(2023年 中国・アメリカ)
5年間もお蔵入りの末にNetflixで公開された不遇のジャッキー映画だが、この扱いにも納得できるほど映画の出来が悪すぎる。そこはかとなく漂う中国共産党のプロパガンダ臭に、あってないようなドラマ要素、そしてジャッキーよりも主張したがる演出など、すべての構成要素がよろしくなかった。
感想
ジャッキーに政治色は似合わない
われらがジャッキー・チェンの新作だが、劇場公開の目途が立たずNetflix送りになったという、なんとも残念な作品。
wikipediaの該当ページを見ると、撮影自体は2018年に終わっていたが、配給会社がつかないままコロナ禍に突入し、おまけに共演のジョン・シナによる「台湾は国」発言があって余計に表に出しづらくなり、5年間ものお蔵入り状態だったとのこと。
様々な会社の手から手へと移ったということは、開始直後にわんさとクレジットされる会社の数を見れば分かる。
一応アメリカ映画ということにはなっているものの中国語の会社ばかりなので、本作は中国映画と考えるべきだろう。
舞台はイラク。中国企業が運営する油田が武装集団による襲撃の危機に晒されており、ルオ隊長(ジャッキー・チェン)率いる民間軍事会社が職員たちを脱出させるためにやってくる。
デスロード(死の道)と呼ばれる道をバスで行く一団だが、案の定、武装集団からの襲撃を受ける。ヘリで来たのに、なぜ帰りはバスなんだというツッコミはしない約束だ。
バスを襲ったのは特殊部隊あがりのアメリカ人クリス(ジョン・シナ)達だが、彼自身は子供を愛する善良な男。弟からのゴリ押しもあって内容も知らず引き受けたジョブだったが、どうやら誘拐が目的だったと知ると集団から離脱する。
結果、襲撃は失敗し、クリスの弟は処刑される。で、クリスは復讐に立ち上がり、なんやかんやあってルオ隊長とバディを組むというのがざっくりとしたあらすじ。
中国企業が被害者で、武装集団を構成するのは白人。80年代にハリウッドで量産された、英語を話さない敵がアメリカ人主人公に襲い掛かってくるアクション映画の構図をひっくり返した作品としてご理解いただければ間違いないだろう。
ジョン・シナが扮した役を当初演じる予定だったのは、80年代にハリウッドで右翼的アクションを作っていたシルベスター・スタローンだったという点も興味深い。
なんだけど、80年代とは時代が違うわけで、こうも露骨な国威発揚映画は正直引く。
しかも冒頭のクレジットには人民解放軍をモチーフにしたロゴの会社も含まれていて、中国政府のご意向が幾ばくか含まれたものだろうかと、悪い推測もしてしまう。
ジャッキーも、ここ10年は中国共産党のスポークスマン状態だし。
呑気に楽しめることがジャッキー映画の醍醐味なんだけど、そこかしこに政治臭さがするのが物凄く邪魔だった。
演出が主張しすぎでスタントが台無し
そんなプロパガンダ臭さを抜きにして、映画としての出来もよろしくない。
弟の復讐を誓うクリスと、娘との関係再構築を図るルオ隊長。それぞれにドラマ要素は置かれているのだが、これらがまるで機能していないのだ。
クリスが弟の死に憤るのはほんの数十秒だけで、その後は何事もなかったかのように間抜けな歌を歌ったり、ジャッキーとすっとぼけたやり取りを開始したりで、復讐者としての殺気などは微塵も感じさせない。
ジャッキーはジャッキーで、中盤辺りで早くも娘と和解を果たしてしまうので、彼のドラマも途中で完結してしまう。
アクション演出もやりすぎだ。
監督は『エクスペンダブルズ4』(2023年)に抜擢されたスコット・ウォーで、一つ一つの場面は確かにカッコいい。
ただし格闘の最中にグルングルン回るカメラワークや、細かいカット割りなど、演出が前に出すぎている。
名作『プロジェクトA』(1983年)を思い出していただきたいのだが、スタントは引きで撮る、特に素晴らしい場面は都合3度もリピートする。これこそがジャッキー映画のあるべき姿だ。
演出がジャッキーよりも主張しすぎては断じてならないのである。
コメント
なんかなにもかも駄目ってかんじなんすね 伝説のシリーズの晩節を汚してしまったなあ
ジャッキー自体がダメなら諦めもつくんですけど、ジャッキーの見せ方がダメとなると、「もっとうまく撮れなかったのかなぁ」と思ってしまいます。