(1987年 イギリス)
ラリーとジュリアのコットン夫婦は、空き家となっていたラリーの実家に引っ越してくるが、ジュリアはそこで人間の姿ではなくなったラリーの兄・フランクと遭遇する。かつて不倫関係にあったフランクをジュリアは今でも愛しており、彼女はフランクの肉体を蘇らせようとする。
8点/10点満点中 生理的嫌悪感をもたらす優れたホラー

息つく暇もないほど怖い
深夜に見始めて「途中で寝落ちしないかな」という不安があったのですが、冒頭からゴア描写がトップギアで、そこから緊張感がまったく途切れることがなく、眠くなるどころか完全に目が冴えました。
バラバラに砕け散った男の顔を寄せ集める冒頭に始まって本作のゴア描写には平凡なものが何ひとつなく、どこから何が出てくるのかまったく予測ができないので終始緊張しっぱなしでした。また、いざ事が起こった時の壮絶さと言ったらなく、怖くて死ぬかと思いました。
この時代の特殊メイクやVFXは独特で、表現の幅はCGを用いた近年の作品には遠く及ばないものの、ヌルヌルベチョベチョとした質感やクリーチャーのいやらしい動きなど生理的嫌悪感をもたらす表現では勝っているように思います。ロブ・ボッティンやクリス・ウェイラスといった職人的なアーティストが活躍していた時代であり、本作には『ハイランダー/悪魔の戦士』を手掛けたボブ・キーンが参加しています。
王道を組み合わせた非凡な物語
- 超常的な存在に憑りつかれたお化け屋敷もの
- たぶらかした男を喰らう絡新婦(じょろうぐも)
- 継母に命を狙われる白雪姫
- 悪魔との契約を反故にした男
本作の構成要素は童話や怪談ものでよくあるパターンばかりなのですが、これら王道を見事に組み合わせて一つの物語にまとめてみせた点に、その非凡さはあります。さらに、本編の途中で主人公が交代するという『サイコ』でヒッチコックがとった手法を取り入れてみたり、美少女が血みどろの災難に遭わされるというダリオ・アルジェント的な切り口を持ち込んでみたりと、映画史への目くばせも十分にあった点にも驚かされました。

加えて、これだけパンパンに膨れ上がった話を駆け足にするでもなく90分程度で無理なく収めており、本作の構成は神がかっていたと思います。
魔導士ピンヘッドの魅力
悪なんだけどかっこいい
その名の通り頭にピンを何十本もぶっ刺したインパクトの強い見た目に、すべてを見通しているような超越性、ただの悪にとどまらないダークヒーロー的なかっこよさも備わっていて、実に魅力的でした。ラスト、カースティを追い込もうとするフランクの前に現れ、「お前を連れ帰る」と言って豪快にフランクをカースティから引き離す場面なんて、『ジュラシック・パーク』でラプターを仕留めたT-REX並みの千両役者ぶりでしたよ。あと、セリフがいちいち大袈裟でかっこいいこともツボでした。
- 快楽の領域を広げる案内人。ある者には悪魔、ある者には天使だ。
- 泣くな。せっかくの苦しみが台無しになる
- もしわれわれを騙したら、お前の魂をバラバラに引き裂いてやる
後世への影響
ポール・W・S・アンダーソン(通称・ダメな方のポール・アンダーソン)は、1997年の『イベント・ホライゾン』でサム・ニールをピンヘッド化しました。加えて、地獄とは血と拷問の世界だが、それは快楽の延長にあるという本作のテーマもそっくりそのまま引き継がれています。ただし、この話を宇宙船を舞台にやってみせたことが、ポール・W・S・アンダーソンの凄いところなのですが。
アレックス・プロヤス監督の1998年の大傑作『ダークシティ』には、黒装束にスキンヘッドというピンの刺さっていないピンヘッドが大勢出てきました。歯をカタカタと鳴らす描写までを取り入れており、「私は『ヘル・レイザー』からの影響を受けています」と潔く認めているかのようでしたね。
監督・脚本は小説家のクライヴ・バーカー
これだけ凄い映画の監督・脚本を務めたのは、原作である『ヘルバウンド・ハート』の著者でもあるクライヴ・バーカー。本作は彼の長編デビュー作に当たります。デビュー作でこれだけ凄い映画を撮ってみせたものの、後は続かなかったようですが。
彼は非常に多彩な人で、執筆活動をメインにしつつも、実験アート的な短編映画を監督したり、自身の著作のイラストを描いたり、ゲームの監修を行ったりもします。変態的という点で、すべての活動は共通しているのですが。
出身はヨーロッパの超名門リヴァプール大学。そういえば、カナダの変態・デヴィッド・クローネンバーグも名門トロント大学出身だったし、飛びぬけた変態は偉大な知性を持つものなんでしょうか。
