検察側の罪人_キムタクvsニノだけが見せ場【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス
クライムサスペンス

(2018年 日本)
2時間では捌ききれないほどのサブプロットが、メインプロットの面白さを奪ったような作品でした。情報量が多くて理解が難しい割には、理解したところで面白いわけでもなく、サスペンス映画としては失敗していると思います。ただしキムタクとニノの演技は素晴らしので、見て損をする映画でもありません。

©TOHO

あらすじ

東京地検の新米検事沖野(二宮和也)は、研修生時代の教官最上(木村拓哉)の部下として配属された。任されたのは老夫婦刺殺事件の捜査だったが、その容疑者として浮上した松倉(酒向芳)という男は、23年前の女子中学生殺人事件でも重要な容疑者として取り調べを受けた男だった。23年前の事件の被害者と親しい間柄だったことから最上は松重の有罪に固執し始め、事情を知らない沖野は最上の方針に不信感を抱き始める。

スタッフ・キャスト

監督・脚色は原田眞人

1949年静岡県出身。『さらば映画の友よ インディアンサマー』(1979年)で監督デビュー。特撮の東宝とガンダムのサンライズが組んだ自称「史上初の実写巨大ロボットムービー」である『ガンヘッド』(1989年)の監督・脚本を務めました。

90年代に『KAMIKAZE TAXI』(1995年)や『バウンス ko GALS』(1997年)で高い評価を受け、『金融腐蝕列島〔呪縛〕』(1999年)以降は社会派のテーマを娯楽作に翻案できる監督として重宝されています。『突入せよ! あさま山荘事件』(2002年)、『クライマーズ・ハイ』(2008年)あたりがその系統の作品ですね。

近年は日本映画界における大作の担い手の一人となっており、リメイク版『日本のいちばん長い日』(2015年)、『関ヶ原』(2017年)などを手掛けています。最新作は岡田准一主演の『燃えよ剣』(2020年)なのですが、コロナ禍の影響で公開が延期されています。

メインは監督業なのですが、英語に堪能であることを活かして戸田奈津子の日本語訳が却下された『フルメタル・ジャケット』(1987年)の字幕製作や、『ラスト・サムライ』(2003年)での大村役などでも知られています。

主演は元SMAPの木村拓哉

1972年東京都出身。1987年にジャニーズ事務所に入所し、SMAPのメンバーの一人として1991年にCDデビュー。『ロング・バケーション』(1996年)、『ラブジェネレーション』(1997年)、『ビューティフル・ライフ』(2000年)、『HERO』(2001年)など多くのテレビドラマで記録破りの高視聴率を記録してきた現代日本のスーパースターです。

映画界では山田洋二監督の『武士の一分』(2006年)、三池崇史監督の『無限の住人』(2017年)などに出演しています。

共演は嵐の二宮和也

1983年東京都出身。1996年にジャニーズ事務所に入所し、嵐のメンバーの一人として1999年にCDデビュー。それ以前からテレビドラマ『あきまへんで!』(1998年)などに主要キャストとして出演しており、デビュー当時の嵐の中では一般的な認知度がもっとも高いメンバーでした。

所属グループ嵐は初動こそ好調だったものの、その後は人気が継続せずメンバー達が解散を危惧するほどの状況となりました。そんな中で受けた『硫黄島からの手紙』(2006年)のオーディションで、受かるつもりのない手抜きの演技がクリント・イーストウッド監督に刺さり、同作の主要キャストの一人となって国際的な評価を得ました。

そんな二宮個人の活躍が起爆剤となって嵐全体も再浮上を果たし、SMAPに比肩するアイドルグループにまで成長したのだから、人生とはどうなるか分からないものです。

作品概要

雫井脩介の小説が原作

原作は映画と同じタイトルの『検察側の罪人』(2013年)。『犯人に告ぐ』(2013年)や『望み』(2016年)で知られるミステリー作家雫井脩介の作品であり、2013年の『週刊文春ミステリーベスト10』の国内部門4位、宝島社の『このミステリーがすごい! 2014年版』で8位に選出されました。

感想

社会的テーマを見失っている

「弁護人はアナザーストーリーを作ってくる。それを排除するのは真相を究明したい、その気持ちの強さだ。そのことを忘れ自分の正義、自分のストーリーに固執する検事は、犯罪者に堕ちる。」

これは冒頭において教官である最上(木村拓哉)が、沖野(二宮和也)ら研修生たちに対して発する言葉です。この言葉こそが作品のテーマなのだろうと思ったのですが、内容は全然そうはなってはいませんでした。

