(2012年 アメリカ)
大規模なアクション、スケールの大きな物語と、相変わらず見ごたえがあるのですが、前2作と比較して詰めの甘い部分が多くツッコミどころ満載。3作目でコケるという伝統はノーランにも当てはまったようです。
作品解説
ノーラン、迷う
脚本家のデヴィッド・S・ゴイヤーは、2005年の時点で『ダークナイト』(2008年)と、その続編のトリートメントを執筆していました。
ただしクリストファー・ノーランは第3弾の製作には慎重であり、先に『インセプション』(2010年)を作り始めました。
その間にもワーナーとノーランの協議は続いており、ワーナーはレオナルド・ディカプリオにリドラーを演じさせてはどうかと提案したのですが、ジョーカーと類似したキャラクターでは厳しいとして、ノーランは正反対の個性を持つベインを推しました。
2010年2月にノーランの続投が正式発表され、2011年5月より撮影開始。製作費の見積りは2憶5000万ドルから3億ドルという超巨大プロジェクトとなりました。
前作を越えた世界興収
本作は2012年7月20日に全米公開され、歴代3位のオープニング興収1億6090万ドルを記録。これは前作を凌ぐ金額でした。
全米トータルグロスは4億4813万ドルで、5億3334万ドルを稼いだ前作を下回ったものの、それでも年間興行成績第2位という特大ヒットとなりました(1位は『アベンジャーズ』)。
国際マーケットではアメリカ以上に好調で、全世界トータルグロスは10億8104万ドル。10億304万ドル稼いだ前作を上回りました。
そして『ダークナイト』がヒットしなかった唯一の国として話題になった日本の興行成績ですが、前作の16億円に対して本作は19億円で、やや改善しました。
それでも年間26位で、『怪物くん』、『アメイジング・スパイダーマン』、『バイオハザードⅤ』よりも下という、理解の追い付かない結果ではありましたが。
感想
社会の格差がテーマ
舞台となるのは『ダークナイト』(2008年)から8年後のゴッサムシティ。
前作ラストでバットマンが地方検事ハービー・デントの名誉を守り切ったことが奏功してか、ゴッサムの治安は飛躍的に改善し、富裕層たちはパーティを開いては「良い世の中になったねぇ」なんて言い合っています。
バットマン不要の世の中になったのでブルース(クリスチャン・ベール)は屋敷に引きこもっていますが、そこにキャットウーマンことセリーナ・カイル(アン・ハサウェイ)が宝石を盗みにやってきます。
劇中でキャットウーマンとは一言も呼ばれないものの、実質的にキャットウーマン扱いなので、そういう認識でいきます。
「嵐がくるわよ、ウェインさん」
セリーナはこう言い、我が世の春を謳歌しているのは富裕層だけで、自分たちのような底辺層は苦しみ怒っていると主張します。
付け加えて、怒りの臨界点を迎えた時に、富裕層は自分たちがどれほどの富を不当に独占していたのかを知ることになるだろうと怖い予言をしていきます。
次にブルースが出会うのは若手警官のジョン・ブレイク(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。ブレイクからは、なぜ孤児院への寄付を打ち切ったのかと尋ねられます。
その件を認識していないブルースが会社に確認したところ、会社の利益が出なくなったので、随分前に寄付金は打ち切ったとの回答。
会社の利益を逼迫させたのはブルース肝いりの核融合炉開発計画の失敗だったため、自覚こそなかったものの、ブルースは間接的に孤児たちを苦しめていたということになります。
そして、行き場を失った孤児たちの駆け込んだ先こそが、今回のヴィランであるベイン(トム・ハーディ)の作ったテロ組織であり、ブルースは間接的にテロへの協力をしていたということにもなります。
また前述した治安回復にもウラがあって、デント法と呼ばれる法律が犯罪組織の締め付けに役立ったとされるのですが、どうもこれが裁判なしでも容疑者をブチ込めるという憲法違反スレスレのもののようで、ゴッサムは真の平和を実現したのではなく、力尽くで押さえ込み、臭いものを全部刑務所に流していただけということも分かってきます。
劇中の説明だけではデント法の概要が分かりづらいのが難点なのですが、そういうことらしいです。
平和と安定を享受できているのは富裕層だけで、その虚飾に満ちた繁栄に覆い隠されたことで貧困層の問題はより深刻化しており、爆発寸前の状態にある。
格差問題こそが本作のテーマなのです。
バットマン、裸一貫でやり直し
その後、ブルースはウェイン・エンタープライズの取締役の一人であるジョン・ダゲット(ベン・メンデルソーン)の謀略により、無謀な株式投資で全財産を失ってしまいます。
