ドント・ルック・アップ_ブラックな笑いと鋭い批評性【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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終末
終末

(2021年 アメリカ)
世の中は馬鹿ばっかりだよねということを、鋭い批評性とユーモアで描いたコメディ。2020年代の社会情勢を予見した前半部分はかなりの面白さであり、アダム・マッケイ監督の知性には脱帽なのでした。後半は悪ノリしすぎでしたけどね。

作品解説

オスカー俳優大挙出演

本作で目を引くのは、何といっても俳優の豪華さ。

  • レオナルド・ディカプリオ ★
  • ジェニファー・ローレンス ★
  • メリル・ストリープ ★
  • ケイト・ブランシェット ★
  • マーク・ライアンス ★
  • ティモシー・シャラメ ▲
  • ジョナ・ヒル ▲
  • ロン・パールマン

あと、ノークレジットですがクリス・エヴァンスも出演しています。どの場面にもスターが複数人映っている。この密度は凄かったですね。

そして★印をつけたのがアカデミー賞受賞経験者、▲印をつけたのがアカデミー賞ノミネート経験者なのですが、これだけの人数のオスカー経験者が揃うと圧巻ですね。

Netflix史上最高の再生時間

もともと本作はパラマウント配給で劇場公開される予定だったのですが、2020年2月にNetflixが権利を買い取り、ストリーミングでの公開となりました。

2021年12月24日より配信を開始。2021/12/27~2022/1/2の視聴時間が1億5229万時間に及び、一週間の再生時間としてはNetflixの歴代最長を記録しました。

感想

パニック映画へのアンチテーゼ

ズラっと揃った豪華キャストを見て、まず思い出したのが70年代のパニック映画でした。

パニック映画では危機の予兆を知らされると緊張感が走り、信頼感のあるリーダーが現場を取り仕切り、パニックを避けるよう情報の出し方にも細心の注意を払うことが定石でした。

一方本作では、地球に向けて彗星が一直線に突き進んできているとして科学者が警告しても、誰からも真剣に扱われないというパニック映画とは正反対の反応が起こります。

ただしこれが奇をてらっただけのパロディではなく、現実は案外こんなものかもねと思わせる辺りが、アダム・マッケイ監督の真骨頂です。

マッケイは、『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(2010年)で刑事アクションという王道ジャンルのパロディを行い、またサブプライム危機を描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2016年)、アフガニスタンとイラクへの侵攻の真相を解き明かした映画『バイス』(2019年)で、巧妙な社会風刺をしてきました。

パロディと社会風刺、その二つの手腕が合わさったのが本作であり、ブラックな笑いと鋭い批評性に満ちています。

大学院生のケイト(ジェニファー・ローレンス)が彗星を発見。天文学者のミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)がその軌道を計算すると、何と地球直撃コースにあることが分かり、慌ててNASAに連絡します。

しかしNASAの責任者がなぜか天体物理学のことなんて分からない専門外の学者で、私には分からんからということでミンディ博士とケイトは直接ホワイトハウスに説明に上がることになります。

オルレアン大統領(メリル・ストリープ)は、二人がミシガン州立大から来たと知るとMITやハーバードじゃなきゃねぇなんて言って話を信用しないし、中間選挙で忙しいからそんなことに対応してらんないと言ってくるし、危機感ゼロ。

『ディープ・インパクト』(1998年)のモーガン・フリーマン大統領や、『日本沈没』(1973年)の丹波哲郎総理の爪の垢を煎じて飲ませたくなりました。

アジェンダセッティング

じゃあなぜ大統領がこんな態度をとったのと言うと、政治家としてそこに注力する意義を見出せなかったから。そして、そこには社会におけるアジェンダセッティングというものが大きく関与しています。

アジェンダセッティングとはメディア論の用語で、ある事柄の重要性を決定づけるのは、報道での言及量や頻度であるというものです。

報道が設定したアジェンダが広く認知されることで注目と関心を集め、適切な社会的論議を起こすという効果がある反面、報道によるミスリードや、注目されなかったアジェンダが無視されるという問題も起こります。

アジェンダセッティングとは、一義的には一般大衆とマスコミとの間に存在する機能なのですが、そこに政治家を絡めると↓のような三段論法が成立します。

  • 一般大衆はマスコミが大きく報じることを重要なニュースであると捉えがちである。
  • 一般大衆からの支持が欲しい政治家は、大衆が重視していることに優先して取り組もうとする。
  • マスコミが大きく報じることが、政治課題となる。

よって、オルレアン大統領はマスコミが問題として認識していない彗星の話よりも、ニュースで持ち切りとなっている中間選挙の方が大事だったのです。

しかし、その後に風向きが変わります。

オルレアン政権で政治スキャンダルが発覚してしまい、そこから大衆の目をそらしたい大統領は、マスコミが隕石の件を大々的に報じるよう、煽りに煽ることに決めたのです。

マスコミが「隕石、隕石」と騒ぎ出すと、今度はみんな隕石のことに夢中になって、ちょっと前まで大騒ぎだった政治スキャンダルの件は、あたかも存在しなかったかのようになる。

阿呆ですよねぇ。でも、現代社会はこういうことの繰り返しなのです。日本でもいろいろと思い当たるフシがありますね。

御用学者の投入

話をちょっと戻します。

大統領がまだ中間選挙の方に夢中だった頃、ホワイトハウスで相手にされなかったミンディ博士とケイトはテレビで直接危機を訴えることにして、アメリカ版『スッキリ』みたいな情報番組に出演します。

しかしそこの司会者(ケイト・ブランシェット)が阿呆丸出しで、二人が血相変えて地球の危機を訴えても「まぁそれはそれとして」と言って、歌手とラッパーの破局の話を優先しようとします。

そんなわけで二人の初出演は散々だったのですが、とりあえず、ヒステリックに騒いでしまったケイトはテレビ向きではなく、地味だけど顔立ちは整っていて人柄も温厚そうなミンディ博士はテレビ向きと判断されました。

で、オルレアン政権が隕石推しで行くと決めた後には、テレビ向きだったミンディ博士を御用学者としてバンバン出していくというメディア戦略を取ります。

こういう感じの人たちも、現実世界で何人か思い当たりますね。

ミンディ博士は依然として良識的なのですが、それでも有名人としてチヤホヤされたり、今までテレビで見てきた人たちと一緒に仕事をしたり、SNSのフォロワー数が物凄いことになっていく中で、気持ち良くはなっていきます。

それで政府にうまく利用されたり、マスコミの話題作りに貢献したりするので、もはや学者ではなく広報係になります。この辺りもさもありなんでした。

本作の製作が決定したのが2019年11月で、当然ながら脚本はそれ以前に書かれているのですが、よくぞこれだけ2020年代の状況を正確に予見できたものです。感心します。

中盤以降はイマイチでしたな

と、パニックが始まるまでの経過は面白かったのですが、マーク・ライランス扮する大富豪が出てきてからは微妙でしたね。

アメリカ政府は隕石の軌道を変えるために核弾頭搭載のロケットを打ち上げるのですが、大富豪が「あの隕石はレアメタルの塊だから、問題のない形にして地球に落とすべき」と主張し、爆破計画はキャンセル。

ここから物語は荒唐無稽になっていき、マーク・ライランスとメリル・ストリープの悪ノリ芝居も始まって、取り留めもないことになっていきます。

中盤以降は「なるほど!」を膝を打つような場面も、不謹慎だけど笑えるような場面もなく、ほぼ蛇足でしたね。

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