[2013年オーストラリア]
8点/10点満点
■オーストラリア産アポカリプト映画の秀作
他国と地続きではないオーストラリアには終局が遅れてやって来るという『渚にて』に通じるSFドラマ。
「大西洋に落ちた巨大隕石の衝撃波は12時間後にオーストラリアに到達します。確実に全滅します」というロクでもないニュース速報を朝一で聞かされた人々は最後の一日をどう生きるのかという選択を迫られるのですが、死への恐怖を忘れようとあたり構わずおっぱじめる者、社会に抑圧されて今までできなかったこと(殺人・強姦・未成年者誘拐)をやる者、終わりの刻を待つというストレスに耐えられずに一足早く自殺する者と、街は終局を待たずして地獄と化します。この混沌をとらえた冒頭は素晴らしい出来であり、『マッドマックス』から続くオーストラリア映画界のアポカリプト魂が炸裂しています。
■舞台は変化球だが、物語は王道
主人公はとりあえず彼女と一発やるものの、やはり死への恐怖は拭えません。他方で彼女は至って冷静で、「実は子供ができたの。男の子と女の子、どっちだと思う?」などと明日のない今日という日にするような内容かという話を始めますが、この切羽詰まった時にこんな話には付き合ってはいられないと、主人公は二股かけているもう一人の彼女がいる乱痴気パーティに参加することに。
主人公がチャラ男で、しかも人類最後の日に彼女を置いて一人で出掛けるという点で観客の共感はかなり下がるのですが、このチャラ男がいろいろあって真人間になって彼女の元に戻るまでが本作の骨子となります。この通り骨子の部分は王道をいく物語なのですが、舞台の特殊性と、イカれた人間達の中でサバイブするという変化球が程よく効いており、短い上映時間もあってなかなか楽しめる作品に仕上がっています。
■泣かせるドラマ
また、感動のツボもうまく押さえています。『ディープ・インパクト』や『アルマゲドン』など、この手の映画では首根っこ引っ掴まれて「泣け!泣け!」と言われているようなドラマが多く、そのあまりの露骨さに辟易とさせられるのですが、本作にはそのような押し付けがましさはなく、さりげない部分で感動をさらっていきます。
母親との別れ
例えば主人公が実家に立ち寄って母親に何年振りかで再会する場面。母親はいつも通りの憎まれ口を叩き、残された時間で何をするのかと聞かれても「やりかけのジグソーパズルを仕上げるのよ」なんて言うわけですが、これって恋人のところに向かおうとしている息子がこの家を出やすくなるよう、あえて平静を装っているんですね。別れ際に一瞬見せる母親の寂しげな表情からそれが読み取れるのですが、こんなもの見せられたら泣きますよ、そりゃ。
面倒を見た少女との別れ
少女との別れの場面も同様です。当初、主人公はこの少女を足手まといに感じていたものの、はぐれてしまった家族の元に送り届けて欲しいという少女の願いにはきちんと応えてやります。が、やっと発見した家族はすでに自殺しており、少女は一人ぼっちに。
しかし少女は気丈に振る舞い、「私はパパと一緒にいたいから、もうサヨナラだね」と言って主人公を送り出します。数時間後に死が迫っている状況で一人ぼっちになんかなりたくないに決まっているのに、約束を守ってくれた主人公にこれ以上迷惑はかけられないと空気を読むんですね。でも完全には感情を振り切れないのか、「あなたの乗った車が見えなくなるまで手を振るから、あなたも最後まで手を振ってね」などと言い、別れ際には名残惜しい行動をとってしまうかもしれないが、構わず去ってくれということを遠回しに伝えます。
少女の顔が見えている間は涙をこらえているものの、視界から外れると号泣する主人公。少女も同様に泣いてるんだろうなと思うと、切なくて堪えきれなくなります。
「また今度」がない状況で、この二人の思いを断ち切ってまで恋人の元への歩みを始めた主人公。もうここからは涙で画面が見えないぜという状態になります。そしてラストでは美を伴った破壊が炸裂し、SFとしてもきちっと落としどころを作っています。
■期待の監督
本作の脚本・監督はザック・ヒルディッチ。本作でドラマとスペクタクルとグロテスクの高度な融合を実現した手腕が評価されてか、後にスティーヴン・キング原作の『1922』の映画化企画も手掛け、そちらもなかなかの良作に仕上げたことから、私の中では注目度の高い監督の一人となっています。
These Final Hours
監督:ザック・ヒルディッチ
製作:リズ・カーニー
製作総指揮:ロバート・コノリー
脚本:ザック・ヒルディッチ
撮影:ボニー・エリオット
編集:ニック・マイヤーズ,メレディス・ワトソン・ジェフリー
音楽:コーネル・ウィルチェック
出演:ネイサン・フィリップス,アンガーリー・ライス,ジェシカ・デ・ゴウ,ダニエル・ヘンシュオール,キャスリン・ベック,セーラ・スヌーク,リネット・カラン
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