キラー・サリー:ボディビルダー殺人の深層_リアル羅生門【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
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(2022年 アメリカ)
ボディビルダー夫婦の妻が夫を殺したというセンセーショナルな事件を取材した全3話のドキュメンタリー。告発する側、される側、双方の視点から事件の真相を明らかにしており、一気見するほど面白かった。

感想

実際の殺人事件を追跡した秀逸なドキュメンタリー

1995年に女性ボディビルダーのサリー・マクニールが、同じくボディビルダーだった夫レイをショットガンで殺害した事件を追ったドキュメンタリー。

私は本作で初めて事件を知ったんだけど、当時は全米メディアがこぞって取り上げたらしい。

ただし事件そのものへの関心というよりも、ムキムキがムキムキを殺したという特異な点への興味本位であり、面白おかしく書き立てられることも多かったようだ。

誤解されている面も多いであろう本件を今一度見直してみようというのが本作の趣旨であり、関係者へのインタビューを基礎として、実に丁寧に事件前後の様子を明らかにする。

監督したのはアカデミー賞ノミネート経験もあるナネット・バーンスタインで、ドキュメンタリーの作り方を心得た監督による抜群の構成力が光っている。

監督はミニシリーズというフォーマットを生かし、視点が変わることで同じ事件でも随分と見え方が変わるということを実に効果的に提示する。その語り口の鮮やかさには舌を巻いた。

第1話:容疑者の視点

第1話では事件に至る夫婦関係を、サリー本人のコメントを基礎として明らかにする。

我々には馴染みの薄いボディビル業界の概要から入り、その中での夫婦の立ち位置や、彼らが一体何に悩んでいたのかを、流れるような語り口で説明してくれる。

夫婦は二人とも海兵隊出身で、軍隊でのトレーニングの延長として始めたボディビルにのめりこみ、アマチュアの大会で成果を上げていた。素質があったのは夫レイの方で、妻サリーは内助の功で支えることにする。

レイの目標はプロ選手になること。そのために仕事を辞めてゴールドジムに通いつめた。大会で勝つために大量のステロイド剤も必要となった。

これに対してサリーは、力自慢大会に出場して賞金を稼いだり、フェチもののビデオに出演したり、強い女性に技をかけられたいという変態達の相手をしたりで金策に精を出す。本作のタイトルにもなっている”キラー・サリー”とは、この一連の仕事でつけられたあだ名である。

彼女の献身の甲斐あってレイは念願のプロ選手になるんだけど、アマチュアでは突出していたレイもトップ選手との比較にさらされると体格差がありすぎて、全く成果を出せない。

キャリアに行き詰まる中で家族に対する夫の態度はどんどん悪化する。レイ自身が幼少期に暴力にさらされており、その暴力が成長後の彼に連鎖したようだ。

レイにはレイで悲しい過去があったのだが、そうはいっても現在の彼はムキムキの大男である。こんなのが襲い掛かってくれば誰だって命の危険を感じるだろう。

そこでやむなく射殺したというのがサリー側から見た事件であり、かわいそうな女性が断腸の思いで愛する人を葬ったという悲しい事件として受け止めた。

ここで終わっても十分に通用するドキュメンタリーなんだが、本作の見せ場はこれ以降に存在する。

第2話:検事の視点

第2話では事件を担当した元検事が登場するんだけど、こいつのインパクトが強烈でボディビルダー以上にキャラ立ちしている。

法廷ものの映画に出てくる悪徳検事そのものの見てくれと喋り方で、こういう奴って本当にいるんだと驚いた。

「サリーはかわいそうな被害者などではない!計画的に夫を殺害した暴力的な人物だ!」と言い切る元検事。

第1話を見終わった後なので「何言っちゃってんの」という感じなのだが、その後に続く検事側の説明と、夫レイに近かった人々の証言によって、最終的にはサリーの証言よりも検事側の推論に真実味を感じるに至った。

不謹慎ではあるが、そこいらのサスペンス映画よりもスリリングな展開だ。

元検事は、サリー自身が語らなかったサリー像を提示する。

彼女は頭に血が上りやすく暴力的で、深い嫉妬心を持つ女性だった。

公衆の面前でも躊躇なく夫に暴力をふるっていたこと、家族の仇と見做した相手に対しては常識をはるかに超える報復に出ていたことなどが客観的な証言で明らかになっていき、彼女の人物評は大幅に覆る。

そして決定的だったのが、事件当夜の状況である。

警察署に収監された際の監視カメラ映像では、一通りの聴取が終わると何事もなかったように床に横たわるサリーの姿が映し出される。

暴力から逃れるため突発的に愛する夫を殺してしまった人物が、こんなにも落ち着いた行動をとれるだろうか。そもそも殺すつもりだったんじゃないか。

ではなぜ夫を殺そうとしていたのかというと、彼が浮気をしていたからだ。

これまた関係者の証言より、レイの浮気という事実自体は疑いようのないものとなる。こうした前提条件のつぶし方がうまいのも、本作のよくできた点だ。実にスムーズに観客を本論へと導いていく。

内助の功で支えた夫が、よその女の方へ行ってしまう。これを重大な裏切りだと感じたサリーの復讐心に火が点き、夫を殺害するに至った。これはサリー側の主張とも一部整合する仮説である。

また一発目の銃弾で致命傷を与えていたにも関わらず、わざわざ再装填してまで夫の顔面に向けて二発目を発射している。彼女は海兵隊出身で銃器に慣れているという背景も込みで考えると、緊急避難的にやむなく撃ったとは言えない状況である。

こうしてサリー側の主張がガラガラと崩れていくのが、第2話の面白いところである。

第3話:社会の視点

そして最終話では裁判と世論の反応が描かれる。

サリーがレイを殺したという事実は確定しているので、正当防衛か殺意を持った犯行かが争点となるのだが、その点ではサリーがめちゃくちゃ不利だった。

上述の通り、当時の全米マスコミが本件をこぞって取り上げており、フェチものビデオに出演していたムキムキ女性ということで、多分乱暴な人だったのだろうというイメージが出来上がっていたからだ。

私は検事の主張通り故殺だと思っているが、それでもこの空気感の中で事実関係を争わなければならなかったサリーには同情する。

驚くべきことに、本作には当時サリーを面白おかしく扱ったワイドショーレポーターまでが登場し、当時の取材姿勢は間違っていたと反省をさせている。なんとフットワークの軽いドキュメンタリーだろうか。

そしてサリーの弁護士も登場するんだけど、これがまた気の弱そうな公選弁護人で、どうやっても悪徳検事には勝てそうにない。

案の定、法廷戦術がうまくいかなくてがっつり有罪判決を喰らってしまうんだけど、いざという時に弁護士代はケチるなという大事な教訓も得られた。

総括:すべてが事実なんでしょう

裁判では被告と検事の意見が真っ向から対立したが、どちらも事実だったのだろうと思う。

法廷では受け入れられなかったものの、サリーが嘘をついているようには見えなかったし、彼女の主張に追従する関係者も多かった。

サリーにとってレイは身の危険を感じるほど怖い瞬間もあったのだろう。私こそが被害者であり、正当防衛で殺したということは、彼女の中では事実だったと思う。

一方、彼女が嫉妬に狂っていたという検察側の主張も客観的に裏付けられており、殺しを決意する大きな要因になったのだろうと思う。

そして彼女の経歴を面白おかしく扱ったワイドショーだって、事実の一側面を切り取っていた。

事実とはどの角度から見るのかで随分と違ってくるものだが、多面的な取材を行った本作では、そのことが特に強く印象に残った。

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