(1998年 アメリカ)
魅力的な出演者、美しいデザイン、壮大な陰謀と弾は揃っているのに、なぜこんなにつまらないのかと思うほどつまらない映画。スベリまくるユーモアと、前後関係のつながりの悪い物語で、89分という短い上映時間すら長く感じられた。
※時間がなかったので、いつもの”ですます調”をやめていて変な感じかもしれませんが、ご了承ください。
作品解説
往年のテレビドラマのリメイク
イギリスのABC制作のテレビシリーズ『おしゃれ㊙探偵』(1961-1969年)のリメイク。
後に『オーシャンと十一人の仲間』(1960年)のリメイク『オーシャンズ11』(2001年)も製作するプロデューサー ジェリー・ワイントロープが、このドラマのファンだったことから本作を企画したとのこと。
製作開始時点ではハリウッドで有望視される企画だったらしく、メル・ギブソンやニコール・キッドマンが主演の候補として挙げられていた。
またデヴィッド・フィンチャーが監督することに興味を持っていた時期もあったらしい。
ワーナーが匙を投げた不出来
本作は1998年6月に全米公開の予定だったが、あまりの不出来からワーナーはリリース日を8月に変更。8月には自信のない作品が公開される場合も多く、専門家からは「ゴミ捨て場」とも呼ばれている。
サマーシーズン真っ盛りの6月から8月に変更というのは、まさにそういうこと。
そしてワーナーは再編集を指示し、本来は115分あった本編を89分にまで短縮。
これだけ豪快な編集がなされるとスコアのやり直しも必要になるのだが、作曲を担当していたマイケル・ケイメン(『リーサル・ウェポン』,『ダイ・ハード』)のスケジュール調整が出来なくなり、新しくジョエル・マクリーニー(『ヴァイラス』)が雇われた。もうグダグダである。
また、ワーナーは公開前にマスコミ向けの試写を一切やらなかった。これまた自信のない映画に対してとられる措置であり、公開前から駄作であることがほぼ分かり切った状態だった。
そんな扱いなので興行的には振るわず、全米トータルグロスは2338万ドル、全世界トータルグロスは5470万ドルで、6000万ドルの製作費すら回収できない爆死となった。
関係者はツライ目に遭った
ジェレマイア・S・チェチック監督(『妹の恋人』『悪魔のような女』)は、本作のあまりの不評ぶりから長編映画を撮れなくなり、以降はテレビドラマの監督に鞍替えした。
それは主演女優であるユマ・サーマンも同じくで、前年に出演した『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997年)との併せ技でオファー激減。『キル・ビル』(2003年)で復活するまではロクな仕事がなかった。
本作では多くの人がツライ目に遭ったのである。
感想
全然笑えないコメディ
公開当時からその存在は知っていたが、あまりに惨いレビューの数々からまったく見る気が起こらなかった映画。
最近、ネットフリックスに上がっているのを発見し、89分という短い尺だから少々つまらなくてもサクっと終わるでしょという気持ちで見始めたのだが、89分すらしんどかった。そんな駄作。
何がそんなにつまらないのかと言うと、コメディとして作られているのに、全然笑えないというところ。
飲み会で、自分の話は面白いと思っているつまらない人の隣に座らされてしまい、興味も共感も抱けない話に延々付き合わされた感じに近い。
気象を操作できる機械を操って世界征服を企むウィンター卿(ショーン・コネリー)がいて、英国政府の諜報機関「ミニストリー」のエージェント スティード(レイフ・ファインズ)と、気象学者エマ・ピール(ユマ・サーマン)がその阻止に乗り出すというのがざっくりとしたあらすじ。
英国人は天気の話をするのが好きというイメージと、気象を操作する悪党というのがひとネタになっているのだろうが、これが全然笑えない。
