター以上の恐怖を感じる。
そしてウィーボーイの家長であるブランチ(レスリー・マンヴィル)が、聞かれてもいないのにわが家の歴史について語り始めるのだが、田舎のヤンキーのワル自慢みたいな感じで共感度ゼロ。
そんな話をヤンチャなガキではなくおばあさんが得意げにしているのだから、この一家は完全におかしいということが伝わってくる。
元ボディガードであり、ワイアットアープであるケビン・コスナーはひそかに身構えるのだが、あちらには男が4人もいるので分が悪い。なるべく相手を刺激せずに帰ろうとする。
だが相手はヤンキー気質なので、こちらが怯んでいると分かれば余計にズケズケと踏み込んでくる。刻一刻と状況が悪化していく感じがとにかく怖かった。
何とか恐怖の晩餐を抜け出したジョージ&マーガレットは、こんなところに大事な孫を置いておけないと確信し、嫁と孫を連れ出すことにするのだった。
情け無用のバイオレンス ※ネタバレあり
なんだが、基地外の割に頭だけはよく回るブランチは、ジョージ&マーガレットの計画を察知してしまう。
ふたりのモーテルに乗り込んできたウィーボーイ一家は、ジョージに容赦のない暴行を加える。
コスナーがいったんえらい目に遭わされるのは『リベンジ』(1990年)以来のお家芸だが、初老が暴力の被害者になるのは視覚的にかなりキツイものがあった。
病院に運ばれたジョージは地元保安官に事情を伝えるのだが、「あちらにある親権をあんた方が無理矢理奪おうとしたんでしょ」とけんもほろろの対応。
1963年という年代設定にしたのは、家の中のことに他人が介入できないという時代背景が必要だったのねと、ここで合点がいった。
かくしてジョージ&マーガレットも法からの逸脱を余儀なくされ、じぃじ&ばぁば vs 基地外一家の死闘の火ぶたが切って落とされるのである。
そうとなれば元保安官のジョージも容赦はしない。ウィーボーイ家で繰り広げられる死闘には手に汗握るものがあった。
老夫婦のロードムービーに始まって、サイコホラーに転換し、西部劇のような決闘に終わる。実に充実した作品だった。
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