ユピテルとイオ【5点/10点満点中_興味深いが面白くない】(ネタバレあり感想と解説)

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終末
終末

5点/10点満点中

■Netflixの大好物・アポカリプトSF

『すべての終わり』『エクスティンクション 地球奪還』等、NetflixはアポカリプトSFが大好物。世界的に鑑賞されやすい題材なんでしょうか。

本作は2016年10月に撮影されたものの、Netflixでの初公開が2019年1月。詳細は明かされていないものの、公開の目途が立たずにお蔵入りしていた映画を、Netflixが買い取ったといういつもの感じが想像できますね。

■世界観について

アポカリプトSFの中でも、かなり逼迫した設定

本作の舞台となるのは大気汚染が進んで生命が生存できなくなった地球。寒冷化しただの砂漠化しただのといろんなアポカリプトSFが存在していますが、呼吸すらできなくなった地球というのは初めてのパターンですね。しかも、この大気汚染は人類が引き起こしたものではなく、人類を追い出したい地球が発したものであるとの説明が付けられています。ここまで逼迫した世界観の作品は珍しく、なかなか興味深く見ることができました。

ビジュアルや雰囲気はよくできている

荒涼とした大地と廃墟と化した街並みという画はこの手の映画の定番ですが、これが月並みながらよくできています。人は群れる習性があるためか、こうした「人がいるべき場所に誰もいない」という画面にはおのずと不安感を掻き立てられます。

また、登場人物がわずか2名(回想と声のみの人物を含めても4名)というミニマルなドラマでありながら、宇宙規模の背景を持つという奥行もあって、総じて雰囲気作りには成功していました。

ただし綻びもあり

説明を省くことによりアラを出さないという方法がとられた作品ではあるのですが、ところどころ「あれ?」と思うこともありました。

一番大きな疑問は、主人公・サム以外の人間はどう生きてきたんだという点でした。サムは世界的な科学者の娘であり、自分自身も生物学に詳しいこともあって、この逼迫した世界においても小さな生態系を構築することに成功して、何とか生き延びてきました。高い知識と、淡々と作業をこなし続けるメンタリティを持った彼女はめちゃくちゃにできる方の人間だと思うのですが、他方でそれ以外の、彼女ほどのレベルではない人間達は一体どこでどうやって生きているのかという点がまるで見えないことが、世界観の綻びとなっています。

同様に、サムとマイカが最後のシャトルに乗ろうと旅立つことが後半の山場となるのですが、生物学者のサムですら生きているのがやっとで、生野菜を見ただけでマイカが感激するような世界において、シャトルの発射準備作業をしている奴がいるという点がまったく腑に落ちませんでした。このシャトルはここまで世界が悪化する前に建造されたもので、予め定められた日に自動で打ち上げられることになっている等の補足説明でもあれば気にならなかったのですが。

■作品のテーマ

原題の『IO』とは木星の衛星を指します。そして、邦題の『ユピテル』の英語読みはジュピター(木星)であり、ローマ神話の主神に当たります。こうしたタイトルに加えて、若い男女1名ずつという人物構成からは神話的な要素が漂っています。

実際、物語は神話的な方向で進んでいきます。サムは地球に残るか離れるかの選択を迫られて「残る」という選択を下すことで、新世界の最初の住人となりました。登場人物たった2名の物語で、旧世界の終わりと新世界の始まりをやってのけた構成力・演出力には素晴らしいものがあったと思います。

■ただし、面白くない

この映画の最大の問題点がこれです。クールな作風に徹する必要があったことは理解できるのですが、あまりにも娯楽要素がなさ過ぎて何度も寝落ちしかけました。

サムの翻意が分かりづらい

また、途中までシャトルを目指していたサムが翻意したきっかけが分かりづらかったことも大きなマイナスでした。シャトルまでの道中で『レダと白鳥』という絵画を見たサムは、ここで地球に残ることに決めてヘルメットを脱いで外気を吸うのですが、この急な展開に「なんで?」と目が点になりました。

この『レダと白鳥』という絵画、ギリシア神話の主神・ゼウス(ローマ神話のユピテルに相当)が白鳥に化けてスパルタ王の妻・レダを誘惑したというエピソードを元にした作品のようです。つまり、サムは木星行きという誘惑の罠を見抜いて、地球に残る決意をしたということです。って、分かりづらいよ。

マイカはなぜ木星に行ったのか

この大気の中でも呼吸ができるように進化したサムを見れば、普通ならマイカも地球に残ろうと思うはずです。今すぐには無理でも、サムと同じようにしていればそのうち呼吸ができるようになる可能性はありますから。あてどもない外宇宙の旅に出かけるよりも、地球への適応の方が絶対に良い選択肢だろうし。なのになぜマイカはそうしなかったのか。その心境も不自然で腑に落ちませんでした。

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