フルメタル・ジャケット_反戦でも好戦でも厭戦でもない写実的戦争映画【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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戦争
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(1987年 アメリカ)
ベトナム戦争中のアメリカ。海兵隊に志願した若者達は国内の訓練キャンプに入れられたが、そこはハートマン先任軍曹からの叱責と罵倒が絶え間なく続く異様な空間だった。彼らはフルメタル・ジャケット(完全被甲弾)に生まれ変わるべく、過酷な訓練で心身をいたぶられるのだった。

©Warner Bros.

最近、「禁断の吹き替え版収録!」と銘打たれたBlu-rayを購入し、10年ぶりほどで再見しました。

元海兵隊員の体験が原作

原作『ショート・タイマーズ』を執筆したのはグスタフ・ハスフォードという人物であり、この人はベトナム戦争時に海兵隊に志願して任期385日の短期兵(ショート・タイマー)を経験した人でした。原作はハスフォードの経験を小説化したものです。

ハートマン軍曹のド迫力

作品を見て度肝を抜かれるのは戦闘場面ではなく、訓練課程におけるハートマン軍曹の暴言の数々です。あれだけ下品な言葉をノンストップでまくし立てる様など見たことがないので、そのあまりの異様さに初見時には絶句しました。そして、「軍隊って怖いところだなぁ」と思ったわけです。おそらくは、訓練時にハスフォードも同じことを感じたのでしょう。

これぞ本物の迫力

フルメタル・ジャケットにはならなかった若者達

では、ハートマン軍曹のしごきを受けて海兵達が変わったかというと、実はまったく変わっていません。後半のベトナムパートを見れば分かるのですが、若い奴らは相変わらず無礼で生意気なままだし、仲間内では悪ふざけばかり。

ジョーカーは軍隊にいながら本国の反戦派のピースバッチを身に付けており、年上の上官たちから「なんでそんなものを付けてるんだ」と聞かれてもまともに返答できません。その上、バッチとは矛盾した”Born to Kill”(生来必殺)というメッセージをヘルメットに書いており、これらのアイコンを深い意味もなくファッションで身に着けているだけという様子です。訓練課程では優等生だった彼にも、海兵魂など微塵も根付いていなかったというわけです。

さらには、彼らには軍隊的な統制も見に付いておらず、現場指揮官から「とどまれ」と命令されても、「いや、俺は負傷者を助けに行く」とか言って飛び出していく始末。戦争映画において、ここまで命令不服従の多い軍隊というのは見たことがありません。

結局、ハートマンのしごきを真に受けていたのは人格を破壊されるに至ったほほえみデブのみであり、その他の訓練生達はハートマンの指導を聞いているようでいて、適当にやり過ごしていたというわけです。

炸裂するキューブリック演出

キューブリックの演出には、突然の場面転換や一見すると場違いな選曲という特徴がありますが、本作でもそのセンスが炸裂しています。

ハートマンを殺害し、ほほえみデブも自殺するという衝撃的な展開の直後に画面が暗転し、ナンシー・シナトラの”These Boots Are Made for Walkin’”の緩いイントロが流れ出した時には、あまりのセンスの良さに感動すら覚えました。

また、戦闘を終えた部隊がミッキーマウスマーチを合唱しながら行軍する場面など、いったい誰が思いつくでしょうか。天才の天才たる所以を見せつけられたような気がしました。

冗長な後半

ただし、ベトナムパート自体は冗長に感じました。戦場らしからぬ緩い会話など外した部分の演出こそ面白いものの、肝心の戦闘場面は単調でさほどのインパクトがなく、この点では『地獄の黙示録』や『プラトーン』といった作品には劣っています。

また、行軍中の部隊がスナイパーに襲われて多勢で無勢を制圧しにいくという展開を2度入れたことも、重複としか感じられませんでした。

反戦映画ではない

ハートマン軍曹によるしごきや豹変するほほえみデブを見ると、本作は軍隊の非人間性を訴えた作品のようにも感じられ、実際そのような評論も多くみられるのですが、一方でジョーカー・カウボーイ・エイトボールといった後半の主人公達が海兵隊にまったく染められておらず、上官に対しても生意気な口を利き続ける点や、心を病んだり、殺人狂の如く暴れ回ったり、無暗にベトナム人を痛めつける者もいない点からすると(「逃げる奴はベトコンだ。逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ」の名言を残したドア・ガンナーは例外として)、『ディア・ハンター』や『プラトーン』のように明確な善悪をつけた映画ではないような気がします。

グスタフ・ハスフォードという元海兵隊員の体験記があり、その原作のエッセンスを忠実に抽出した作品と捉えることが、もっとも適切ではないかと思います。

「禁断の吹き替え版」の価値

今回購入した作品の目玉は吹き替え版だったことから、これについてもレビューしておきます。この吹き替えは劇場公開用に製作されたものであり、字幕を担当した原田眞人氏がこちらの演出も担当し、プロの声優ではなく舞台俳優を中心にキャスティングしたというこだわりの内容となっています。

結局映画館では上映されず、また放送禁止用語が含まれていることからテレビ放送もできなかったことから、「ドえらいものじゃないか」という好奇心を煽られたのですが、実際に見てみると、それほど凄いものという気はしませんでした。

もちろん過激ではあるものの、女帝・戸田奈津子さんをクビにしてまで制作された字幕版がすでに素晴らしい出来であったため、それを越えるほどのインパクトはありません。これはこれで見て損はないけど、過大な期待はしないでおく方がいいってところですね。

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