グランツーリスモ_王道スポーツ映画【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
実話もの

(2023年 アメリカ)
レーシングゲームのハイスコア者を本物のレーサーにするという嘘のような実話の映画化だが、脚本や演出は良い意味で王道に徹しており、スポーツ映画の良さを思いっきり楽しめる良作だった。

感想

公開初日である9月15日に見に行ったんだけど(ちなみにIMAX版)、翌日から子供と一緒にUSJへ旅行で疲労困憊だったので、一週間遅れでのレビュー投稿となる。

当日は急遽仕事が休みになり、真っ昼間から映画館に行けるという至福を味わえた。そうした個人的背景もあってか、映画本編もかなり楽しめた。

テレビゲーム「グランツーリスモ」のトップゲーマーを実際にサーキットで走らせてみたら、本当にレーサーとしてある程度の位置にまで行ったという、ウソのような実話の映画化。

グランツーリスモの開発者は日本人プログラマーで、リリースしたのはソニー。そしてレーシングチームを組織したのは日産と、根幹部分に関わっているのは日本企業ばかり。

なので日本が舞台になる場面も多く、かつ、東京のセットを作って終わりではなく、実際に日本ロケを敢行しているので、日本人にとってはいろいろと馴染みやすい映画となっている。

物語はかなりシンプル。土台となる実話がかなり突飛なので、物語はあえて直球勝負にしたのだろう。

主人公ヤン・マーデンボロウ(アーチー・マデクウィ)はスコットランドで燻っている青年。レーサーになりたいという夢こそあれど、レーシング業界なんて英才教育を受けたお坊ちゃんたちの世界なので、労働者階級に生まれ付いたヤンには参加の糸口すら見いだせない。

大学も中退し、レーサーになるという夢をテレビゲーム「グランツーリスモ」をプレーすることで何となく代替する毎日。一方で地元のサッカーチームでは一目置かれる弟との比較で、ダメ兄貴扱いを受けている。

遠い夢と現実との間で葛藤する主人公像は『ロッキー』(1976年)以来のスポーツ映画の伝統である。

父親(ジャイモン・フンスゥ)は、若い頃には地元サッカークラブでプレーした経験もあるようだが、芽が出ず今では鉄道会社で勤務している。

なので夢を追うという行為に対しては人一倍警戒心が強く、ヤンを自分の職場に連れてきては、「このままじゃお前も俺みたいになるから、地に足を付けて生きろ」と言って聞かせる。

肉体労働系を完全に「やりたくない仕事」として扱うというこの手の描写を日本でやれば、「職業差別だ!」と言って大クレームになるでしょうな。

ただし「選択の自由があれば当人だって避けたであろう仕事」ってのは現にあるわけで、これは割と正直な描写だと思う。

そんな説教を受けたヤンだが、「だからこそ夢を真剣に追わなきゃ!」と、父親の意図とはまったく逆方向に受け取ってしまう。これだから子育ては難しい(笑)。

折しもそのタイミングで、日本の自動車メーカー日産では野心的なプロジェクトが走っていた。

「若者の自動車離れ」に頭を悩ませてきた日産本社において、「じゃあ若い人たちの憧れであるトップゲーマーをレーサーにして車人気を盛り上げてみては?」という冗談のような企画が採用される。

プロジェクトの提唱者は日産イギリス支社のマーケティング担当ダニー・ムーア(オーランド・ブルーム)。東京本社でのプレゼンに手ごたえはなく肩を落として帰ろうとしたところ、実は企画が通っていたという描写は、ロン・ハワード監督の『ガン・ホー 突撃!ニッポン株式会社』(1986年)を思わせる。

プレゼンに対する日本人の反応が薄いというのも、国際的にはあるあるなんだろう。

早速ダニーはレーシングチームを組織すると同時に、世界中にいる「グランツーリスモ」のハイスコア者に対して入学試験のインビテーションを送る。

入学試験とはすなわち猛者たちによるグランツーリスモのガチンコ勝負であり、これをパスしたヤンは念願のレーシングチーム入りを果たす。

入学生たちをしごくレーシングチームのボスはジャック・ソルター(デヴィッド・ハーパー)。現在は縁の下の力持ちをやっているジャックだが、若い頃にはレーサーとして活躍し、それなりの素質もあったらしい。

しかし悲しいアクシデントがきっかけでレーサーの道を断念し、自分の可能性を試せないままアスリートとしての旬を終えてしまったという深い深い後悔を胸に秘めている。

ヤンの父親と同じく「若い人たちは俺のようになるな」という思いを持つジャックなのだが、一度は完全燃焼し、夢というものに対して懐疑的となっている父親に対し、ジャックは「とにかくやりきれ。じゃないと後悔するぞ」という姿勢なので、ヤンとの間では信頼関係を結んでいく。

こうしたメンター役もスポーツ映画では定番で、紋切り型であると同時に抜群の安定感もある。

そこから先はヤンがレーサーとして覚醒し、挫折し、復活を果たすという、これまたスポーツ映画として王道の展開が用意されている。

そしてライバルとなるのはお坊ちゃんレーサー マティ(ダレン・デイビス)。

高慢な性格でゲーマー上がりのレーサーを見下しており、時にラフプレイも仕掛けてくる危険な相手。乗っているレーシングカーは金ピカ仕様で、彼の金満状態を分かりやすく表現している(笑)。

こうしたライバルの存在も定番通りだが、ヤンとマティとの競り合いにはかなりハラハラさせられた。

見せ場であるレーシング場面は映画史上最高クラスともいえるド迫力。

『第9地区』(2009年)『エリジウム』(2013年)など、一貫してメカと有機体の描写に拘り続けてきたニール・ブロムカンプ監督は、爆走する車体の美しさと、狭いコックピット内で繰り広げられるレーサーの葛藤を余すところなく描写する。

時にヤンの主観映像としてゲームのような画も映し出されるのだが、この描写によって現在の順位などが観客にも分かりやすく提示される。主題を表現すると同時に、実用性も発揮するというこの映像表現にはしびれた。

定番通り、ヤンのサクセスで映画は終わる。最も気持ちの良いところで幕引きという終わらせ方も良かった。鑑賞後の満足度の高い良作である。

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