(2021年 アメリカ)
緊急通報ダイヤルのオペレーターを主人公にしたスリラーで、ある一場面を除いてはジェイク・ギレンホールの演技と電話でのやりとりのみで進行していきます。ギレンホールの暑苦しい演技(褒めてます)と『TRUE DETECTIVE』のニック・ピゾラットの周到な脚本によって終始高い緊張感が維持されており、最後のオチのつけ方も良く、小品ながら見ごたえがありました。
作品解説
デンマーク映画のリメイク
本作は2018年のデンマーク映画『THE GUILTY/ギルティ』のハリウッドリメイク。
ジェイク・ギレンホールが製作と主演を兼任し、監督にはギレンホールと『サウスポー』(2015年)で組み、また『トレーニング・デイ』(2001年)や『イコライザー』(2014年)など犯罪映画を得意とするアントワン・フークアが就任。
アントワン・フークア監督作品の常連俳優であるイーサン・ホークが声のみの出演をしています。
またジェイク・ギレンホールの姉マギーの夫であるピーター・サースガードも、声のみではありますが、作品中の重要人物を演じています。
脚色は、大人気トレビドラマ『TRUE DETECTIVE』シリーズのニック・ピゾラットが行いました。
製作は世界的なコロナ大流行の中で行われ、僅か11日間で撮影されました。
感想
タイトで面白いスリラー
警察の緊急ダイヤルを舞台にしたスリラー。
冒頭と、劇中のある一場面を除いてすべて緊急通報指令室のみが舞台であり、『フォーン・ブース』(2002年)や『ザ・コール 緊急通報指令室』(2013年)といった作品と同様に、主人公と通報者の通話を中心に物語は進行していきます。
本作の主人公ジョー(ジェイク・ギレンホール)は緊急ダイヤルのオペレーターなのですが、本職は警官で、何らかの大きな不祥事を起こしたことから現場を外され、緊急ダイヤルに回されたようです。
そんな事情があるのでジョーは超やる気がないし、一方でかかってくる通報もドラッグをやっておかしくなったとか、街で娼婦を拾ってトラブルに巻き込まれたとか、ロクでもない案件ばかりなので、ジョーは「そんなもん自分で何とかしろ」とか「かけてくんな」とか、まぁまぁの勢いで食って掛かっていきます。
そういえば学生時代に一か月ほどアメリカをブラブラと旅したことがあるのですが、接客業の人が滅茶苦茶不愛想とか、バスの運転手が客にマジギレしてるのとかを目撃したので、本作のジョーの態度にもアメリカンな感じがしました。サービスの提供者側が一方的に折れると思うなよという。
そんな中、誘拐された女性からガチの通報がかかってきて、彼女を助けようとジョーが四苦八苦することが本編となります。
序盤で大規模な山火事が発生中とあって、この設定に一体何の意味があるのだろうかと思っていたのですが、ようやくここで山火事の意味も理解できました。
火災対応のために警察のリソースも不足しており、思うように緊急動員できないことの理由となっているわけです。
女性を乗せたバンは今まさに移動中だが、ハイウェイパトロールはその追跡に十分な車両の確保ができず、道路封鎖等の措置もとれない。また容疑者と思われる男性の身元も確認したが、その住所に警官は送れないと言われる。
「人命がかかってるんだからちゃんと対応しろよ!」とジョーが至極真っ当なキレ方をしても、現場窓口のおばちゃんからは「今夜はどれだけの通報が入ってると思ってるの!」と逆ギレされる。
このように、こちらがぎりぎりのところで女性を救おうとしているのに、思うように現場が動いてくれないということが観客にとっても大きなストレスとなります。
そして観客がストレスを感じるということは、スリラーとしての出来が良いということでもあります。ジョーと共にハラハラドキドキさせられる見事なスリラーとして成立しています。
また、ジェイク・ギレンホールの演技にも説得力がありました。ちょっと病んだところのある正義漢ジョーを見事に体現できており、目的は正しいのだが過剰なキレ方をして横の連携をぶち壊しにしそうなところなど、なかなかの迫真性がありました。
ギルティ(有罪)とは ※ネタバレあり
事件の真相とは、被害者と思われた女性こそが加害者であり、誘拐を疑われた男性は、事態収拾のため女性を精神病院に送り返しているところでした。
ジョーは被害者と加害者を取り違えて解釈しており、そのために事態を余計に混乱させていたということが分かります。結果から振り返ると、正義感を暴走させてしまったというわけです。
これは警官時代の不祥事にもつながっていきます。
ジョーは職務中に19歳の子供を射殺したのですが、その時には彼なりの正義があったし、今の今まで「ルールからの逸脱はあったにせよ、正義を為すための処刑だったのだから間違ってはいない」と信じていました。
しかし本件で、正義を為すためであっても判断ミスをする場合があり、正義は免罪符ではないということを思い知ります。
これが「ギルティ」(有罪)というタイトルにつながっていくわけです。
最後の最後でタイトルの意味が分かるという構成や、その意味の奥深さなど、こちらもよくできていました。
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