これは露骨にサブプライム絡みの話でしたね。
さらには、8年ぶりにバットマンとしての活動を再開したものの、ベインとのタイマンで敗北。
マスクをかち割られ、背骨をへし折られた上で、”奈落”と呼ばれる海外の刑務所だか何だかよく分からない施設にぶち込まれます。
身も心もボロボロ、金もない肩書もない装備もないという、まさに裸一貫状態。
ここからバットマンが復活し、精神修養を終えた状態でベインにリターンマッチを挑むことが本作のダイナミズムなのですが、これがどうにも盛り上がりに欠けたことも、作品の欠点となっています。
精神論で背骨の故障を治すとか、トゥー・フェイスとの戦いの後遺症でサポート器具を必要としていた足が、気が付けば元通りになっていたとか、ノーランらしからぬ雑さがあるし。
話されている言葉から、奈落は中東にあると思われるのですが、身一つで脱出した後のブルースが、どうやってゴッサムに戻って来たのかもよく分からないし。まさか『復活の日』の草刈正雄のように歩いて帰ったってことはありませんよね。
ゴッサムで市民革命
バットマン不在の間にゴッサムがどうなったのかというと、核融合炉を奪ったベインがこれを爆破させると米国政府を脅し、ゴッサムの支配者に君臨。
ちなみにこの核融合炉、ゴッサムの市内に建設されていました。一千万都市に原子力を持ち込んで極秘裏に研究とか、ブルースのやってることはドクター・オクトパスレベルなんですが。
で、ベインは抵抗してきそうな警察官3000人を地下道に閉じ込め、代わりにデント法で収監されていた囚人たちに武器を持たせて街を管理させます。
富裕層達は人民裁判に引きずり出されるのですが、裁判長がスケアクロウ(キリアン・マーフィ)なので公正な審理というものは存在しません。
なんだかんだでスケアクロウは3部作すべてに登場しましたね。本作でも死んだ様子がなかったし、ここまでしつこく生き延びたヴィランは、コミック映画ではかなり珍しいのではないでしょうか。
彼の出す判決は死刑か追放かの2択。追放と言っても薄氷の上を歩いて向こう岸まで行けという、『ランボー最後の戦場』(2008年)でミャンマー軍がやってた田んぼレースレベルの無茶なので、100%の確率で渡り切れずに死にます。
ゴッサムで起こっているのはフランス革命で起こったような混乱と虐殺なのです。
かなりのスケールの話なのですが、では社会考察的な面白さがあるのかと言われると、そうでもありません。前に出てくるのが警察官と囚人ばかりで、一般市民の存在感が希薄なのです。
ゴッサム市民全体がこの革命をどう受け止めたのか、特に富裕層と貧困層の争いに巻き込まれた形になった中間層はどうだったのかなどは当然浮かんでくる疑問なのですが、この辺りには全然触れられないので、現代の大都市で革命が起こったらという設定があまり生きてきません。
また生産と物流が止まった大都市で、住人達の衣食住はどうやって賄われていたのかということも有耶無耶で、あまりリアリティを感じませんでした。
あとベインですが、彼の目的はゴッサムに革命を起こすことではなく、ゴッサムの破壊にありました。だったら核融合炉を握った時点ですぐに吹っ飛ばせばよかったのに、5か月後に融合炉が勝手に臨界を起こすまで放置していたのは、なぜなんでしょうね。
最終決戦がかなり雑
そんなこんながありつつもバットマンはゴッサムに戻ってきて、キャットウーマンやジョン・ブレイクと分担して速やかな反撃の準備を開始します。
こちらの主戦力は地下道から解放した3000人の警官たちなのですが、彼らが5か月も地下に閉じ込められた感じではないことが、またガッカリでした。
衣服は5か月前のまんまのはずなのに滅茶苦茶汚れているわけでもなく、髪型もある程度整っているし、無精ヒゲを生やした者もいません。地下に床屋でもあったんでしょうか。
おまけに精神的に滅入っている様子もなく、地上に出てくるや闘争本能全開なので、5か月という時間の重みが感じられません。
同じ頃、ゴードン本部長はトレーラーに積まれて市内を移動している核融合炉を探しているのですが、彼が乗り込んだトレーラーはタンブラーからの攻撃を受けたり、高い場所から落ちたりと、物凄い状態に置かれているのですが、ゴードンは全然平気。
どれだけ体が強いんでしょうか。あなたがバットマンをやるべきでした。
そんなこんなで、最終決戦も雑な部分がかなり目につきましたね。CGを使わないモブの大乱闘や、バットマンとベインの殴り合いなど、見どころは多かったんですが。
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