そして、テロリスト役のショーン・コネリーは言わずもがなの元007、他方でミニストリーの2名の指揮官は車椅子と全盲。
身体障碍は悪の幹部の特徴である場合が多いことから、従来のスパイ映画に見られる善悪のアイコンをひっくり返したことがもうひとネタなのだろうが、これも何が面白いのか分からない。
また、ミニストリーの2名の幹部は、男性の方がマザーと呼ばれ、女性の方がファーザーと呼ばれているのだが、これも笑えない。
その他、スパイの車には回転ずしのカウンターの要領で紅茶を入れる機能があったり、ビスケットネタを頻発したりと、英国文化を茶化す描写が目立つのだが、やはり笑えない。
極め付きは悪の組織の会議で、各自の素性を隠すためなのか、全員がクマの着ぐるみで参加しているのだが、露骨に笑いを取りに来たこの場面すら、クスリとも笑えない。
こんなにもスベリまくっているコメディ映画は後にも先にも見たことがなく、頑張って着ぐるみを着てくれているショーン・コネリーに対して、何だかこちらが気まずさを感じたほどだった。
話が飛びまくりで意味不明
加えて、上映時間短縮の影響で説明が省かれたと思われる箇所がいくつもあって、話が飛びまくって意味不明になっているという問題もある。
例えば、中盤にてエマはファーザー(フィオナ・ショウ)に捕まって独房に入れられてしまう。
ファーザーからすれば、邪魔なエマの動きを封じるという目的を一応は達成できたのだが、その直後にファーザーはエマをわざわざ独房から出して気球に乗せて、反撃の機会を作ってしまう。
なぜ独房から出す必要があったのか、なぜ気球なのか、車やヘリではダメだったのかという説明もないまま、気球という特殊な乗り物に乗り込むという違和感。
しかも、さっきまでエマには拘束衣を着せていたのに、ここでは普通の服に変わっている上に、監視もしていない。どうぞ反撃してくださいと言わんばかりのお膳立てには参ってしまった。
本作では万事がこの調子で進むので、勝負の行方に手に汗握るなんて瞬間は1秒たりとも訪れない。
さらにタチが悪いのが、先ほどの笑えないユーモアとも相まって、笑わせるつもりであえておかしな展開にしているのか、ナチュラルに頓珍漢なだけなのかが読めない。
理解に苦しむとはこういうことを言うのかと、この歳になって痛感した。
盛り上がらないスペクタクル
クライマックスでは、ウィンター卿が世界的規模の陰謀を発動させる。
ロンドンの気温は氷河期並みに下げられ、おまけに都市部を竜巻が襲うという大スペクタクルが発生するのだが、これが驚くほど盛り上がらない。
なぜかと言うと、ロンドンが空っぽで人っ子一人映らないから。
この手のスペクタクルとは、VFXを駆使した大規模な見せ場と、その被害を受けた人々のリアクションのセットで盛り上げるべきものなのだが、本作の場合はモブを映していないので、そこに情感が乗っからないのである。
こういう出来損ないのスペクタクルを見ると、ローランド・エメリッヒやマイケル・ベイは、何だかんだ言われつつもうまかったんだなということを実感する。
主演3人は良かった
とまぁ基本的にはツライ映画だったのだが、主演3人が良かった点だけは素直に評価したい。
スティード役のレイフ・ファインズは、後に007やキングスマンに出演する人物だけあって英国スパイらしさに溢れている。何が起こっても取り乱さず飄々としている様など、本作に求められる温度感を体現している。
この頃のレイフ・ファインズは神がかり的に美しいしね。
エマ役のユマ・サーマンは圧倒的なスタイルの良さで、独特なファッションが似合いまくること。彼女が美しく映っているかどうかだけで言えば、本作はユマ史上最高の作品だと思う。
そしてショーン・コネリーは相変わらずの安定感。シブイ!重厚!カッコいい!を体現したイケてるシニアぶりで、ボンドとしての現役時代よりも、むしろこの時期のコネリーの方が魅力的ですな。
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