ザ・ウェイバック_見所はベン・アフレックだけ【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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人間ドラマ
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(2020年 アメリカ)
実際にアルコール依存症を患っているベン・アフレックがアルコール依存の男を演じただけあって説得力が違い、彼の熱演は大きな見所となっています。ただしスポーツ映画としては盛り上がりに欠けるし、王道通りの展開を迎えるので特にハラハラもさせられず、映画としてはさほど面白くありませんでした。

作品解説

『ザ・コンサルタント』のコンビ再び

ギャヴィン・オコナー監督はスポーツ映画を得意としており、カート・ラッセル主演のアイスホッケー映画『ミラクル』(2004年)、ジョエル・エドガートンとトム・ハーディが共演した総合格闘技映画『ウォーリアー』(2011年)などを手掛けています。

主演のベン・アフレックとは全世界でヒットとしたサスペンスアクション『ザ・コンサルタント』(2016年)以来二度目のコンビであり、ベンから生涯最高とも言うべき名演を本作で引き出しています。

コロナ禍に翻弄された興行

本作の全米公開は2020年3月6日で、さほど予算もかかっていない地味なドラマ作品ながら最初の週末に817万ドルを稼いで初登場3位を記録しました。

しかし翌週より世界的なコロナ禍が発生して興行どころではなくなり、2週目以降は興行成績が激減。

アメリカ以外の地域での上映目途は立たなくなり、日本を含む多くの国では動画配信で初公開となりました。

感想

アル中がアル中を演じる

本作の主人公はジャック・カニンガム(ベン・アフレック)。ジャックは工事現場の作業員なのですが、仕事が終わるとすぐに車のクーラーボックスのビールを飲み干します。

帰り道のバーで酒を飲み、帰宅しても冷蔵庫のビールを何本も空けていきます。そのうち寝入ってしまうのですが、目が覚めてシャワーを浴びる際にも浴室にはビールを持ち込んでいます。

「ヤバイくらい飲んでるな」ということが誰の目にも明らかな日常。

これを演じるベン・アフレックもアルコール依存症に苦しんでいることで知られています。彼は2018年に長年連れ添った妻ジェニファー・ガーナーとの離婚が成立したのですが、その原因は彼のアルコール依存だったと言われています。

アフレックの依存症歴は筋金入りで、2001年頃には治療を開始して15年以上も依存症と戦っており、やめてもまた飲んでしまうを繰り返してきました。愛する家族を失うところにまでいってもやめられなかったのだから、依存症とは本当に恐ろしいものです。

そんなわけでリアルにアルコール依存症を患っているベン・アフレックがアル中の役を演じているのだから、説得力が違います。酒を飲むとすぐに気持ち悪くなってしまう私にはまったく分からない世界なのですが、「アルコール依存症になると本当にああなってしまうのか」というリアリティが違うのです。

またリアルで家族を失ったアフレックの悲壮感がジャックにも投影されており、自分の人生に明るいものを見出せなくなった男の背中にはグッとくるものがありました。

本作が全米公開された2020年3月からのアナ・デ・アルマスとのバカップル報道がなければ尚よかったのですが。

話を映画に戻しますが、中盤にて「そりゃ酒にも逃げたくなるよな」というジャックが抱える背景が明らかになるのですが、これは失敗でした。明確な理由を作ったことで、むしろテーマが矮小化されたような。

頭では飲んじゃダメだと分かっているのに、それでも酒に手を出してしまうという点にこそ依存症の恐ろしさがあるわけで、酒に逃げざるを得ない背景ができてしまうと、その点が軽くなってしまいます。ジャックをただの酒好きにしてくれた方が、私は腑に落ちました。

スポーツ映画としては凡庸

そんなアル中のジャックですが、30年前には高校バスケのスター選手であり、今もなお当時のプレーは語り継がれています。

ある日ジャックの元に高校時代の恩師から電話がかかってきて、バスケ部のコーチをしてくれないかと頼まれます。ジャックは気乗りしなかったのですが、かと言って気の利いた断りの言葉も思い浮かばず、何となくの流れでコーチを引き受けることに。

練習に出てみるとかつての強豪チームらしさはどこにもなく、普通なら補欠レベルの部員も引っ張り出してようやく試合ができるような状態。ちょっとうまいだけというレベルのキャプテンが幅を利かせ、その他の部員は真剣に練習をしていません。

これだけ酷い有様だと「あれもダメ」「これもダメ」「もっとこうできないのか」と次々とやるべきことが思い浮かんできて、気が付けば熱心に指導をしているジャック。

ここからジャックと生徒達のぶつかり合いの日々が始まるのですが、チームに悪影響を与えているエースの追放や、家庭環境に悩む新エースの苦悩など、面白くなりそうな話があまり深掘りされずに流されていくので、のめり込むような面白さがありませんでした。

結果、鍛え直したことでチームがすぐに強くなったように見えてしまい、スポーツ映画としての波を作れていませんでした。

コメディとして作るべきだった

全体としては、弱小チームの立て直しを通して指導者も己の弱さと向き合い、これを克服しようとするドラマであり、『がんばれベアーズ』(1976年)、『飛べないアヒル』(1992年)などこの手のドラマってスポーツ映画のド定番です。

では本作の新機軸って何なのというと、通常ならばコメディとして製作されることの多いこの手の映画をシリアスなドラマとして作ったことなのですが、果たしてその成果はと言うと、素直にコメディとして作った方が良かったんじゃないのというところでした。

弱小チームがすぐに強くなっていく様をシリアスドラマの文脈でやってしまうとやはり展開に無理を感じるし、軽妙なコメディの中にアルコール依存症や生徒の貧困という問題を加えてこそがそれぞれのトピックは際立ったと思います。

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