牯嶺街少年殺人事件_凄い!長い!分かりづらい!【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
実話もの

(1991年 台湾)
台湾映画史上のベストワンに挙げられることも多い傑作中の傑作であり、確かに物凄い映画でした。ただし観客の生理への配慮が余りにもなく、4時間という上映時間は本当に厳しかったし、情報整理がされていないので人間関係を掴むことにも苦労させられました。観客に対してかなりのストレスをかける映画だという覚悟は必要です。なお、牯嶺街は「クーリンチェ」と読みます。

作品解説

幻だった傑作

本作はマーティン・スコセッシ監督が90年代のベストワンに上げ、Rotten Tomatoesでも批評家支持率100%を獲得しているという傑作中の傑作なのですが、長く鑑賞困難な状況にありました。

本作は1991年7月に台湾で初公開され、1992年4月に日本公開。当時の日本はミニシアターブームだったこともあり日本の配給会社も本作に出資していたらしく、作品の権利は日本と台湾の複数社に分散していました。

そして出資者のひとつであるヒーロー・コミュニケーションズが1995年に倒産したことから権利関係が余計に複雑になり、リバイバル上映やソフト化ができない状況が出来上がりました。

そんな状況を打破したのがマーティン・スコセッシが設立したフィルム・ファウンデーションとクライテリオン社であり、彼らは複雑な権利関係を整理して2016年に4Kデジタル修復版をリリースしました。現在視聴可能なのはこのデジタル修復版です。

感想

少年犯罪と社会背景

1960年代の台湾で14歳の少年が同世代の恋人を殺害したという実際の事件をモチーフにした作品なのですが、調べれば調べるほど加害者少年に異常な点はなく、当時の台湾社会の混乱が集約された事件だったということが、その着想の元だったと思われます。

台湾は清朝による統治などを経て、日清戦争後の下関条約にて日本領となりました。1895年から1945年までの半世紀に渡って日本の統治を受けたことの影響は1960年代を舞台にした本作にも随所で見られ、人々は日本家屋に住まい、日本の歌謡曲に馴染み、日本軍が残していった武器がそこかしこに存在しています。

こうした武器の存在が主題となる殺人事件にも繋がっていきます。

そして第二次世界大戦での日本の敗戦後には中華民国台湾省になったのですが、1949年に国共内戦で敗北した中華民国政府が台湾に逃れて独立国家であることを宣言したことで、台湾国が成立しました。

本土から台湾に敗走してきた中華民国の関係者達は台湾の支配階層となり外省人と呼ばれましたが、彼らは台湾出身者(本省人)との間で緩やかな緊張感を抱えることとなります。

これもまた、若者達が派閥化して抗争を繰り広げることの背景となっています。

加害者少年の事情

殺人事件の加害者となるのは小四と呼ばれる少年。外省人です。

もともと彼の一家は上海の知識階層であり、都会的で洗練された人々でした。それが台湾に都落ちして普通の公務員になったのだから、彼らもまた時代に翻弄された一家であると言えます。

物語は小四が受験に失敗した場面から始まるのですが、その他の科目では優秀な成績をあげていたにも関わらず、国語の点数のみが著しく低かったため総合で合格点に達しなかったと説明されます。

外省人が苦戦するであろう言葉の問題が足を引っ張ったという点より、小四自身に落ち度のない問題が彼に不利益を及ぼしたと言えます。

結局、小四は夜学に進むことになるのですが、そこはレンガで子分の顔を殴るようなハードな不良グループが席捲するバイオレントな世界であり、図らずも小四は筋の悪い交友関係を築いていくこととなります。

これもまた、小四自身に不良性があったわけでもないのだが、置かれた環境によって武器や暴力というものが日常化していったという殺人事件の背景となっていきます。

そんな中で小四は小明という美少女と出会って中学生らしい恋愛関係に発展するのですが、小四自身も小明も中学生らしからぬハードな状況に置かれていたことから彼らの恋愛は成就せず、小四からすれば彼女に裏切られたかのような展開を迎えます。

さらには、丁度そのタイミングで小四の父にスパイ容疑がかけられて当局に拘束されるという事態が発生。程なくして父は釈放されたものの、拘束中に受けた拷問と、いつ生活基盤を奪われるのかも分からないという人生そのものへの悲観から、父はまったくの別人になっていました。

そんなわけで小四は個人的な悩みを家族に相談できるような状態でもなくなり、余計に精神が荒れていきます。その先に恋人を殺害するという痛ましい事件があるのですが、一連の流れを踏まえると小四自身も社会の混乱の被害者だったと言えます。

被害者少女の事情

そんな小四に殺害されることになるのは小明と呼ばれる少女。

彼女は不良グループのリーダーの元カノであり、その彼氏が姿を消した後には滑頭と呼ばれるその後釜から思いを寄せられています。さらにはバスケ部のイケメンエースである小虎からもアプローチを受けており、まぁモテます。

偶然彼女を見かけた映画監督から「期待の新人として俺の映画に出てくれないか」とスカウトされるほどなので、高嶺の花どころではない存在なのです。

しかし彼女にも辛い家庭生活があって、事情はよく分からないのですが父親は不在であり、中学生でありながら病弱な母の面倒を見ているという切実な事情を抱えています。

いよいよ苦しくなってきた小明は、医師との関係を持って母親の治療費を安くしてもらったり、金持ちのボンボンである小馬との関係を持って住み込み家政婦という職を得たりと、自分自身を売り物にして何とか生活を守ろうとします。

良い関係になっているつもりでいた小四からすると彼女の振る舞いは裏切りともとれるのですが、小明にはそうせざるを得ない切実な事情があったというわけです。彼女もまた激動の時代の被害者なのです。

凄い映画!でも分かりづらいし面白くはない

こうして社会の未熟さや混乱の影響をモロに受けてしまった少年少女が、本来は悪人ではないにも関わらず殺人事件の当事者になってしまうという物語には大変意義を感じたし、伏線が一気に回収され始めるラスト1時間の完成度には舌を巻きました。

本作は間違いなく凄い映画であると言えます。

ただし観客の生理への配慮が余りにもないので、見続けることは苦痛でもありました。

4時間という上映時間は長すぎる上に、BGMも盛り上がるようなイベントもないので、鑑賞中の体感時間は4時間を遥かに越えていました。もはや苦行の域に達しています。

しかも、これだけの時間を費やしているにも関わらず異様なまでに話が分かりづらいという問題もあります。服装も髪型も似たような登場人物が入り乱れ、紹介的な場面もないので誰が誰だかサッパリ分かりません。

さらには日本語字幕の出来が良くなかったのか、登場する固有名詞が人名なのか地名なのか団体名なのかすら区別がつかず、冒頭の1時間は何の話をしているのかすら理解できませんでした。

例えば「小公園」。これは地元の不良グループの名前なのですが、公園と言っちゃってるので私は地名を指しているものとばかり思っており、これが団体名であることが分かったのは2時間を過ぎてからでした。

この情報整理の杜撰さは問題だったと思います。

噂によると、初公開時の日本語字幕は固有名詞にも工夫が施されており、現在のものよりも遥かに分かりやすかったとか。しかも初公開バージョンは188分で現行バージョンよりも48分も短かく、監督も188分をディレクターズ・カット版と認識していた模様。

せひとも188分で過去の日本語字幕を収録したバージョンもリリースしていただきたいものです。権利関係が複雑に入り乱れているので実現可能性は低いようですが。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
実話もの
スポンサーリンク
公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

コメント