直近の老夫婦殺害事件で捜査線上に浮かびあがった松倉(酒向芳)という容疑者は、大学時代の最上が親しくしていた少女が犠牲となった23年前の女子中学生殺人事件でも有力な容疑者と目された人物でした。

検事としての職責と、個人的な報復感情がない交ぜ状態となり、最上は老夫婦殺害事件で松倉を有罪にしようと躍起になります。しかし、あまりに早い段階から他の可能性を切り捨てて松倉犯行説に絞り込む最上の姿勢に、沖野は危機感を抱き始めます。

この内容であれば、最上は自白の強要や証拠改ざんといった検察官として与えられた権限の範囲内で暴走すべきだったと思うのですが、松倉をブチ込みたいという思いが高じすぎて犯罪行為にも手を染め始めるので、検察官を描く物語にはなりえていません。

「自分のストーリーに固執する検事は、犯罪者に堕ちる。」とは言っても、本当に犯罪行為をさせてしまうと現実味が薄れてしまいます。

また罪を犯すのは最上だけではないのですが、この図式もうまく生かせていません。

沖野は取り調べの過程で容疑者を精神的に追い込んでの自白の強要をしているし、事務官の橘(吉高由里子)はジャーナリストという本性を偽って検察内に潜入し、違法な盗撮や録音などを行っています。

主要登場人物の全員が自分の信じる正義を目指して不正や逸脱などをしている状況であり、この構図によって完全に正しい者も、完全に間違った者もいない中での真実の特定の難しさを描いたものと考えられます。しかし作劇上は最上のみが悪人扱いで、沖野や橘の不正は特に追及されないので、どうにも座りが悪く感じました。

視点を分散させてはいけなかった

また、最上と沖野双方の視点で描いていることも問題でした。

本作の主人公は沖野(二宮和也)であり、憧れの先輩である最上(木村拓哉)と一緒に仕事をできることを当初は光栄に思っているものの、後に最上のやり方に不信感を抱き始めるということが本作のドラマ部分となります。

これは男性映画の定番パターンの一つであり、オリヴァー・ストーン監督の『ウォール街』(1987年)、デヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』(1999年)、アントワン・フークア監督の『トレーニング・デイ』(2001年)などとも共通しています。

このパターンを採用するのであれば徹頭徹尾新人視点で描くことがセオリーだと思うのですが、本作は沖野と最上の双方の視点を交えているために、この構造が活かされていません。

最上は悪のカリスマでなければなりませんでした。たまにダーティな手段をとるものの、圧倒的な実績を積み上げているのだから周囲も彼の問題点からは目を背けているような。しかし本作は最上の苦悩みたいなものに立ち入り過ぎているので、かえってそのキャラクターを殺しています。

もし『ウォール街』(1987年)で金策に駆け回るゴードン・ゲッコーのみっともない姿までを描いていれば、マイケル・ダグラスはアカデミー賞を獲っていなかったでしょう。本作はそういうミスを犯しているのです。

構成要素が多すぎて破綻している

その他、巨悪に立ち向かったつもりが逆に汚職政治家の汚名を着せられた丹野(平岳大)の物語や、本心では犯罪者を軽蔑しているにも関わらず、政治的意図で彼らを救い出している人権派弁護士白川(山崎努)の暗躍、第二次世界大戦下での大失敗とされるインパール作戦への言及など、社会性を帯びた構成要素が本編中に多く登場します。

しかしそのうちのどれ一つとしてきちんと描けていないし、本筋ともうまく絡められていないのだから、これらを登場させたことは失敗でした。余計な枝葉を加えることなく、沖野と最上の対決と、検察官の職業倫理というテーマに絞り込めばスッキリしたのではないかと思います。

キムタクとニノの演技はめちゃくちゃに良い

そんな感じで映画としてはあまり良い出来だとは感じなかったのですが、主演二人の演技は非常に素晴らしかったので、2時間は見ていられる映画にはなっていました。

木村拓哉はさすがのスターオーラ。40代後半でこんなにかっこいい人いる?ってくらいかっこいいです。数々の映画・ドラマで主演を張ってきているだけにたった一人の画でも見ていられるし、演技もうまいと思います。この人の演技は持久力タイプで、高いアベレージを長時間にわたって維持し続けています。

他方、二宮和也は瞬発力タイプ。ファンの方には申し訳ないのですが、普通の芝居をしている時のニノはまったくオーラがないのですが、その分、松倉を取り調べる場面で突然声を荒らげる場面での衝撃度が高まっています。

あの場面での鬼気迫る演技にはすさまじいものがあり、さすがはイーストウッドが認めた演技だなと感激しました。

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